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手術の経過も良く体調も安定してきた頃、刑事がやってきた。
もっと早くにも来ていたらしいが、米倉先生らがまだ面会謝絶だと言って守ってくれていた。事実、頭部をかなり強く打っているから、刺激を与えるのは御法度だ。 2人で来た。
俺を見る目が冷ややかだ。こう何回も他人によって傷つけられると、俺が相当悪そうに感じるのだろう。
りんが大学の日でよかった。りんが傷つく顔は見たくない。
「容体は落ち着いたようだね、やっと。しかし·····こう、二回もこんな事件に巻き込まれるとは、不幸だね·····まぁ身から出た錆というやつかもしれないけど·····」
嫌味っぽく言ってきた。
「·····相手はどうなりましたか」
「逃げた後捕まえて事情聴取したけど、初めは自分は何もしていないとか、向こうが君が手を出してきて、身の危険を感じたからだとか言ってたよ」
「·····俺はりんを助けに行っただけです。りんを襲おうとしていた、あいつを止めに入っただけです」
「ああ、裏取りの為の目撃者を見つけるのが難しそうだったけど、しばらくして君と同じ職場の女の子が来て、経緯を話してくれたから、牧野智也が君に暴力を振るったことが証明された。
後は、牧野智也の友達も以前から葉山りんさんへの執着が見られていて、心配していたという証言も得たからね」
「·····君は相当恨まれているのかもな。いろんな人から」
俺の自業自得だと言わんばかりの言い方と態度だった。
「·····確かに、昔の俺は彼女を悲しませることをたくさんしたと思います。けど、死にかけて記憶がなくなったことで、彼女の大切さや彼女への気持ちに改めて気づかされました。だから、もう間違えないし、昔の俺じゃありません。
今回は、牧野ってやつとをもっと警戒できなかった、俺が悪かったと思っていますが、牧野の好きな人に対する、間違った行動と思考を咎めるべきで、俺を責めるのは違うでしょう。そういう感じで攻めてもいいなら、あなた達は市民を守るためのいるんだから、あの公園の死角になるところにカメラ配置するとか、パトロールすることをしていない責任はどうするんです?」
正論で攻めてやった。わざと逆撫でするような言い方で。本心でもある。それなりに防犯対策をしていれば、りんがあんな目に合わなかったかもしれない。
「な、何を!屁理屈だろう!」
自分たちの怠慢だと言われプライドが許さないのだろう。一般市民に·····被害者であり、傷を負わされた被害者でもある俺にムキになってる。
「·····そもそも、本当に記憶がないのかも怪しいものだろう」
一人の刑事がやり返しとばかりに攻撃してきた。
「面倒なことから逃げて、養ってもらうつもりなんじゃないのか?」
「人間そう簡単に変われるもんじゃないからな。俺たち警察はそういう人間をずっと見てきたんだ。
自分が被害者のように見せたり、人から同情心を得るのが上手い、寄生虫のように·····人にくっついて生きていく」
「彼女も可哀想なんじゃないのか?君に巻き込まれてたようなものだろう」
お前らに何がわかる。
·····以前やってきたことは、決して許されることじゃない。·····けど、本当は、本当に好きだった。ただちゃんと向き合わなかった·····悪いやつじゃない·····本当は一緒にいたかったんだ。だからこそ、今の俺がりんを誰よりも幸せに愛し尽くしたい。命の限り·····
「一応喧嘩という処理はできるが、被害届を出して訴えることもできる。そうすれば、間違いなく相手は執行予もつくかもしれないが、有罪になるし社会的にも制裁は下されるだろう」
「俺に若者の喧嘩か犯罪どちらにするか選べと?」
「··········」
「向こうは、りんを危ない目に合わせてる。
以前もそれらしい行動があった。今回なかったことにすれば、また近づいてくるかもしれない。何かあってからじゃ遅い、あいつはストーカーだ。あの男の執着は危ない。りんを襲う·····このままじゃ」
「·····じゃあ訴えるということだな。また何回か聴取があるだろう。手続きも必要だ。弁護士を通した方がいいと思うが、心当たりは?」
「探します」
「裁判を起こすとなると、君の身辺も色々探られるはずだ。それが不利になる場合もある」
·····確かにそうだ。俺の昔は酷かった。
学生の時は、何度か警察にも世話になってて、本当に勝てるだろうか。
牧野を諦めさせることができるのだろうか·····いや、俺が守るんだ!
-「りんを守ると誓った。誰よりも大切な·····自分の命よりも·····」
思わず口に出してしまい、しまったと思った。どうせ俺に対していい感情を持ってない。
この二人は笑うだろう。
扉が開いたと同時に、早く聞きたかったこの声が部屋に響いた。
「乃地は、昔の乃地じゃありません!乃地の中身を知らないのに·····っ」
「·····りん」
大学から急いで戻って来た様子が見て取れる。
息を切らして·····米倉先生から連絡がいったのか。
「今の乃地は、私をちゃんと大切にしてくれています。自分のことより、私が幸せで笑顔でいられることを第一に考えて行動して、守って側にいてくれてます。今回の事件は乃地がもたらしたものじゃないのは、刑事さんならわかるはずです。罪を犯した人の背景に、情状酌量の余地があるかのような認識の仕方はやめてください」
2人の刑事はぐっと、黙った。
少しの間の後、一人の刑事はまだ自分の考えは、間違っていないと、主張するかのような顔つきでりんに言った。
「君は騙されているかもしれないよ。人はそう簡単に変われない·····君のような優しい子を丸め込むのは、優しく同情誘うような話をすれば、難しいことじゃないんだ。信じたい気持ちはわかるがな·····」
一人の刑事がりんの気持ちを揺れさせようとする。
でも·····そう思われても仕方がないのか。
りんは動揺する?信じるか?
「乃地は違います。この人は、以前の乃地じゃない·····生まれ変わったんです。本当に何もかもが違う」
そう言いながら、俺のところまで来て手を握ってくれた。·····俺も握り返す、痛くない程度に力も込めた。離したくない、離れたくないという思いで。その手をそっと持ち上げて、優しく口付けをしてくれた。
·····まるで·····
·····りんわかってる?知ってるのか?俺が·····
キスしてくれた自分の手から、りんへと視線をゆっくり映せば、きっと俺が驚いた顔をしているのは出ているだろう。
りんは少し困ったように微笑んだ。·····そして頷いた。
「相手はそこそこの家柄の息子のようだ。やり手の弁護士を連れてくる可能性が高い。そういうことと、さっきの君の過去が明かされるということも考えて、いろんな選択肢を考えた方がいい」
もう一人の刑事の口調が変わってた。しかも、俺のことを考えているかのような言葉だ。
怪訝な顔をして見ていると、バツの悪そうな顔になった。
「·····私の娘も以前ストーカーに苦しんだ」
「!·····今は大丈夫なんですか?」
「ふ·····心配するのか?憎まれ口を叩いてくる刑事の娘を」
「·····娘さんには何の罪もない。りんと同じ恐怖を味わったかと思うと、気の毒なだけだ」
「2年間苦しめられた挙句、襲われそうになってな·····ギリギリのところを助けられた。そいつは娘以外にも、ストーカーの過去が何回かあって、親が完全に見放して、精神病院に入れられてた·····そこもかなりの資産家だったな」
「良かったですね·····娘さんの心の傷は消えることはないだろうけど·····大事に至らなくて」
「·····一生私達が支えていくつもりだったんだがな·····」
悲しそうな顔でうつむいた。
もしかして·····
「いつの間にか助けてくれた男と仲良くなって、結婚しやがった」
「·····」
取られた寂しさかよ·····
「ひどいことにならなくて良かったです」
「そうだな·····本当にそう思う。彼がいなければ、娘は生きていなかったかもしれない·····分かってるんだが·····子供みたいだが、私が娘のヒーローになりたかったという思いがどこかあった·····」
「えっ·····」
「··········」
そりゃ、りんも驚くよ·····愚痴かよ。りん·····引いてる?
「ふふ·····今幸せだからこそ出てくる感情ですね」
「ああ·····確かにその通りだ。君の笑顔も·····」
「あっ、はい·····本当にそうですね」
「自分の命をかけても、守ろうとしている君はやはり変わったのか·····過去に囚われていては、真実にたどり着けなくなって、真犯人を逃してしまう恐れもあるな·····改めて刑事という立ち位置を考えないといけない·····どうあるべきか·····悪かったな」
もう一人の刑事は態度を変えなかったが、この刑事は自分の命よりも大切な娘を失うかもしれない恐怖経験をしたからだろうか、俺の言葉を信じ受け入れたようだった。
その後はどうしてそこに行くことになったか、行ってどうしたか、相手はどんな状態だったかなど聞かれた。 りんは俺が手術後しばらく眠っている間に、聴取を受けていたらしい。心配かけるのはまだよくないと思い、退院して落ち着いてから話すつもりだったらしいが。
最近はすごくしっかり、自分の意見や気持ちを言えるようになってきていたが、その辺はやっぱり昔と同じでのんびりしてる·····りんらしいと思った。




