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Delightcafeから帰ってきたのは夕方。

挨拶から始まって、ランチタイムの後はちょっとした恋バナ、その後乃地のためのマナー講座。忙しいランチタイムだけど、スタッフさん達に任せて東条さんは乃地にずっと教えてくれていた。

敬語の使い方も分かっていない乃地に呆れることなく、『今までの事より、やろうと思った今からが大切なことだから』と丁寧に教えてくれ、乃地もメモを取って真剣に取り組んでいた。

外野の私達三人はそれを見守っていた。

溝口課長は時々、ゆりさんに甘えたりしていたけれど。


乃地の様子をずっと見ていた。

脳が別の乃地を作ってしまっているのだとしたら、納得せざるを得ないけれど、こうも変わるのかと思わずにいられない。

死にかけたことや、それほどまでに誰かに恨まれていたというショックで、心を入れ替えたのもあるかもしれないけれど。

「りん大丈夫?疲れた?」

「えっ⁉️あっ、うん。そうかな、ちょっと疲れたかも·····あっ、でも乃地の方が。頑張ったもんね。疲れたでしょう?何か飲む?」


家に帰ってまで考え込んでいたのを現実に戻され、気付けば乃地が私の顔を覗き込んでいて、その近さにドキッとした。


「うん。疲れたから、何か甘いもの欲しいけど今はちょっと·····頑張ったのか·····なら、りん、お願いあるんだけど」

「お願い?何?」

「いや·····その、頑張ったんだよな?俺」


急に乃地は私をソファまで連れて行き座らせて、真正面で問いかけてきた。


「えっ、うっ、うん。頑張ったよ、すごく頑張ったと思うよ。疲れたよね。お土産で頂いたプリン食べようか」


顔が近くてドキドキして、どうしていいかわからず、顔を背けながら聞いてしまう。立ち上がろうかとそわそわしていたら、急に私の右手を掴んだ。


「頑張ったんだろう?」

「えっ、うん、そう…ね」

「なら·····なでなでは?·····頑張ったり、いいことしたらしてくれたよな、ぽちに」

「えっ!」


びっくりした。まさかそんなこと言うなんて·····ぽちには確かにそうしてた。だって、ワンちゃんに褒めたりなでなでするのは普通だし、そうしてあげることで、これはいいことと学んでくれるから·····それを乃地にするなんて·····してなんて·····乃地にそんなことしたら、今までだったら跳ね除けられて、めちゃくちゃ怒ってたかも。·····怒らなくても、冷めた目で見られたはず。

でも目の前の乃地は、ちょっと拗ねた感じでどうして、してくれない的な·····かなり戸惑ったけれど、待っているのに無視できないので、覚悟を決めた。


「·····よく·····頑張りました。とても偉かったよ」


乃地の頭に手を乗せ、ゆっくり撫でた。

してほしいと言われたものの、本当にしたら怒るかもという怖さが戸惑わせている。でも撫でると、乃地は少し照れたように、微笑んで私を見てる。

·····もうドキドキするし。

その手にすりすりしてくるのも、ドキドキせずにいられない。


「ありがとうな、りん」

「え·····」


乃地は優しく笑って私をそっと抱きしめた。

そして、私の後頭部を撫でている·····


「だ、いち·····?」

「りんもたくさん頑張ってくれてるから」


·····パニックだ!

私達は一応別れて·····私は友達として家政婦のバイトをすると言って、それで了承されているはずなのに·····抱きしめられるなんて、·····もうだいぶ前すぎるからさらに胸がばくばく、ドキドキして·····


乃地の背に手を回すのもためらわれて、落ち着かなかったけれど、ゆっくり撫でられている手に心地よさを覚えて身を任せてしまった。

久しぶりの乃地の温もり。

臭いタバコの臭いはもうしないけれど、乃地の匂いに切なさが込み上げる。タバコも今は吸わない·····あんなにヘビースモーカーだったのに、今は外でタバコの煙を吸うだけでも、むせてしまったり·····体にはいいことだから、これはこれで良しなんだけど違う人になってしまったようで·····でも、だからといって他人という感覚でもなくて。

「·····このままずっとこうしていたいけど·····」


乃地の言葉にはっとして、慌てて離れた。

まだ好きだと思われたかな·····乃地のこと·····

ううん、もう好きじゃないもの·····

そう自分に言い訳したりして。


「抱きしめてたら止められなくなるから·····」

「止められなく?·····!あっ!」


乃地の言わんことを理解した途端に、顔に熱が一気に集まる·····


「プリン食べる?」

「た·····食べるっ」

「俺が用意するから、飲み物用意してもらっていい?」「うん。何飲む?」


私がするのが当たり前じゃなくて、乃地も手伝うっていうことが普通になっている。


「りんと同じでいい」

「ん、じゃ、紅茶にするね、ストレートで」

「ありがとう·····りん、嫌な時は嫌と言っていいんだ。言っても怒ったりしない」

「·····うん」


嫌な時は·····

怒らない·····


「·····でも嫌と言わないなら」


私をまっすぐ見る。


「なら·····?」

「これからもしていいと思ってしまう」


なんて言えば·····

ダメって言いかけたけど、声には出せなかった。

だって出したら、抱きしめてこなく····?

なんでそう思ってしまうの?

好きじゃないって言ってるのに·····本当は触れてほしいの?

私の混乱している心の答えを出せなくて、そのまま乃地を見ていた。·····私の心を見抜いているかのように、私を見てる気がした。


「·····プリン出して」

「·····」


雰囲気を変えたくて。

この気持ちからは今日は逃げたくて·····逸らした。

乃地は何も言わず、触れず、うんと言って冷蔵庫に向かった。

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