氏素性詮索厳禁!もしかして王子様の乗馬教室?
「えええええ…困るよ若様…ほら、乗り手に馴染んでくれるのと、競馬としての走りを覚えさせるのはまた話が別じゃんか…」
お困りのマリアリーゼ陛下、略してオコマリ。
(フラメンシアちゃん…駄洒落菌、脳を犯してないかな…)
いえ、私は正常だと思います。
多分。
きっと。
それはともかくですね。
どうやらこの2頭の馬、ムッシュ・智秋と奥様の考えをある程度は読んで行動していたようなのです。
つまりは、痴女種女官に近い能力も持ってしまった様子。
これ…どうなんですかね。
確かに、実用的な馬としては下手に拍車や乗馬ムチ、そして手綱を使って馬を操る必要が薄れるだけでも、かなり乗馬技術に変化があるように思うのです。
しかし…マリアリーゼ陛下他に参考として見せて頂いた連邦世界での競馬や、乗馬競技の動画。
これらを拝見させて頂いた限りでは、馬を乗りこなし思い通りに進めることも技術評価のひとつになっているように考えられるのです。
「うーん、でもさ、ここは痴女皇国世界だし、そもそも競馬や乗馬の普及を進める理由がさ、家畜の実用利用を促進しようって目的を達成するための方法の一つなわけだからね…そこは独自ルールで行ってもいいだろって思うんだけど…」
「マリアさん…連邦世界でも落馬事故や馬の暴走に伴う事故は決して少なくありません。その防止のために馬の去勢も行うなど、動物虐待にも捉えられかねない処置を行なっているのも事実です。ですから…なるべく自然のままに近い状態で馬に乗れるのなら、それはそれで良い事じゃないかと僕は思いますよ」
と、必ずしも先例に従わなくとも良いのではと申される、ムッシュ智秋。
そして、その去勢という言葉の意味を理解したのか、なんと馬たちはムッシュの後ろに回って隠れようとするのです。
ええ、明らかに馬たちは怯えています。
しかし、ムッシュも奥様も慣れたものなのか、馬の鼻先を撫でて「そんな事はさせないから心配しないで」と子供でもあやすように可愛がるのです。
(そう言えば今日、もう1頭…いや3頭、調教のお願いってことで預かってる馬、こっちに呼んだんだよね…)
その馬、近づいてますね。
いえ、ルイーサ猊下とシャルロット・ダルブレ枢機卿からも、前もっての話はありました。
うちの息子たちの乗馬訓練も頼む、と…。
え。
…ルイーサ副教皇猊下の息子さんって、こないだ即位したばかりの罰姦聖母教会教皇・カルロス2世猊下ではないですか、とその時は言ったんですよ、わし。
(で、現在の鯖挟皇帝であるセリム2世陛下…セリム総主教待遇にも是非に馬術を仕込みたいとの、シェヘラザード総主教からもお話がですね…)
(うちのセリムの嫁探しも兼ねておりますが、まぁこれは焦る話でもございません。それよりは罰姦のお偉方との親交を持たせたいという親心…)
(ルイーサ、ジュゼッペだけで充分でしょうに…鯖挟皇帝陛下はまだしも教皇自ら乗馬などと…)
(母様。お言葉ですが…あの父が自ら馬に乗りたがる性格だったせいでですねぇ、カルロにもそういう才能を期待する話が持ち上がってしまったんですよ…あと恨み言になってしまいますけどね、なまじシェヘラザード様が世にも珍しいあんな馬を贈呈下さった弊害がですねぇ…)
(しぃいいいいいいいいい…セリムが建前では後宮の誰とも知れぬおなごの子だというのと同じで、そちらのカルロ君やジュゼッペ君の真の父親はどこの馬の骨とも知れぬフランス王国の用意した慰労偽女種だという建前…)
どういうこっちゃねん、と思われた方へ。
まず、今日、この場に呼ばれておるお子様方。
3名とも全員、成人してません。
しかしながら、成人しとらんのにも関わらず、偉いさん扱いなのです。
そしてもっとでかい問題があります。
全員、父親または母親が賤しい者扱いで不明とされている建前なのです。
これ、聖院規範という痴女皇国にも引き継がれた女官規則でも伝えられておるそうですけどね。
(女官は地位身分低き男を支えるべしって教えがまず存在する。そしてもう1つは、特に聖院金衣の後継者作りに関することでね…位高き女官の後継を欲する際には卑しき男と番うべしとも定められたんだよ…)
この、マリアリーゼ陛下が言われる規定。
従来の欧州の王族や貴族身分者からすれば、一体全体なんですのん、それという話になるのです。
つまり、農民や町人どころか、その辺の乞食や身寄りのない孤児だの欧州河原として知られる放浪芸人一族あたりから男を見繕えという話なのです。
こんな話、政略結婚という観点だけではなく、家柄重視の考えが蔓延しとった時代には絶対に受け入れられはしないでしょう。
しかし、ですね。
(これも聖院規範の口頭伝承にあってね…今の痴女皇国と違ってさ、聖院時代は人の政事を直に采配すること勿れっていう決まりだったんだよ。で、諸国の統治に直接干渉を避けろって事を言うからには、どこの国であろうと偉いさんの血統の男との子作りも特定国を贔屓する話になっちゃうでしょ。だからそこらの馬の骨と子供作れって掟が考えられたんだよ…)
つまり、マリアリーゼ陛下いわく、聖院の強力な支配力を過剰に行使すると人のためにならんから、どこか1つの国や勢力をえこひいきしないようにと配慮された結果なんだそうですよ、この貧民賎民から子種を貰えという掟…。
ですから、本当の父親や母親を詮索してしまうととぉおおおおおおっても身分血統的によろしい家柄というのがバレてしまうセリム陛下やカルロ教皇猊下にジュゼッペ皇弟猊下の3人とも、建前では「父母どっちかが不明な庶子」扱いなのです…。
ただ、実際はかなーーーーり父親または母親がバレバレなのです。
そして、3人の母親は共に、顔見知りかつ痴女皇国幹部でもあります。
で、新しい教皇とその弟として生まれたカルロ君とジュゼッペ君ですが、実のところはてれこ…テレーズ王女の弟でありフランス王太子兄弟のシャルル君ジョセフ君が父親だったりするのです。
むろん、この教皇兄弟の母親はそれぞれ、ルイーサ猊下とダルブレ枢機卿。
更には、鯖挟国の現在の皇帝であるセリム2世も、父親こそメフメト2世という以前の鯖挟皇帝であることが公式の事実だそうですけど、実際の母親はシェヘラザード・痴女皇国中東行政局長様なのですわ…。
つまり、今から来る3名は痴女皇国の掟としては全力で掟破りをやってもうた部類の血統のお子様なのです…。
ですが、実際の地位を考えるとそれなりの教育を施したいというのも親心でしょう。
それと、さっきお話が出ておりました先代の罰姦教皇であるカエサル1世猊下ことチェーザレ・ボルジアという御仁。
私の生国イスパニアにも多少の関わりがあるお方な上に、生前に若干の面識がございましたから断言します。
素直に教皇の椅子に座って大人しく執務、やってる人じゃなかったのです。
ぶっちゃけ教皇になる前はイタリアの貴族あるあるで甲冑着て剣持って馬に乗って領土の取り合いの戦争に明け暮れてた人ですから、隙あらば馬車ではなく馬に乗りたがる部類の男性だったのです。
そして罰姦教皇就任時の祝賀行進では、自ら白馬に跨ってローマの街中を練り歩いたような御仁です。
で、そんな教皇の奥様だったシャルロット・ダルブレ様はともかく、二人の実の娘御であるルイーサ猊下が産んだお子様のカルロ君が二代目教皇に選ばれたということで、次の教皇様も馬車より馬の上の人である方が望ましいのではという話が罰姦教皇庁のみならずローマ市民にも期待されておる模様。
更にはノートルダム寺院預かりとなっていたジュゼッペ教皇弟猊下。
カルロ君に馬を習わせるならばジュゼッペ君にも教えてぇな、とダルブレ枢機卿が申し出て来られたのです。
それと、鯖挟皇帝のセリム2世陛下が絡んでる理由。
新教皇とその弟御への贈り物ということで、中東行政局管内の通称;猫絨毯国の北の外れの名産である馬が献上されたのです、鯖挟国から罰姦に。
で。
どんな馬か。
ええ、現在は馬術学校の厩舎で預らせてもらっておりますから知ってますが、ちょいとばかり変わった馬なのです。
ただ、馬種についてはマリアリーゼ陛下から、ムッシュ智秋に連絡が行ってるそうですよ。
お伝えしておかないと、その馬種を扱い慣れている厩務員の手配が難しい部類らしいのです。
「しかし、アハルテケは交配飼育が難しいとして知られてましてね…ミスタークリス…ファインテック社やマリアさんの手持ちの遺伝子管理技術ならなんとか出来るとは思いますけど…」
「うんそれ聞いた。なんかサラブレッドとの交配を試みたけど向こう…トルクメニスタンで育てたら最後、環境適応できなくて死んじゃうらしいね…」
「かと言って、現地に似た環境である程度までは育成しないと、アハルテケの特徴が出ないんですよ…」
と、ムッシュとマリアリーゼ陛下が会話しておられますが、一体全体、どないな馬なのか。
おりしも厩舎から引き出されて来たその馬たち、厩務員に連れられて私たちの方へ向かって来ます。
で、ムッシュ智秋の奥様いわく。
「黄金の馬とは聞いておりましたけど、やはり実物を見るとこれは格別。にわかにその存在が信じられないと皆様が申されるのもわかりますね…」




