嗚呼!!花のガリ勉団!!(の前にちょっと、お金のお話)
「ちょんわちょんわと叫びたくなる話ね…」
「応援の旗として適切そうなものであれば、比丘尼国の海やくざの超助平家から寄贈頂いた大漁旗がございますが…」
私ども、果たして一体全体、何を言わされておるのやら。
で、ベルサイユ宮殿にお越しの痴女皇国内務局長・マダム田中雅美。
痴女皇国幹部であれば、知らぬ人はおらぬどころか、面識があって当たり前の御仁です。
で、ご本人は連邦世界のフランス共和国ですけど、訪問歴を数回お持ちの上に、ニホンの大学までの学生・生徒時代の状況ですら、フランスの事情にかなり精通しておられたそうです。
とどめに、痴女皇国の宰相としてフランス共和国首脳とのお話も可能な立場とあっては。
で、今回のお越しの理由ですけど、ニホンの競馬騎手教育や、すぽーつを学ばせておる学校の資料をお持ちになって頂いたのがまず、ひとつ。
実はマダム田中、痴女皇国本国の文教局や聖院学院の前身組織である修学宮という機関施設の運営を短期間ですがご担当なさっていた実績もおありです。
更には、ニホンの最高学府をお出になられた学歴持ちということもあって、私どもフランス支部が欲するか、今後必ず必要となる資料を頂けるついでに、簡単な講義も実施下さるというわけで、私だけではなくテレーズやソフィーちゃん、そしてシャルルくんやジョセフくんまでもが会場の王宮歌劇場に集合しております。
まぁ、お越しになったもう一つの目的である象牙のアレのお披露目も兼ねとるんですけどね…。
と、そこに乳上ことアルテローゼ・東欧行政局長もお見えになられます。
この方、以前の祖国防衛戦では自ら馬を駆って騎馬戦闘に従事したご経験もお持ちです。
では、なぜそのような武闘派の経験をお持ちの上に、痴女皇国本国の騎士団所属でも正規戦部隊とされる赤薔薇騎士団に属しておられる乳上がお越しなのか。
「実は東欧行政局管内の高等教育も見直したいと言えば見直したいのですよ…フラメンシア殿下もご存じと思いますが、祖国ハンガリーは目下、オーストリアから切り離されてもはや、私の統治下にありますが旧来の神聖ローマ帝国からオーストリア・ハンガリー二重帝国となっていた時代の遺物めいた風習習慣も未だ多くといった有様でして…」
で、そのオーストリアは都々逸国の一部となっておりまして、ハプスブルグ家の統治下にあります。
しかし、都々逸皇帝も周辺諸国の痴女皇国属国化に音を上げており、あとは「どこの支部が面倒を見るか」というまでに私ども痴女皇国に膝を屈した状態。
ですが、それまでの遺産と乳上が言われたように、大学を中心とした貴族階級や富裕者向けの教育機関を多数、擁しているのも事実ではあります。
そして、旧来からの教育機関と、痴女皇国が運営する聖院学院の教程のすり合わせに苦心しておるのは乳上の所轄だけではありません。
そう…イスパニアやイタリア、そして他ならぬフランスも事情は類似なのです…。
「これが聖母教会関係者だと修道学校に入れてはい一丁上がり、なんですけどねぇ…」
「問題は宗教学以外よねぇ…」
と、ダチの仲であるマダム田中と揃って、頭を抱えておる状態。
いえ…むしろ、乳上やマダム田中もバレエの練習がてらでこのベルサイユに交代でお越しになっていたことがあるのですが、芸能舞踊やスポート…すぽーつ学校の方がわしらがイチから内容を組み立てられたようなもので設立や運営も楽ではあったのですよ。
でまぁ、テレーズやわしも含めて、いつぞやの映画撮影の際にはマドリード市内でお揃いの衣装に身を包んでフラメンコやタンゴを踊った仲ですし、ソフィーちゃんやシャルルくんやジョセフくんと一緒にお風呂に入っていたこともあるお二人です。
あ、バレエの練習の後ですよ、誤解のなきように。
「あの時とは来る理由が全く違いますからね…」
「足が重いのは重々承知しております。楽な課題から参りましょう…」
で、象牙職人の下から引き取ってきた見本のアダマス2つ。そして、白く輝く象牙の「棒のようなもの」を皆で眺めることにします。
あ、呪われてないダイヤの見本と、呪われておる方は分けて…と。
表面を磨かれ、つやつやと光沢を放つ、その象牙の「棒のようなもの」が何を模して彫られたかはともかく、木製の彫刻見本と比較しても寸分違わぬ寸法にして、再現性の高さに皆が驚きます。
「これでさ、アレじゃなかったら完璧に芸術作品なんだけどさぁ…」
まぁ「誰の」「ナニを」模して彫られたのかは明言を控えましょう。
ただ、この彫像、最終的に金銀宝石の類にて飾られた上で、新しい罰姦聖母教会教皇の選出を祝う贈答品として新教皇カルロ・ボルジア2世の実母たるルイーサ副教皇猊下に贈られることになっております。
こんなものを贈ってもよいのかという気がしますが、これまたこの贈り物を完全な状態に仕上げる宝飾職人を公募することで、馬術学校のとある生徒に絡んだ問題の解決に繋がるという思惑があったりするんですよ。
(思惑はフラメンシア殿下から詳細仔細をお聞きしております。知らん顔して黙って受け取ってカルロに渡しますし、そもそもそちらの計略でお作りあそばされるものです。存分にお使いになった後で構いませんから。ふぉほほ)
(あーそうか、ルイーサちゃんとフラメンシアちゃん、悪いことする仲だったわねぇ。ほほほ)
(ルイーサ猊下もお父上の血を引いて謀略がお好きなようで…ふぉっほほほ)
ええ、以前の河原者絡みのお話の時にもありましたが、我がイスパニア、割と罰姦の政策に協力するところ大、なのですよ…ふぇっへっへっへっへっ。
「はい、とりあえず頼まれていた装飾案のスケッチね」
と、マダム田中が菓子や茶を入れる金属の筒のような外見の携帯ぱそこんを机に置いて、絵を空中に浮かび上がらせます。
「デザインコンペではこうした図面の提出を公募した上で、宝飾職人または工房を募ってください。そして、実際の装飾作業の発注の際には、なるべく担保金や預託金の類の納付を請求するようにした方がいいでしょう」
つまりは、王家の宝を預けることになるので、持ち逃げされると困るから預かり金をもらいます、という事を助言なさっておいで。
更には、製作費については聖母記念銀行からの融資審査に合格することなど、結構な厳しい条件を提示されるマダム田中。
「要はこっちに提出した装飾製作案の通りに作ってくれるか、それに近い形で頑張ってくれたら褒美金を出しますってことにする訳よ。で、その褒美金はね、聖母記念銀行で融資した製作経費を差し引いてから渡すってことにするのよ…」
ふむふむ。
経費についても、この象牙の彫像を飾りつけた職人の持ち出しでもなく、ましてや発注者のフランス王家が先渡しするのでもなく、聖母記念銀行の貸付金でまかなわせる訳ですか…。
「これだと装飾を受注した者、絶対に追加の材料費が発生するのをなるべく抑えようとするでしょ。…うん、これは高額な見積りを出して中抜きさせないための対策の一環なのよ…そして契約時に、製作費の追加は認めないとしておけば、追加費用を持ち出しにしてでも仕事を完遂してくれる可能性が高まるわよね…ふふふ」
なるほど。良かれ悪かれ、最初のデザイン案と見積金額がものを言うことになりそうですね。
では、この象牙彫像を飾り立てる仕事への褒賞をなんぼに設定すべきか。
「そうね、例えば例の首飾り事件の首飾り、完成していれば160万リーブルだったわよね…それと、バガテル宮殿の建設費が確か100万リーブルだったかしら、テレーズちゃん」
ああ、てれこの母親が従兄弟の方と賭けをして負けた件ですね。
しかし、賭けに負けた王妃様は確かに10万リーブルを支払いましたが、勝った伯爵様もあの薔薇園が素敵な小さい宮殿の建設費に100万リーブル以上を費やしてしまったという、贅沢と言えば贅沢なばくちではあったかと。
(で、160万リーブルは当時の金塊1トン分の価値があったそうなんだけど、これを連邦世界の金相場に当てはめると170億円…痴女皇国関係者向けの数字に換算すると、なんと85億南洋ルピーにもなってしまうのよ。淋の森のおひねり1回が5千南洋ルピーと考えると、桁違いすぎるわよね。そして連邦世界と痴女皇国世界の1グラムあたりの金の価値の違いも考慮する必要があるから…そうね、やり直しや修正が難しい象牙を相手にする事を考えると、今回の報酬は200万リーブルとしたげれば、カサール夫人も乗ってくるんじゃないかしら…)
(まぁ、実質的に象牙代はタダ、職人に払うた工賃くらいでしたからなぁ…1万リーブルも払うておけば、当面はあの職人も金に困ることはないでしょう…)
で、ここでソフィーちゃんからちょっと注釈が入ります。
(ええとですね、わたくしども、聖母記念銀行の発行するセイントというおかねの単位にあわせようとしておりますの…ただですよ、かりに1セイントと1リーブルを同じとするかは、いささかにぎもん。なぜならばわたくしどもの1リーブル金貨、金を6グラムばかり含んでおるのがふつうなのです…ですが、1セイントきんかには30グラムもの金がつかわれておるとおききしました。これだけでも、たんじゅんに考えて1セイントは1リーブルの5ばいの価値があるとなってしまいますわよね…)
(よし、ソフィーちゃん、専門家に繋ぐわ…たのちゃーん、今のフランス支部管内の現地通貨とセイントまたは南洋ルピーの換算価値っていくらに設定してたっけ?)
(はいはい田野瀬ですよ…で、フランスについては旧来のエキュ>リーブル>スー>ドゥニエという貨幣単位を継続しています。そして1エキュを1セイントまたは1SOKRとして換算していますね…あと、1エキュが6リーブル、1リーブルが20スー、そして1リーブルが240ドゥニエとなってたかと思います…)
(確かジャン=バルジャンの日当作業が24スーだったわね…日当1万円未満余裕で…確か、今、バゲットパンを1個買ったら1スーか2スーじゃなかったかしら)
(そんなもんですよ、マダム田中)
と、これはサン・ドニ地区などで実際の物価を知ることも多い私が即答しておきます。
(あと、職人の頭で1日あたま3リーブルから5リーブルですね。腕利きなくだんの象牙職人が1日働いて1南洋ルピーと思うて頂ければ)
ふふふふふ、こういう物価調査もあるからわしはサン・ドニなどを巡っておるのです。
んで。
以前、汽車に乗り合わせた際、映画のちょい役で出演を快諾してくれたスイス人銀行家でいかにもやり手の金貸しという感じのアルフレート・エッシャーっておっさんがおったんですよ。
このエッシャーの人脈を通じて、かつてはてれこのパパン…つまりはフランスの前王ルイ16世陛下のお抱え官僚であった元・フランス王国財務長官のジャック・ネッケルという人物に連絡を取ることができたのです。
そして、ネッケルの実の娘にして一時は外交官タレーランの愛人でもあったスタール夫人…スイスに逃亡してた人物にもわしから書簡を送らせてもらいましてね。
「イスパニア王女にして痴女皇国南欧行政局・副局長かつ罰姦聖母教会枢機卿たるフラメンシア・バタイユ・ド・ヴァロワの名において若返りと相応の役職を約束するから父娘ともどもフランス王国に戻ってくれんか」という内容の、ね。
で、その書簡には、最寄りの聖母教会に来てくれたらわしと会話できるからとも書いておいたんですわ。
むろん、そこの聖母教会の司祭なり司教を通じて心話すれば良いだけの話です。
んで、速攻で話をしてきたスタール夫人に、わしの本当の父親は、あんたが散々けなして来たサド侯爵の盟友にして、現在はフランス王国芸術文化院の保護下にあるジョルジュ・バタイユやねんけどなと前置きをしてから、ですね。
(そういう立場のもんが、かつてはフランス文壇界で一派を率いて論客としておった貴女に頭を下げておる意味、ご理解頂けますかね)と一発かましたわけですわ。
で、そこで連絡のタイミングをですな、商機を欲する金貸しのエッシャーが引退隠棲しとったネッケル相手に話をつけた後にしたのが効いて来ましてな、んふふ。
で、わしとの心話のついでに、父親のネッケルともその場で心話、繋がせてもらいましてな。
黒薔薇騎士能力を使えば、こういう遠隔の三者会談も余裕というもの。
(アンヌや…あのクレディ銀行を率いて飛ぶ鳥を落とす勢いのエッシャーの紹介に間違いはないと思うのだ…私は今いちど、16世陛下の遺児たるテレーズ殿下に請われておることを重視しようと思うのだが…)
ええ、てれこには名前を借りるぞっていうことで、応諾させました。
ぐぬぬとかいうてましたが、フランス王国の財政立て直しはもちろん、こうした国民の労働と報酬の制度をきちんとするためには、ネッケルを呼ぶのが手っ取り早いと思ったのがわしの決断です。
そして、この決断については、わしの独断で突っ走った訳ではなく、本宮財務局長のデルフィリーゼ様やタノキチ副局長の判断を仰いでもおるのですよ。
で、案の定、抵抗するスタール夫人ですけどな。
(お父様…あの身の毛もよだつサド侯爵の狂った小説を戯曲だの活動写真に仕立てておる連中に従うなど、およそ正気の沙汰には思えませぬ…どうかなにとぞお考え直しを…)
(話はようく聞くのだぞ、アンヌ…これはエッシャーを通じてシヨン城の聖院女官の長マイレーネ様より届けられた、私とお前への要請文書だ…)
と、自分の視界にその手紙を入れるネッケル氏の視覚、スタール夫人にも共有してもらいます。
痴女皇国の国章である、桃薔薇と丸と棒を組み合わせた紋章の入った便箋の見た目の是非はともかく、ニホン流の印鑑も押されフランス語で活字の本文もサインも綴られた文章は、それなりに公式のものだという風格がございます。
で、それに続くネッケル氏の文言ですが。
(アンヌ、お前もこの手紙を読めるだろうが、あくまでも私とお前を財務や文学に関する教官として招致し、パリの大学で教鞭を取って欲しいとの要請であり、助言を頂く立場であるから国家の政治に関わる責任を強要はしないと明言されておる…これが、私がフランスを去ることになった原因に配慮したものなのは明らかだろう…どうだアンヌ、若返ることもできるのであれば、今のお前のように阿片に溺れておるよりは、遥かに良い賭けになるのではないか?)
などと、頑固娘を説き伏せる役を背負ってもらいましてな。
(マイレーネ本部長、ありがとうございます…)
(いえいえフラメンシア…エッシャーもこのスイス、そしてフランスの山地に鉄の道を敷く構想を理解する投資者を切実に欲していたようですからね…国土局の室見女官長資格にも伝言は致しておきましたから、エッシャーの話にも耳を傾ける機会を設けて下さい)
(はぁっ)
とまぁ、政治的なやり取りも一応はやっとったのですよ。
そして、娘を伴ってバーゼルの聖母教会に現れたネッケルに洗礼を施してもらいまして、向こうでの家屋や家財の整理が終わるのを待って、パリに再び赴任してもらう予定ではあるのです。
で、ネッケル氏にはその構想であった「金本位相場制度から信用通貨制度への転換に伴う新しい貨幣の流通」を実現してもらうつもりでおります。
そして、馬小僧という上級馬術学校の生徒の1人に入れ込んでおるジュヌヴィエーヴ・カサール夫人の一人娘であるフランソワーズの今後の教育方針について、わしの構想を実現するためでもあるのです…。
(しかしふらこ、あのカサール夫人親子にそこまで入れ込む必要があるんかいのぅ…)
(いやいやてれこ、これはコルデーと馬小僧の恋愛私小説を彩る話でもあるわけやから、一つわしにまかせとくれや…それに、エッシャーやネッケルにスタール夫人だけやのうて、ジュヌヴィエーヴ親子についても処罰して恨まれるよりは、救ってやって感謝される方がええと思うぞ…)
(なんかカリオストロのおっさんみたいな詐欺師に話をされとるような気もするのぅ…)
(おいおい、あんなガチもんの詐欺師とわしを一緒にすな…それにこの策はフランスの教育制度を整理して充実さす件にも手を突っ込む話や…単に馬術教練と競馬開催だけやあらへん…馬券を買える層を増やしたり、あるいは通貨換算の手間をなくして外国人にも競馬観戦を容易にさせる件にもつながっとるんやぞ…でなかったらあの墓所の肖像画にあるような武闘派のデルフィリーゼ局長はもちろん、鷹の目で税金取りはぐれや経費無駄遣いを探してくるマドモアゼル・タノキチが了承するわけ、絶対にあらへんやんけ…何よりマイレーネ本部長までご協力を頂いておるんやぞ…)