28 すべての始まりは…
乃地とりんの始まりは実は……というお話です
次話で最終話です
お付き合い頂いてありがとうございました!
「こいつの服汚ねーなー」
「寄るなよ!」
「ちょっと臭いかもー」
街の子供達が騒いでいる。
正確には、いじめている·····一人の少年を。
「うるさい!お前らに迷惑かけてねーだろ」
「かけてるだろう!汚いの見せられたら不愉快だしな」「ああ、匂いも迷惑だし」
「近寄らなきゃいいだけの話だろ」
「こんなとこ歩いてんなよ。売れもしない花なんか売って」
一人の少年はそう言ったと同時に、薄汚れた衣服をまとった、少年の手にあった花を手で振り落とした。
「何すんだよ!!」
「うわぁ!寄ってきた、逃げろー」
「来んな!」
子供達は、からかうだけからかって逃げていった。
「くそ!」
道に落とされた花は、今朝母さんが庭で育てた花を切り取って、持たせてくれたものだ。病気がちな母親は、毎日のように働けない。だから、こんなに服が古くなっても買ってもらわない。そんなお金があるなら食べ物を買って、母親もちゃんと栄養をつけてほしいから····· 父親はどこかの貴族らしいだけど、母親は平民。
偶然、街で困っていた父親助けたことがきっかけで、恋に落ちたらしいけど、相手は貴族だ。結婚なんてできるわけがない。それでも好き合っていたらしく、俺を身ごもった。
父親になるはずだった男は、今は愛人としてしか迎えることはできないけれど、必ず妻にする、準備ができたら迎えに来ると言ったまま14年が過ぎた。
捨てられたんじゃない。
父親は、事故で死んでしまったと、数年後にわかった。乗っていた馬車が事故にあったらしい。その場所の行く先は、こちら方面だったようだ。
母親は、ショックで体調を崩しがちになった。
泣きながら、それなら、死んでしまうくらいなら、捨てられた方が良かったと·····生きていてくれたら、それで良かった·····と。
俺にはそう思える気持ちはわからない。
捨てられた方が傷つくし、腹が立つし、憎い。
正直、恨んでる。
手を出すだけ出して、一人にした·····俺を妊娠させといて、俺がいなければ忘れるのに·····しばらくかかったとしても、誰かと結婚して幸せに暮らせていたかもしれない。
もし独身だったとしても、自分だけならどうにか仕事をして、普通に生きていけたかもしれないのに·····
俺がいるから·····でもそれを言うと、母さんは怒る。
父親は、とても素晴らしい人だった、その人の血を引いたあなたを授かれたのは、この上ない幸せだと。
もう売り物にならなくなった花を、拾い集めながらやるせない思いで、イラついていた。
「汚れちゃったの?」
声のする方に顔向けると、小さな少女が俺を見下ろしていた。
あどけない顔だけれど、目鼻立ちもはっきりした、白い透き通るような肌に、フロンドの髪。
まるで人形のようだと見入ってしまった。
「ねぇ、聞いてる?」
その言葉で我に返った。
「あ、ああ·····そうだよ。可哀想なことをした」
「かわいそう?」
土の上に落とされた花は、少し土が突き汚れている。拾ってバラバラに束ねているから、余計初めとは比べ物にならないように見える。それを見ても可哀想という言葉の意味がわからないのか、不思議そうだった。
「かわいそうじゃないよ」
「え?」
「だって、ちゃんと生きてるよ。枯れてないもん。ほこりっぽいけど、ちゃんと生きてるよ。生きていれば、キレイにしてあげて、花びんに入れてあげれば大丈夫でしょう?ね?」
少女は、うんうんと、自分の言った言葉に満足して頷いてる。それが愛らしく面白かった。
「ハハハハッ」
「なーに?なんで笑うの?」
少女はちょっと顔を膨らませて、俺を睨むような顔するが、それがまた可愛らしかった。
「ごめん、ごめん。でもありがとう。花を落とされて、ショックで腹が立ってたけど、その言葉で気が晴れた。確かにそうだよな·····生きてるんだから、またやり直せる。これあげるよ」
そうだ。
生きていれば、いくらでも道はあるはず。
少女に励まされたような気がして、なんだか嬉しくなって、思わずあげると言ってしまった後に、急激に落ち込んだ。
(しまった、こんなどこかの貴族の令嬢が、こんなの受け取るわけなかった…)
きっと嫌な顔されると思って、すぐ差し出した手を引っ込めようとしたら、ぱっと手を掴まれた。
「なんで引っ込めるの?くれるんでしょ。気が変わったなんてなしよ」
片方の手は俺の手を握り、もう片方の手は、人差し指を口元に当てて言った。
「いや·····本当にいるのか?」
「くれるなら欲しいわ!くれるって言ったでしょ?」
「·····言った·····はい」
「ありがとう!私の家においで?家に帰ったら、花びんにいれたげるからね」
花に向かってそういった少女の近くに、いつの間にか年配の男性が来ていた。
「あっ、お爺様見て!リンダ、お花もらったわ!」
「おお·····良かったな」
少女の方を見て、優しく微笑んだ。
この男もやはり上質の背広を着ていて、貴族だと言わんばかりの雰囲気だ。
少女がお爺様をと言っていたが、まだお爺様と言われるようには見えない。
少女を見ていたその目は俺の方に向き、もう一人そばにいた本当に初老の男に、手を出して乗せられた札を俺の方に持ってきて差し出してきた。
「これで足りるか?」
「··········」
こんな大きな金額の札に出せる、お釣りなんか持ち合わせていないし、そもそも売り付けるつもりもない。売り物にならず、ダメになった花を少女が貰ってくれた。
·····正直、このお金があれば、母さんに美味しいもの栄養のつくもの、たくさん買ってあげられる。でも受け取ってしまえば、俺自身がもう少女に正面から顔を合わせられないと思った。·····そもそも、今会ったばかりだし、もう会えないだろうけど·····
「お爺様、私はこのお花をもらったのよ。プレゼントしてくれたの。ね、あ、お名前まだ聞いてなかった。あなたのお名前は?私はリンダ」
「·····俺は、ディーノ」
「ディーノ!かっこいいお名前ね!」
「ありがとう·····君も可愛い、綺麗な名前だ」
「でしょ!ありがとう。美しいって意味なの。お爺様が付けてくれたの。ね、お爺様。·····お爺様?」
「ディーノ?·····ディーノ·····という名前なのか?」
少女のおじいさんは、驚いた顔で俺を見ていた。
名前がおかしいのか?
こんな汚れた服を着ていて、この名前はおかしいのか?
ディーノという名前は、父親になるはずだった男の名前らしい·····
「·····君の父親は?いるのか?」
俺の身なりから、孤児の可能性が高いと思っているんだろう。
「·····いない·····でも捨てられたわけじゃない」
どうしてか聞かれてもないのに、そう言ってしまった。かばう必要なんかないのに·····酷い親と思われたくないと、一瞬思ってしまった。
「なぜ·····いない?」
「·····」
正直に言ったところで、所詮騙されたとか、逃げたんだろうと思うだろう。
黙っていたら、少女が重い空気を割って声を出した。
「ディーノっておじさまの名前と同じね!ね?おじいさま」
「ああ·····そうだな、リンダ」
「お爺様がディーノおじさまのお話したくないのと同じで、あなたもお父様のこと話したたくないの?」
「えっ」
·····少女の純真さは、時に深く突き刺さることがある。 背けていたいこと、触れないようにしていたことを、いとも簡単に浮上させ向き合わざるを得なくさせる·····
そうだ。
(誰になんと思われ言われようと、母さんが信じている人なら、俺も信じるんだ、信じたいんだ)
心のどこかできっとそう思ってたんだろう。
俺はまっすぐ少女のおじいさんを見上げた。
「俺の父さんは死にました。俺が生まれて間もなく、母さんを迎えに来る途中だったそうです」
迎えに来る、そういった時点で、一緒に暮らしていなかったとわかる。おそらく、普通の間柄じゃないと気づくだろう。
この目の前にいる男性も·····
「まさか·····父親の名は?なんという?」
「同じディーノ·····父さんと同じ名前を付けたと言われてます。身分差があったと·····聞いてます」
「なんてことだ·····!確かに·····目元が似ている。ディーノ·····」
「お爺様?おじさまはもっとお年を召してらっしゃるでしょう?」
「いいや、違うんだ。メイリン·····違うんだ·····この子だ」
ゆっくり目に涙を浮かべ、俺を見る目は悲しく、でも嬉しくもあるような微笑みを浮かべた。
自分の子供だった人を思い出してるのか。
「君の母親は·····もしかして·····」
「·····生きています。ただ体が弱くて、あまり外に出ていません」
「そうか·····だから、こうして君が稼いでいるのか」
「稼げるという程でもないですが、これしかないので」
勉強するための学校もほとんど行かず、生きるための金を稼がないといけない。
15歳にもなって何の知識も技術もなければ、稼げる仕事にもつけない。
「君の母親に会わせてもらえるか」
「えっ何で·····」
何を言ってるかわからなかった。でも母さんは、ディーノという俺の名前は父親の名をつけたと言っていた。 そして、この男性の、おそらく息子に当たる人の名は·····
まさか·····まさか!俺はその考えに至った瞬間、男性の顔を見上げた。
俺の頭に手を乗せ、くしゃっと撫でて、そして抱きしめた。
汚いと街のやつらに逃げられている服の俺を包み込んだ。
❄︎••┈┈┈┈••❄︎••┈┈┈┈••❄︎
俺は今、あの爺さんの家にいる。
あれからすぐ家に連れて行って欲しいと言われ、母さんと会った。母さんはものすごく驚いてた。
そして、ベッドの上で土下座した·····
母を迎えに来る途中、事故で亡くなった。
裏を返せば、迎えになど行かなければ、父親は死なずに済んだかもしれない·····母さんはずっとそんな思いを胸に抱えて、生きてきたのかとショックを受けた。
でもそんな母さんに、じいさんは『あなたと会った頃からディーノは変わった。あまり感情を出さず、何も興味を示さず、いつかはちゃんと継ぐのだから、それまでは自由にさせてくれと、投げやり的に生きていた息子がどんどんいい顔するようになり、仕事も驚くほどの成果を出した。なのに、私は欲を出した。皇族と親戚関係が持てるかもしれないと·····あなたの存在を知り、別れるように仕向けようとした。ディーノはそれに反発した。当然だ。彼の情熱の起因は、あなただというのにな·····私はまだ気付かず、あなた達を追いやろうとした。それをディーノに知られ、あの子は·····あなたの元へと急いだんだ·····私のせいだ。私が死なせてしまった·····すまない。申し訳ない····』
そう言って、俺たちに頭を下げた。涙を流しながら·····酷いことをしたし、自分の息子の気持ちも考えない、最低な親だと思ったが、ここに来て、貴族のしきたりやなんやかん学ばされていると、分かったことがある。
平民として暮らしていた俺たちに、侯爵家当主が頭を下げるなんてあり得ないことだったと·····それほど悔いていたし、父親を愛していたんだろうと理解できた。
謝罪の後は、母さんと爺さんは思い出話で、父親を偲んだ。
俺がもう疲れたはずだから、横にさせてほしいと頼むと、つい話し込んでしまったと気遣ってくれた。
近くにいた執事に、全ての荷物を数日内に家に運ぶように指示をした。
その後で、是非侯爵家に来てほしいと乞われた。
母さんは自分は他人だから、俺だけ連れて行って欲しいと言ったが、俺はもちろん爺さんも首を縦に振らなかった。
『ディーノは、あなたとこの子のために屋敷を整えている。別邸も作らせていた。だから来てくれることが、ディーヌへの供養だ。お願いだこれ以上ひどい親にさせないでほしい·····それに私も娘が欲しかったんだ』
じいさんは、母さんの手を握り説得してくれた。
翌日とりあえず先に母さんと俺が連れていかれ、そこには既に医師が待機していて、すぐ母さんを診察してくれた。
精神的に弱っているのと、栄養が足りていないらしい。でもここに来て、しっかり栄養をとり適度に運動すれば、すぐ元気になるだろうと言ってもらい、みんなほっとした。
母さんが命に関わる病気じゃなくてよかった·····
母さんと俺は父さんが建ててくれた別邸で生活している。本邸で一緒にと言ってくれたけれど、母さんが父さんの気持ちに沿いたいとの同時に、平民であることをわきまえているから。ただ、じいさんの強い頼みで、食事は一緒にとっている。
そして、じいさんは父さんの話をお母さんにすることで、失った悲しみを癒しているのだろう。母さんもしかりだ。
今では本当の親子のように、爺さんが出かける時は付き添っている。
侯爵を継いでいるのは、爺さんの親友の次男にあたる人らしく、急な俺という人間がやってきて、驚きはしていたが、会えて嬉しいと歓迎してくれた。父さんとも仲が良かったから、俺を見て泣きそうになりながら歓迎してくれた。
子供はリンダだけみたいだから、俺に爵位を継がせることも抵抗ないらしい。侯爵夫人も優しい人で差別などなかった。何より、リンダなぜか俺をとても慕ってくれる。
リンダは実はとても人見知りらしく、初対面でまず話すことはないらしい。向こうから、すんげえ喋ってきたのに·····そんなリンダが俺となら出かけたり、お茶会にも行くようになったりしてくれたため、夫婦としてありがたがってくれている。
こんなに人生変わるものかと思わずにいられない。
この侯爵一族は魔術を扱う能力が、かなり優れているらしい。王家もこちらを敵に回さないよう、かといって、この国を手中に納めようなどと考えないよう、うまく手綱を握っているらしい。
·····果たして、俺にその能力が備わっているのかは、疑問だけど·····でも、爺さん達一族は、その人に能力が備わっているか見ることができるらしく、俺にもちゃんとあるけれど、やはり体内から生み出すには気をためないといけない。そのやり方は、学ばないといけない、とのことだ。
·····別の世界の話に思えるが·····
食事も豪華で、もう明日の食べる心配をする必要もない。
でも忘れたわけではない·····今だって、以前の俺と同じ境遇の子どもたちが、未来を見いだせないまま食べるものを求めて生きている。
俺はこの恵まれた場所で、そんな人達が希望を持てる事業などを興したい。その為にたくさんのことを学んでる。そんな思いを巡らせて、今日も勉強していた。
「ディーノ兄様!遊びましょう!」
突然のノックもなしに、リンダが愛らしい笑顔と共に入ってきた。
本当にいつもそうだが、天使が舞い降りたのかと思ってしまう神々しさ·····美しさ、愛らしさ。
「ふぅ·····お嬢様、毎回申し上げておりますが、ノックをなさいませ。そしてただいまディーノ様は、お勉強中です」
家庭教師の先生は慣れてしまった、このやり取りを相も変わらず、全く同じ文でリンダをたしなめる。
「あら、ごめんなさい。もう終わったと思ったの。ほら、日があんなに高く登ってるから。兄様、ごめんなさい、怒った?」
毎回よく色んな言い訳を思いつくなと笑えてしまう。そしてごめんなさいも全く思っていない。挨拶のようなものだ。
「ふふ·····構わない。怒るはずもない。わかってるだろう?あともう少しで終わるから、待ってて」
「はい!」
リンダは一層嬉しそうに、満面の笑みを浮かべて頬を赤らめる。
ああ、本当に可愛い。
初めて出会った時は、まだ幼い少女だった。
今、俺に笑いかけてくれているリンダは、少女から女性になりつつある。
リンダは俺にいつも言う。
『将来兄様と結婚する!』と。
家族はブラコンのリンダの暴走と見なしている。
俺もそう思っている·····でも、でも、もし本当に大人になった時も、リンダがそう言ってくれるなら·····
いや、そう思ってもらえる力をしっかりつけたい。
元平民だと差別するやつらも多いこの世界で、それでも跪かせるほどの力をつけてやる。リンダを幸せにするために·····俺がいることでバカにされないように。
いつの間にか、愛してた·····18歳になったリンダ。
華やかな愛らしい顔立ちの中に、秘めた芯の強さを持つ、中から滲み出るような美しい女性になっていた。
そして、俺は23歳になり、思ってた以上に結果を出せて、爺さんの期待は遥かに超えていたようだ。
1年の留学を終え隣国から戻ってきて、もうすぐリンダや母さん、じいさん達に会える。1日列車に乗り、もうすぐ駅だ。
リンダ──彼女に受け取ってもらいたい、この箱の中身。
もう元平民のくせにという奴はいない。それは遥かに超える実力とこの国にもたらした利益。
幸せにするという自信もついた。
箱を開けると、ダイヤモンドが深い輝きを放っている。揃いのイヤリングもリンダに似合うと思い、買わずにはいられなかった。
どんな顔で受け取ってくれるか、想像するだけで楽しい·····幸せだ。
駅に着き、迎えに来ているはずの、侯爵家の馬車を探していたら、俺の名を呼ぶ声が聞こえた。
──あの恋しい声が·····
「お兄さまーっ!兄様、またカッコよくなってる!一層!」
見た目の、はかなそうな雰囲気を見事に裏切る、はしゃぎながら手を振り·····そんな君が愛おしい。そう呟きながら、手を振り返しリンダの元へ·····その時、少し離れたところから騒がしい声と音が、徐々に大きくなっているのに気づいた。それが何かを察知した瞬間、俺はリンダの元へ駆けつけた。
「リン·····!」
なぜか馬車に繋がれていた馬が、急に興奮状態になり暴走を始めたようだ。その馬のがリンダのいるところに、まっしぐらに──
ド───ン!!
間一発、リンダの腕を思いっきり引っ張り、馬に当たることのないところまで振りやり、瞬時に、投げられ大怪我をしないよう、魔術を地面にゆっくり体がつくようにかけた。簡単な動作なら、瞬時にかけることができる。上級技術を持つものだからできる。でも命を守るような魔術は早くても30秒はかかる。だから、俺が飛び込む方が早かった。ただ、それだけのこと·····
リンダは俺の向かう所とは正反対の道にふわりと落ち、俺の体は馬に体当たりされ、飛ばされ、地面に叩きつけられた。
「いやーっ!!ディーノにいさまっ!!」
あんな声は初めてだ·····リンダは怒っていても、いつもオルゴールを聴いているような、心がふわっとなるトーンなのに·····ああ、体が·····息ができない·····やっと会えたのに·····やっとお前を·····
「〰︎〰︎〰︎〰︎〰︎」
「なに?なんてっ?いやっ!ディーノ!何言ったのっ·····目を、目を閉じちゃダメ!起きなきゃ·····私の·····っく·····旦那様になって·····くれるんでしょう?いや·····」
涙をぽろぽろと·····そんな顔してちゃ·····妖精のような綺麗な顔も·····台無し·····でも·····どんな·····のでも··········
「あ、い·····して·····る··········リン·····」
「ああ·····あーっ!」
俺の頬に、顔を擦り付けてる·····あったかいな·····やわら·····かい。リンダのいい香り·····
「ディーノ·····すまんかった·····私がいながら」
「おじ·····い·····さま·····」
いや、爺さんは悪くない·····感謝してるんだ。
俺をここまでしてくれたこと·····
リンダに会わせてくれたこと·····
リンダを娶らせてくれるよう、協力してくれたこと·····
なのに·····こんな·····俺はつくづく·····
もう、時間がないな·····
「ディーノ·····お前の掛けた術はすぐにはかなわんぞ。わかってるな?」
「··········」
声には、もうできず少し口角を上げて返した。
地面に叩き着けられた後、俺のかけた術·····俺とリンダは必ず結ばれる·····
自分の得の為の呪術·····禁術とされている·····それを叶えるには、それなりの対価が要求される。それはどんな形かはわからない·····人と人かも·····
「ディーノ·····置いてかないで·····愛してるの·····ごめんなさい·····私の、せい·····」
意識が遠の中、リンダの顔だけがしっかり見れた·····
俺の愛する家族がこの先も幸せであるよう·····に
ごめんな、リンダ·····お前は、お前だけは、俺のものだから·····
リンダは俺以外の男とは結ばれない·····万世不易の如く·····ただ結ばれるのは、簡単ではないだろう。禁術を使ってしまったのだから·····でもそれでも必ず──
ディーノの最期は愛する人に抱きしめられ終えた。
禁術を使った対価。
俺だけが、輪廻転生しても記憶がずっと残る。
リンダが他の誰かを愛すれば、その生は終わる。
人と動物·····人と植物·····人と人
同時期に出会えるとも知れぬ、地獄かもしれない始まりだった·····




