29 最終話
リビングのベランダの戸口横に小さなテーブルがある。そこには、私と乃地とぽちが仲良く写ってる写真が飾られている。乃地のスマホを解除してもらい、その中に入ってた、たくさんの私達の写真の中の一枚。·····本当にたくさんあった·····私と乃地の、ぽちと私、私一人のを残してくれていた。
一番切なかったのは、別れる数日前に撮られていた私が眠っている写真·····
ありがとう、好きになってくれて。出会えて楽しかった。幸せだった時もちゃんとあった。
何より、今に繋がってる。私と乃地が本当の意味で、お互いを認めて結ばれてから、いつもお花とタバコとササミを添えている。朝起きたら、ここで手を合わせてる。
おはよう、今日も見守っていてね──と。
乃地も時々ここにいる。
私がお風呂に入っている時や、ご飯を作っている時とか、私がいない時にもそうしているかもしれない。
特に何かするわけでも話すわけでもないけれど。
忘れないから、どうか、安らかに
生まれ変わって、俺は数回目でりんと同じ時間を共有できるように出会えた。
そして俺が記憶している、一番初めの俺の生まれた国、イタリアで仕事と学校に通ってる。
故郷になるのだろうか。
結局牧野は大学を辞めて、他の大学に編入することになったようだ。牧野の友達は、そのままだ。友達関係がどうなったかは知らない。
正直なところ、俺が裏で行動を起こそうと思っていたら、東条さん、広瀬さん、溝口さんから諭された。俺の語学力で上に乗し上がっていくことの方が、これからりんを守るための武器になると。
だけど、今から大学資格とか取得する時間が、あまりにも俺にはもどかしすぎる、そう思っているとジョセフジェネレーションズというIT業界でかなりの頭脳と事業センスを兼ね備えた会社のジョセフ=ディクソンCEOから声がかかった。広瀬さんの娘の恋人だそうだ。
会って英語で挨拶から始まり、話をしていると面白く、彼の将来の展望を聞いてぜひ携わらせてほしいと思った。
専門用語は勉強が必要だが、会話は一切問題なく俺のシステム関連の能力も、知識をつければかなりの力を持っているだろうと言ってもらえた。
イタリア語がわかることも、一つの武器となった。ディクソン氏の通訳なども求められ、仕事のかたわら、するだろう大学の勉強費用なども出してくれると言ってくれ、スカウトされた。
願ってもない好条件の話だが、俺の一番はりんだ。
りんと共にいること。
愛するりんに寂しい思いや、すれ違うようなことになることはあり得ないと、それを普通に話すとディクソン氏は初めはキョトンとして、次に『 ワハハハハ』とでかい声で腹を抱えて笑い出した。
『君もそうか!こっち側の人間か!アハハハハッ、引き付き合うんだな』
·····何だこっち側って。犯罪なんかしてないぞ、まだ·····
『認めたくないのか?ははっ。でも充分その資質を出しているし、溺愛、執着、束縛生きていく上で最優先は愛する恋人·····な?』
そういう意味か。こっち側って。
君もってことは、ディクソン氏もか·····
『雅也もだし東条さんも!群れるんだよなぁ、最強だね』
一人でうんうんと頷きながら、ディクソン氏はデスクに置いてあるフォトスタンドの中の女性にキスをしていた。そして俺に笑いかけた後、表情を戻し告げた。
「で?何かなくしたい心配事あるよね」
その言葉に目を見開いた。
·····そしてまっすぐ彼を見て頷いた。
ここなら、りんをちゃんと守れる術を見つけて、愛し合える·····という確信を持って。
俺の対価の支払いは、終わりを迎えたらしい。
ぽちはちゃんと愛されていた。
りんに愛をもらえた時点で終われたらしい。
だから、本来なら牧野に倒され、頭を打ち付けた時点で、命を終えていたはずだった。その証拠に、ぽちの体に戻ってしまったし。·····でもりんが俺がいないと、幸せになれないと願ってくれたおかげで、禁術の対価を払い終わったことになり、乃地に戻ることができた。
りんがどこまで俺のことを、わかっているかは分からない。でも、乃地は違う乃地だということ、ぽちの姿はもう見れないこと、この二つは理解している。
昔話もしなくなった。
そして、前よりも甘えてくるようになった。
一層愛しくなった。
りんにイタリアへは行けないと言われ、諦めようと思ったが、ディクソン氏に、月に二回は日本へ恋人に会うためと仕事のために来るから、俺もそうするようにしてくれると言ってくれた。·····すごい経費だけど。
それでも初めはノーと言うつもりだったが、りんが俺自身のキャリアのため、こんな高待遇で社会に出れるなんてチャンスを、逃さないでほしいと潤んだ目で乞われたら、逆らえない·····その場でとりあえず押し倒した。
やっとりんを幸せにできる。りんと幸せになれる。
生きることを諦めないでよかった。
さぁ、今から10日ぶりに、りんに会える!触れられる!抱きしめられる!
このゲートを出れば·····!
乃地がイタリアから帰ってくる。もうすぐ会える!
10日ぶりくらいだけど。でも、もう何ヶ月も会ってない気分だった。初めは寂しすぎて、毎日ROOMで顔を見て話してたけれど、やっぱり遠く感じずにはいられなかった。
一番最初は空港で乃地の姿を見つけた途端、寂しかったと言って泣いてしまって、乃地は切ない顔でごめんと言って涙を拭ってくれて抱きしめられた。
ああ、幸せだなぁと再会を噛み締めていたら、『やっぱりやめる。りんを悲しませてまでしたいことじゃない』って……慌てて止めて大丈夫だと、私たちの幸せがもっと増えるからと言ってようやく落ち着いてくれた。
それからは泣かない。
頑張って、せっかく色々とお世話をしてくれた皆さんに申し訳ないし、寂しいけれど乃地が経験を積んで、人間的にも成長してかっこよくなっていく姿を見られるのは嬉しい。 心配もあるけれど·····
ジョセフさんやジョセフさんの恋人の由美子さん(ゆりさんの娘さんでもあるが)が、そばで見張っているからと言ってくれてるので、大きな心配はしてないし第一、信じてるいられるから。
それに2年で結果を出すから、そうしたらプロポーズすると言われてる。
プロポーズの予約といって、ブレスレットを渡された。
涼子は、首輪みたいなものね、とニヤニヤしながら言っていた。
18金チェーンに小さなピンクタイヤが付いている、とても可愛いブレスレット。
私も何かプレゼントしたいと言ったら、じゃあ今すぐもらうと言って、また押し倒された·····。
到着のゲートが開かれた。
乃地!
今回も先頭で出てきてくれた。ファーストクラスで帰ってきてるからでもあるけれど。
私を見つけて、破顔するその姿がとても愛おしいし、胸が高鳴る。
スーツも様になって走ってくる姿は、ドラマのようでかっこよくて·····抱きしめられると、柑橘系の香りにふわりとまとわれる。
毎回同じこの状況がとても嬉しくて、抱擁してゆっくり顔を見合わせて、口付けをして。
「ただいま」
「おかえりなさい」
「愛してる、りん。会いたかった」
「私も愛してる、乃地。やっと会えた」
そして、また抱き合う。
現実だと、確かめるように。感じるように。
ありがとうございました
もし評価など頂けたら嬉しいです
もう1話、書いてしまいました
お時間あればお付き合いください




