帰国子女・竹一くん…別れはいつも突いてくる?
早朝のパリ郊外。
で、パリ北東駅の更に北にございますのが皆様おなじみかはともかく、主に労務者のための助平の町色気の町食い気の町として絶賛繁盛中たるサン・ドニ地区ですが、そこからさらに北側の草地や森を切り開いて作られたのが、今、このフラメンシア・デ・ヴァロイスがおりますル・ブールジュ飛行場。
このフラメンシア、実のところはかつてテレーズと共に英国を経由して北米へと向かったことがございます。
その際の往路のアシにと提供されたのが巨大な銀色の空飛ぶ船…ツェッペリンとかいう英独合同建造船だったんですけどね、フランスからもこの船を出そうかということで、この空飛ぶ船の発着場にと整備されたのが、ここなル・ブールジュだったのです。
ただ、この飛行場、別のあるものを飛ばすことにも使われております。
まず、1つ目はれんぽう世界という、遥か未来かつ別の時の流れの先にある私どもの子孫のはずの方々が暮らしておる世界のフランス軍が使っておる、アトランティック2とかいう巨大な飛ぶ鳥です。
これ、ジョスリーヌ・メルラン黒薔薇騎士団欧州分団長のコネとツテで持ち込まれた代物です。
ただ、このひこうき、れんぽう世界から来たフランスや湯田屋国の軍隊を密かに動かすために使われるしろもの。
で、あまり私たちが乗ることはございません。
むしろ、同じ軍隊用であっても、私やテレーズが乗る場合がはるかに多いのが、今も目の前にあるスケアクロウというひこうき。
この、つやのない真っ黒で先っぽが妙に変な尖り方をしたひこうきですが。
大きさは、近くにいる青灰色のアトランティック2とあまり変わらんように見えます。
しかし、このひこうき、飛び上がった時の姿、地上で見る時とはかなり変わるのを存じております。
具体的に申し上げますと、胴体の左右に突き出ている大きな翼、地上では上下2枚重ねです。
しかし、この2枚重ねの羽根ですが、ある程度の高さに舞い上がるか、浮き上がった状態で長い1枚の羽根に変わってしまうのです。
地上近くでそれをやってる現場も拝見したことがございますが、何やら虫の羽根が鳥の羽根に変わるかのように…それも、鷲や鷹のように大きく長い羽根を伸ばしたかのようになってしまうのです。
この状態であれば、世界で一番高いえべれすととかえれべすととかいう山の3倍以上の高みに上がることができるんだそうでして…。
そしてこのひこうき、痴女島の聖院学院本校初等部の子どもたちの修学旅行とやらで、欧州に飛んで来ることも多いんですよ。
で、今は二羽がおるというこのスケアクロウという黒いひこうきのうちの一羽であるIT013とかいうもの、ベラ子陛下とマルハレータ殿下が飛ばして来られました。
(実のところ、IT011と交代で連邦宙兵隊にレンタルする契約を締結しまして…IT011は嘉手納基地に置いているのですよ…)
「あたしとマルハちゃんの飛行時間を稼ぐのと、お馬さんを運ぶためだと言われまして…」
「まぁ、とりあえず比丘尼国の江戸行きですな。あそこの芝浦さんばしにこれを着けられる坂道ができておりますから…」
と、助平とはほど遠いお姿…青いつなぎ服に身を包んだお二人の背後では、タケイチの荷物やら、こっちから比丘尼国に引き渡す贈り物やら何やらの箱が積み込まれております。
そして、タケイチの愛馬であるエリニュスも。
「馬運車と同じ環境にできる檻型の輸送パレットがあるのですよ…」
でまぁ、今回の飛行、こうした長距離の馬輸送を手がける人員のくんれんのためとも聞かされましたので、あまり心配することはなさそうです。
で。
問題は、むしろ人間の方。
ただ、タケイチは知能偽女種という特殊な身体に変わっておりますので、淫化帝国の山の中のように「普通の人間だと空気の薄さでぶっ倒れる」ようなことにはならない模様。
「普通の人だと大変なんですよ…戦闘機のバンシーやドゥブルヴェの常用巡航高度であるFL1000…3万メートルは別格としても、FL800つまり高度2万4千メートル以上には余裕で上がりますから、血液や呼吸器の障害を防ぐためにも乗機1時間前には酸素だけの空気を吸ってもらうとか色々と準備がいるのです…」
「後ろの馬も高知能化されてないと危険でしてな…ただ、高知能化処置さえ受けておれば、空気のうすい場所でもある程度は普通に歩いてめしが食えるようにされとるはずですから…」
で、タケイチは後ろに乗ってエリニュスの面倒を見ながら比丘尼国までのふらいとを過ごすようですが…。
(適当な時に前の操縦室の随行員席に来てシベリアや中央アジアの状況を見学してもらいますよ。このフライト、聖院学院初等部卒業生と同じ待遇にするためでもありますから…)
なるほど、それならばこのスケアクロウが来た理由も、納得です。
「まぁ、今回は代替わりしたアンプルールを祝うためやと聞いとるからな…」
「は。全くもって急ぎの話とは存じますが、可能であれば復学させて頂ければと思うております…」
と、独特のサツマ弁を消して普通の聖院第二公用語で話す訓練の方も並行していたタケイチ、マルハレータ殿下に連れられてスケアクロウの後ろから斜めに降りた坂を上がって荷室に消えます。
ベラ子陛下も、ではと我々と挨拶を交わして機内に入られますが、その際に通るあたま側の扉を閉めてしまうだけではなく、ひこうきから外に降りるための昇降階段も引き込まれてしまいます。
そして、スケアクロウのうしろ側の荷室のとびらも閉じてしまうと、わしやてれこ、ソフィーちゃんといったフランス側の見送り組には少し遠くに離れるようにとの指示が心話でよこされます。
(主翼で引っ掛けたりしないための措置ですからね…Co-Pilot Margareta, IT013, left Annihilation engine 10% power Stabilized check.INS GPS Coordinate auto-input check. The stopover is IATA:SVO and the final destination is IATA:HND)
(O.K., Captain, berako. left engine Idle confirmed at 10% power.Set SVO and HND into the Lateral NAVigation coordinates.)
(Right Annihilation engine power 10% Stabilized check)
(Right Annihilation engine power 10% Stabilized checked)
(LBG tower & ground, IT013,request takeoff clearance)
(LBG ground controll IT013,request takeoff clearance delivery)
(LBG tower controll IT013,request takeoff clearance delivery, Departure 03, Begin taxi to the runway)
やがて、スケアクロウや他のいくつかのひこうきが停まっていたこの広場の向こうの地面に、赤や白の光が点滅を始めます。
このくうこうの誘導員とかいう、きらきら光る帯がいくつもついた橙色の作業服を着たれんちゅうによって、後ろ向きでこの場を離れるスケアクロウ。
その正面の上の方にいくつか付いている窓からは、ベラ子陛下とマルハレータ殿下が軽く手を挙げたのも窺えます。
そして、広場でクルッと回って向きを変えたスケアクロウは、まずはニシ・トクジロウを乗せにモスクワに向かってから、いよいよとしべりあの広大な土地の上を飛び抜けて比丘尼国へと向かうのだそうです。
あと、このスケアクロウ、そこにおるアトランティック2と違って、回転羽根はついてませんし、ばんしーやドゥブルヴェといったせんとうきのようなお尻から噴き出る炎も出さずに飛び立てます。
しかし、その代償なのか、結構耳障りな甲高い音がするのです。
(ICD/G…慣性・重力制御駆動装置を擬似噴射推進モードで動かす時の音ですから我慢してくださいね…すぐ静かになりますから…)
まぁ、この音はしゃあないでしょう。
ベラ子陛下が言う通りで、どうしても出てしまう音、なのだそうですから。
それに、スケアクロウ以外にも連邦世界から持ち込まれたひこうき、こぞって何かの音を立てて空に舞い上がるか降りてくるのですから。
このために、ル・ブールジュはパリ市内と少し離した場所に作らざるを得なかったのです。
(LBG tower, IT013 take…off ok)
(IT013 take off)
きぃいいいいいいいん。
一際、その甲高い音が上がるや、かっそうろの西南の端近くから北東に向かって動き出す、大きめのからだをしたスケアクロウ。
その黒いからだの上や、翼の端では赤や青や白の光が点滅している他、お尻から突き出した縦の羽根に描かれた数字や記号を照らす明かりも灯っています。
と、そこへ。
(馬小僧くん…その滑走路の隣に誘導路という道があります。路面は舗装されていますが硬めなので注意してくださいね…)
ええ、ベラ子陛下が馬小僧に対して送った心話通りです。
なんと、浮くために走り出したスケアクロウのやや後ろを、イキートス号に跨った馬小僧が、追いかけているのです。
ですが、いかにイキートス号が速くても、スケアクロウが浮き出す速度まで加速してしまえば追いつけません。
ただ…ベラ子陛下の差配か、マルハレータ殿下の黒薔薇騎士能力の賜物なのか、スケアクロウの荷室におるタケイチには、追いかけてくる馬小僧とイキートスの姿が見えておるようなのです。
そして、馬を運ぶための檻に入ったエリニュスも、ひんひんと鳴いて別れを惜しんでいるようなのです…ええ、わしも黒薔薇騎士資格者ですから、スケアクロウの荷室の中、透かして見れるんですよ。
手を振りながら、懸命に追いかける馬小僧を乗せて疾走疾駆するイキートス。
(さいなぁ!さいなぁ!また会おうき、必ず戻ってくっど!)
(Takeichi, da bin ich mir sicher! Versprochen!)
ええ、本当はこういうこと、あかんらしいのです。
しかし、関係者の計らいもありますし、大量の空気を吸ったり吐いたり高速で回るものなく飛べるスケアクロウなら、ということで、馬小僧が横を走っての別れを認められたのです。
(V1…Rotate, V2, gear-up, main-wing single mode auto transfer armd)
やがて、浮き上がったスケアクロウ、東の朝焼けの空に舞い上がると、その左右1組ずつの上下2枚の翼を1枚にまとめる動作を始めます。
この動作の後で、この地球という星のどんな高い山の高さよりも3倍に舞い上がるための高速飛行に移るのだそうです。
(推奨上昇率毎分2,500mと結構早いのですよ。モスクワまでの行程はFL410程度を予定していますけど、それでも設定高度までは5分程度ですね…)
(ま、たいていの雲は目のはるか下ですわ…)
ええ、翼の端に灯る赤や緑の光に加えて、各所についた白い光を点滅させながらその、黒く長い羽根を伸ばした異様な姿のゆそうきは、ベラ子陛下の言葉通りに結構速い速度で高く高く上がり、そして遠ざかって行くのです。
その姿を、愛馬にまたがったまま、かっそうろの端に近い場所で手を振りながら見送る馬小僧。
果たして、彼とタケイチ、再会の運びとなるのでしょうか…。
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ふらこ「ところでベラ子陛下、なんでまたスケアクロウで」
まるは「ワイが代わりに答えましょう。迅速に馬を運ぶ必要があると聞きましてな」
ふらこ「ただ…これは乳上や他の方々からの突っ込みらしいのですが、あの黒いでかいひこうき、何もあんなふうに地面の上を走らんでも鳥が舞い降りるように降りたり、その場で浮き上がれたのでは…」
まるは(あまり大声で言えん話ですし、わしもにがてな部類の操作なんですけどな、それをやる時に握ったり踏んだりする操作がまるっきり普段と変わりますねんわ…お読みの方々にわかりやすうなるように申しますと、普通のひこうきを飛ばす操作ではなくて、へりこぷたーっちゅう回転羽根を回すあれを動かすための操作になりますねや…東方聖母様にもきちんと教えてもらいましたけどな…)
じーな(ベラ子…確かにアトランティック2は水平離着陸専用機やからしゃあないとしても、スケアクロウはVTOLモードが使えるんやから何もル・ブールジュから飛ばさんでもそれこそベルサイユの庭から出したったらええ話ちゃうんかい…)
べらこ(あんな両手両足総動員の操作はできれば避けたいのです…)
じーな(缶詰ちゃん…悪いけどな、今度うちが痴女皇国行ったらあんたとベラ子のV/Lモードの操作再履修するわ…あれができんと無重力空間、つまり宇宙飛行の免状も取り消さなあかんようになってまうからな…)
まるは(つまり、すけあくろうをうちゅうせんとして飛ばすくんれんも受けさせられまして…)
べらこ(もう一つ言いますと、それが必要だから受けさせられたんですよ…このお話ではなく「こんにちわ、マリア」の方でも宇宙空間に出て行ったり月まで行くようなことしてますからね、スケアクロウ…)
じーな(一応、スティックスドライブ・レベル4操作を履修した航法士や航空機関士が乗務する必要はあるけど、その気になったらNBまで百光年を一瞬にいける能力あるんは知ってるやろ…実際に定期検査でNBに持って行ってる時はうちとNB航空宇宙軍のPかエマ子とで回航に来てるしな…)
べらこ(つまり、「こんにちわ、マリア」の方では今後、あたしたちがスケアクロウで宇宙空間というか、恒星間航行をする可能性が…もごごごっ!)
じーな(その前にベラ子は垂直離着陸モードの特訓や…脚を出さんでもええように、聖院湖の上でやったるから…つまり、スケアクロウは一種の水上機めいた使い方もできるんですわ。実際に、聖院空港が出来る前は聖院湖の離宮道路から突き出した桟橋に係留していたこともありましたしな…)
べらこ(というわけで、次回が最終回らしいんですけど)
ふらこ(果たしてちゃんと終わるのやら…あ、本編になる方ではまだまだ話は続きますし、わしの出番もあるようですねん…)
てれこ「わしのでばんもあるんやろな!(泣)」




