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「ありがとうございました。またお待ちしております。お気をつけて」


乃地がお店の外まで送ってくれ、挨拶をしてくれた。

このお店のスタイルらしい。

特別感があって、素敵なランチタイムの締めくくりと感じさせてくれる。

…それに、私にだけの合図というか、微笑み。

嬉しい。


「ごちそうさまでした。美味しかったー。またりんと来ますね!」


昔の乃地を知っている涼子。帰る頃には、警戒は薄れ前のような感じじゃなく、『ましになってそうね』と言ってくれてる。

さっきの牧野くんの件があっても、ちゃんと謝ったことの方にポイントは上がったみたい。

男子達も途中の良くない雰囲気などなかったかのように、また来ますと言ってくれた。

牧野くんは何も言わずだったけど·····気分は悪くなさそうだから良しとしておこう。乃地と個人的に話すことはなかったけれど、きっと大丈夫だと思う。

でも帰ったら聞いた方がいい。

聞かなければ、とも決めている。前のように何も言えず、聞けずの関係ではいたくない。

そんなのは、もう嫌だから·····


乃地も

言いたいことは言って欲しい。

お互いちゃんと向き合って話し合いたい。

本当の関係を作っていきたい。

と言ってくれていたから·····


「葉山、この後どっか行かない?

先に津山くん、村瀬くんとは別れて涼子と牧野くんと私の三人で帰っていた。


「どっかって?」


涼子がすかさず聞く。私ももちろん誘われてるのよね、と言わんばかりに。


「····どこでもいいけど」

「誘うつもりなら、場所決めて誘いなさいよねー、りん」

「はは·····ごめんね、私今日は帰らないと」

「·····そうか。葉山、あいつ、彼氏に義理だてしてるなら、彼氏にも良くないんじゃないか」

「義理だて?」

「付き合ってたからって、面倒見ないといけないわけじゃないだろう。別れたんだから、向こうも大人なんだから、自分のことは自分でできるだろう。逆に世話しすぎると、甘えてしまって自立できなくなるぞ」

「あ·····」


確かにそう。牧野君の言ってること全部その通り。

私がいつまでもいる必要ない。

彼はもうきっと自分だけでも、記憶なくても、それなりにやっていける。

働くところも、住むところもあるんだから。

でも·····


「うん、そうだね、ちょっと離れる時もあっていいかもね、そろそろ·····でも、とりあえず今日は帰るわ。洗濯も溜まってるし」

洗濯溜まってないけど、そういった方が帰りやすい気がしたから。


「そうか」

「じゃあ、また連絡するね、りん」

「ありがとう、涼子、牧野くん。またね」


涼子は、みんなの前では言えないと思って、LIMEでメッセージくれた。


【前と違う感じがする。あんたのこと大切にちゃんと考えてそう(*´︶`)今日の感じでは·····】


涼子らしい。

【今日の感じでは】

取り繕ってる可能性もある。


涼子は簡単に人を信用しない。それがちゃんと表れてる。

「ふふ」


牧野くんに対しての説明を聞くこと。

聞かないといけない。

乃地がどんな態度で反応するか、ちょっと怖い。大丈夫とは思ってるけれど。·····でもこういうことを繰り返して乗り換えていかないと、私達は先に進めない。

私がこれからどうしたいのかも、決心がつくような気がして·····




ピピ、ピピ、ピピピ

ガチャ

パタパタパタパタッ!


慌ててる感がすごい·····


「りん!!」


リビング兼キッチンの扉を勢いよく開け、必死な顔で汗だくの乃地が現れた。


「わ!どうしたの!?何っ」


すごく驚いた。

あまりに勢いよくて、乃地に初めて見られる光景で。 私の姿をじっと見て確認し、安心したようで。


「はぁー」と息を吐く乃地の姿に、ただただ呆けに取られた。

びっくりしてる私に、少し笑って床に座り込んだ。

ただ一言


「良かった」

「ん?何?何が良かったの?」


必死な感じは伝わるし、安心したんだろうなというのもわかる。


「怒って、見損なって出ていったのかと·····」

「えぇ·····、なんで、そんな風に思ったの?」

「·····スマホ見てない?さっきからLIMEもしてたけど·····全く反応ないし·····だから·····怒って、愛想つかせて出ていってしまったんじゃないかって·····はぁ」


まだ息を切らせながら、なんとか言い終えた。


「LIME?あっ!そういえば見てなかった!気づかなかった、ごめんね!私、何か考え事してて、バックから出すの忘れてた。作り置きのおかず作ってて、集中してたのもあったし」


帰って落ち着かなくて、色んな思いを持て余して考えすぎないようにストック用のおかずを作ってた。

ひたすら·····


「いや、いいんだ。りんがいたから·····いいんだ」


本当にほっとしたという感じだった。

私がいなくなるのが、そんなに怖かったの?いないと困るから?

安心した乃地は、ソファーに座った。


「大丈夫?」

とりあえず、汗をかいているようだったから、タオルを渡した。


「うん、大丈夫だ。ありがとう」

「·····乃地聞きたいんだけど」


ドキドキした。

でも今がタイミングだと思ったから。

聞きそびれて、自分の中でグジグジするのは嫌だったから。


「そうだな。うん、その前に、今日はごめん。友達の前で見損なった?·····よな」

「乃地·····正直に言うと·····元の乃地に戻ったのかと一瞬思ってしまったけど、でも今の乃地は急に怒ったり、手を出したりってなかった、どんな時でも。だから·····今日も掴んでしまったけど殴ったりとかは·····してないし」


なんだか庇ってるみたいだけど·····


「りん」


少し嬉しそうに驚いたような表情をしていた。

何かあるから·····きっと理由があるはずだと思った。


「どうしてか聞かせてもらえる?」

「うん。·····牧野ってやつは·····りんは飲み会に迎えに行った時のことを覚えてるか?」

「えっ、うっ、うん。·····もちろん覚えてる」


忘れるわけない。だって、あの後から乃地が変わっていったから·····最後にくれた優しさだったから。


「りんが忘れたのも取りに店に戻った時、」

「うん、涼子と戻った」

「その時、あいつ、牧野ってやつが言ってきたんだ。りんと不釣り合いだって、りんのヒモになろうとしてるのかって。本当は、りんはもう別れたいって言ってたけど言いにくいから、別れようって言ってくれるのを待つことにすると言ってたから、別れてやれってな」


「!?なんで!?なんでそんなっ·····それを信じたの?」

「·····信じたんだろうな。あ、いや、きっと違う·····でも、りんを好きで別れたくなくて、聞いたら別れるって言われるかもしれないから聞くこともできなくて·····だったと思う·····」


「どうして!どうして·····一言、言ってくれたら·····聞いてくれたら」

「ああ、そう思うよ·····なんで聞かなかったのかって·····怖かったんだ、きっと·····好きだったから·····自分に自信がなかったんだな」

「牧野くんがそんなこと言うなんて·····」

「それを思い出したんだ。その瞬間、頭に血が上った。それに、それにあいつに取られるかもしれないっていう焦りや嫉妬もあった」

「乃地·····」

「せっかく、りんの信用と戻そうと、好きになってもらもらおうと焦らず行くつもりだったのにな。幻滅したよな·····本性はやっぱりこんなんだったって」


乃地は悔しそうに、泣きそうな顔をしている。

そこまで私に対して思ってくれてたのか·····ううん、わかってた。乃地は私が引かないように、慎重に距離を縮めようとしてくれてた。

決して以前のように、自分の欲だけを押し付けたりしなかった。決して·····以前のように。

私も、もっと乃地に聞けば良かった。あんなにこじれる前に·····どんどん乃地の素行が悪くなっていって、会話すらできなくなる前なら、たとえ機嫌が悪くったって話せたはずだった。喧嘩になっても乃地に向き合っていれば、言ってくれたかもしれない。きっと我慢できずに、乃地は怒鳴って言ってた。

嫌われたくない、しつこい女と思われたくない、といいところばかり見てもらおうとして、乃地が変わってしまったことばかり嘆いて·····

だから今度はちゃんと向き合わないと·····向き合って話したい。喧嘩を恐れないで。

今の自分をちゃんと見て、乃地を見て。

隠した自分を見せても伝わらないし、無理して合わせても、だんだん疲れてきて自分も相手も見えなくなる。


「でも·····だけど、乃地ちゃんと我慢できたよ」

「えっ?」

「前までの乃地なら、きっとそのまま殴ってしまってた。飛び出していってバイトも放り投げてた。でも今日の乃地は違ったでしょ?謝ったし·····自分なりにフォローしてちゃんと仕事をやり通したわ。同僚の人達ともちゃんとコミユニケーションとれてるからこそ、貴方を庇ってくれたのよね」

「りん·····ありがとう·····」

「それから·····牧野くんのこと、本当に?」

「りん、本当だ。信じてもらえるかわからないけど、事実だ。でもそれが理由でも他のお客様のいる場所で、あの場で取っていい行動じゃなかった」


もう乃地は今の乃地だ。

信じて良かったと思った。嬉しかった。

でも·····どうして牧野くんは、という疑問が出てくる。


「りんはどう思ってる?あいつを·····」

「牧野くん?牧野くんはいい友達としか思ってない」

「本当に?少しはいいなと思ったりは?怒ったりしないから、正直に話してほしい。りんが本当はあいつを好きなら、俺は·····」


俺は?諦めるってこと?私と本当に別れるってこと? あんなに一生懸命に、頑張ってもう一度やり直したいって言ってくれてたのに·····

そんな簡単に引けるの?そう思うと、胸がぎゅっとなり、ショックを受けてる自分がいた。

そんな風な勝手なことを考えてると、ぎゅっと乃地に手を握られた。びっくりして、顔を上げ乃地を見た。


「いやだ。あいつはりんを大切にできない。いや、大切にできたとしても、りんに行って欲しくない。そばに·····俺のとこにいてほしい。無理強いさせない、なんて言っておきながらだけど」


まっすぐ私を見ている。切なそうな顔をして·····

その言葉が嬉しくて、良かったと安心して·····

乃地の必死な顔が切なくて、乃地の胸にそっともたれた。乃地は一瞬ビクッと驚いた感じだったけど、ゆっくり私の背に腕を回して、そっと抱きしめてくれた。


「りん·····これは、俺を受け入れてくれたと思っていいの?」

「··········記憶が戻ったら、やっぱり私と別れたいって思うかも」


ずっと心の中にあった不安を口に出した。

素直にうんと言えず、まだ怖さの方が上回ってる。


「言わない。少しずつ記憶戻ってる部分もあるだろう?さっきの牧野ってやつにしても。

本当はりんを好きだったんだってこともわかってる。覚えてたし、嫌いで別れたんじゃない。心が弱かったからだ。でも今の俺はもう絶対にりんを離さない、釣り合わないなら、釣り合うとこまで上がってみせる」


乃地の揺るぎない気持ちが、まっすぐ私に射抜いて入ってくる。

ああ、大丈夫。乃地はもう今までの乃地じゃない。

強くなってる。心がそう確信できた。

乃地の心の脆さはなんとなく感じていたから、それを守ってあげたいとも生意気に思ってた。·····自分も大して強くなかったのに·····


「釣り合ってないなんて思ったことないし、私そんなすごい人じゃないし·····ふふ·····逆にプレッシャーだわ」

「いや、りんはすごく優しいし、心が綺麗だ。ちゃんと知ってる」

「そ、そんなことない。·····乃地が対応してた女の人が乃地にアプローチしてそうなのを見て、嫌なこと思ったりしてたし」

「本当に?·····それは少しは好意持ってくれてるって、思ってくれてるって事だよな?·····ほんと情けないよな」

「乃地·····」

「りんはちゃんと、優しい素直な心を持った女の子だ。俺が好きになった、恋焦がれた女の子だ。だから、俺には高嶺の花なんだ」


こんな漫画で言ってもらえるような言葉は、現実で言われても冷めるような気持ちかも、と思ったことがあったけれど、恥ずかしいけど·····それ以上に嬉しかった。

乃地が言ってくれたから·····本心だってわかるから。


「ありがとう。私も乃地にこれからも好きだと思ってもらえるように、自分を磨いていきたい」

「りん·····抱きしめていいか?」

「聞かれるの恥ずかしいし·····」


うつむいたら、私のすぐ目の前に気配を感じた。そのままそっと抱きしめられた。


「りんを傷つけるようなことは、これからは絶対しない。他の女に言ったりしない。りんだけだから·····やっと·····やっと俺のりんにできるんだ」

「乃地·····」


やっとだ·····ずっと、ずっと、りんが欲しいと思ってた。ちゃんと好きになってほしいと思ってた。もう間違えない、絶対離さない。

りんが俺の腕の中で、恥ずかしそうに嬉しそうに安心して、頬を寄せてくれる。

もっと色々覚えていかないと。

りんを安心させるためにも。

今のりんが俺を好きだと言ってくれるのは恋だ。

好きか好きじゃない、だけで成り立つ。

でも俺が欲しいのは、ずっと一緒に歩いていける、側にいてもらえる愛だ。

好きだけじゃダメだ。ちゃんと力をつけて、お金を稼がないと·····りんにもっと認めてもらえるように。

りんが働きだしたら·····周りにはいい男はいっぱいいる。·····ずるい奴も。牧野のようなやつは、まだ可愛い方かもしれない。そんなやつらにりんを持っていかれないように。



自分の気持ちを認めてしまった。

やっぱり好きだった。

ただ·····前の乃地じゃない。もちろんコンビニのバイトで仲良くなった、あの頃も好きだった·····けど、今の乃地は、あの時の乃地とは違う·····違う人みたいに·····


脳が人格を変えてしまったのかもしれない。また変わるかもしれない。そう思うと怖い。でも今はこの時を大切にしたいと思った。その想いの方が強くなった。

私を好きと言ってくれる乃地とちゃんと向き合って、自分の気持ちに正直になって、一時的なもので終わるかもしれないけれど、それでもこの気持ちをちゃんと大事にしたい。

乃地と笑い合いたいと思うようになった。

強くなろう。

別れが来た時、自分はしっかりこの恋を貫いたと、自分を褒めてあげられるように。

抱きしめられながら、そんなことを考えていたら乃地とくっついていた体が離れた。

離れちゃうのか、もう·····と思ってたら、私の顔をじっと見つめて、ゆっくり近づいてきた。

·····どういうことかわかった。

だから目を閉じた。

私の唇に乃地の唇が重なる。少しこわごわとしたような·····私に拒われるかもと思ったのか。重なっただけの唇は、そのまま離れた。けれどもう一度重ねられると、今度は深い口づけに変わった。

事故からは初めてのキス。

彼とのキスは初めてのような感覚だった。

以前のキスとは違ったから。以前の乃地のキスは、女の人に慣れてるような、要領を得てると感じるキスだった。

初めてだった私にも分かるくらい。

でも、このキスは乃地も初めてかのような、慣れていないような仕草·····

一度別れて、私への気遣いとかがあるからなのかな·····


りんにキスしたくて、唇を重ねた。

りんを見つめても、逸らしたり拒否されるような気配はなく、俺に対する雰囲気が甘いものになっていると、言動でも確信できたから。

怖がられないように、唇が触れるだけのキス。

柔らかかった。一度味わうと、もう少し·····もっと、という気持ちが止められなかった。今まで我慢してたのもあるし。

もう一度重ねて応えてくれているりんに気持ちが溢れて深く味わうキスを求めた。

はじめは少し固くなっていたけど、だんだん力が抜けて俺に体を預けてくれた。


愛おしい。こんなにも。


よく1年も冷たくできたもんだ。

でも、もう絶対離さない。

りんとのキスを、これ以上続けるとやばいと感じて、離しがたかったけど、全神経を総動員させ、理性を叩き出し、りんの唇から離れた。

りんは紅潮していた。

涙目の彼女は煽情的で·····思わずぎゅっと自分の胸に掻き抱いた。


「愛してる」


自然と口から出た。

今までの思いもあった一言。

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