母親と書いて恐怖と読みます・聖院規範は守りましょう
「あのなぁマリア…。聖院規範でバクチ禁止やったやろがいっ。それも、クレーゼさんの金衣時代から女官に賭博を禁じておったのは他ならぬうちがよう知っておるわぁっ」
で。
ベルサイユ宮殿・鏡の間の大理石を貼った床にセイザ中なのはマリアリーゼ陛下。
いえ、ベラ子陛下だけでなく、田中雅美・痴女皇国内務局長までもが。
しかもお三方ともに懲罰服1号という、世にも恥ずかしく痛いお姿です。
そして、アレーゼ米大陸本部長と、マイレーネ欧州地区本部長を従え、マリアリーゼ陛下に説教しておられるのは、一体全体どこのどなたなのか。
で、その方もなぜか懲罰服1号をお召しです。
(勘弁してくれ…うちの年齢でこれを着る自体が痛い行為ゆう自覚もあるねんし…)
(ではなじぇに、聖母様までもがお召しに…)
(娘らと雅美さんに説教する局面では、うちも嫌々と涙ながらに痛い姿になってまで言い聞かせねばならんという事にしたんよ、他ならぬうちが…)
そうです、エマニエル夫人ヘアとかいう独特の巻き気味の短髪の髪型になさっておられるのがとれーどまーくらしい、東方聖母様にしてマリアリーゼ陛下とマリアヴェッラ陛下双方のお母様であらせられる、高木ジーナ様。
競馬は聖院規範に抵触する賭博ではないのか、ということを詰問するためだけにこのベルサイユにお越しになったらしいのです。
(アレーゼさんとマイレーネさんに呼ばれてはな…エマ子に頼んで飛ばしてもろたから向こうの公務に支障ないようにして帰してくれるやろけど…)
(かーさまでないとねーさんやベラ子かーさまの折伏は無理。うちもそない判断しますた…)
(エマ子でもあかんのか…)
(マリアねーさんもベラ子かーさまも、うちのいう事を素直に聞いてくれる人や思いますか…)
(エマ子。今度なんかやったらお前がしばいてくれ…うちが許す…)
(それあきまへん。サン=ジェルマンのおっさんが血相変えてます…うちの全兵装とか全能力をジャンジャンバリバリと開放したらフィーバーどころやないと…)
はぁ、と溜息をつかれる聖母様。
「とりあえず聖院規範の厳守または遵守を怠るのはよろしうないということで、聖院金衣銀衣家族会の合意のもとでマリ公とベラ子に通達する…雅美さんは悪いけどこいつらの監督役として連座してもらうから…あと、痴女宮で皇帝室秘書課長の伊藤さんおるやろ、あの人も痴女島時刻で今日1日は懲罰服1号強制着用にされとるはずやから、ベラ子は連座させられる者への迷惑になる行為を慎むように…」
しかし、わしには疑問に思えることがあるのです。
この、セイザをさせられておるお三方。
普通ならば、絶対にこういう扱いには反発なさるはず。
なぜ、文句ひとつ申されないのか。
(痴女皇国の歩く規制委員会が2人揃ってる)
(ちなみにその委員会の筆頭のおばちゃんも叱られている対象なのです…)
(あたしも腹立たしいけど、内務局長の上に初代様の縁者になってるから…ううう)
つまり、聖院規範とやらに逆らうとこうなる、という見本にされておられる模様。
で、この懲罰服1号こと「島◯くんの服」ですが、大人の女が着るほどに痛々しく見えるのと、実際に着用を強制された人物の痴女種女官能力を著しく引き下げる効果があるそうです。
「まぁ、とりあえずフランス王国で競馬を流行させたいゆう意向があるのもわかるので、うちから妥協案を出そうと思うねんけど…さすがに万馬券どころか億馬券はなぁ…ソフィーちゃん、あんたなんか思いつかんか」
と、聖母様は私らフランス支部関係者が固まっておる中のソフィー王女に声をかけます。
「そうですわね…そもそも、聖院きはんとか申されるおきてとは、どなたをしたがわせるためにさだめられたのでしょうか。いえ、わたくしをふくめまして、女官とよばれるたちばのかたがたに道をふみはずさせないためにきめられたのはわかるのですけど」
むう。
この言葉を聞いて、わしやてれこは、なるほどと思ったのも事実ではあります。
「ジーナ、聖院規範について説明すると長くなる。そもそもこの懲罰服を着せているだけでお前以外は十分に懲罰だろ…」
「アレーゼさん…うちの懲罰服は確かに、こいつらと雅美さんに着せてるもんと違うて、単なる◯風くんの服やけどさ…精神的に来るもんがあるやん…」
「だからと言って私用の懲罰服を着せようとするのは勘弁して欲しいんだが。とりあえずマイレーネ、3名の正座を解いてやっていいか」
「アレーゼ様のお心のままに」
「という訳でとりあえずは手短に聖院規範について説明しておこう。ただ…マイレーネ…」
「ええ、わかっております。あれは明文化されてはおらぬもの…口頭伝承なのです…」
この言葉に、その意味が理解できたものは卒倒しかけたのです。
「つまり…だ、罪に該当すると思われるようなことを女官がやらかす度に、項目が追加されていくようになっているんだよ…ま、ちょっとそこらに座ってくれ」
と、正座中のお三方にセイザを解くように申される、アレーゼ様。
黒髪でむっきんむっきんなのが服の上からも明瞭にわかるお方なのですが、そのお姿はマイレーネ様の女給頭らしい装い同様に痴女皇国にしては珍しく「お尻剥き出し」ではないのです。
マリアリーゼ陛下曰く「いんでぃじょーんずが人類の秘宝を探しにいく時の格好とか流刑地大陸でワニと仲良くしてるおっさんの普段着」である、白シャツと褐色のズボン姿。お足元はボッテですね。
「いや、米大陸での服装はこれがいいだろうってマリアが見繕ってくれたんだけど…まぁいい、私も銀衣騎士の装備よりはもはやこちらの方がありがたい立場だ。で、今のところの聖院規範、こうだったかなマイレーネ」
で、マイレーネ様がとりあえず、手書きで書かれた紙をどこからかお出しになられます。
それには、こう書かれておりました。
一、殺すべからず。
一、犯すべからず。
一、盗むべからず。
一、辱めるべからず。
一、騙すべからず。
一、謀るべからず。
一、賭けるべからず。
「聖院規範は人の道を支える女官の道を誤らせぬもの。金衣以下、女官はすべからくこれを守るるべし…これが規範を定めた二代目聖院金衣、ベルナルディーゼ様のお言葉です」
「二代目様は現在でこそ厚労局長となって痴女皇国の運営を助けているが、世が世なら本宮のあるじの立場だ…」
(ええとですね、なんで私の母親でなく、私が定めたことになったのか簡単に申し上げます。マリアヴェッラの中に隠れている初代金衣からして「やらかす部類」だったからなのです…皆も、初代金衣必ずしも皆の規範とならずという事実を噛み締めておくように…)
(ベルナルディーゼ…この親ふこう者…)
(だいたい母様が聖院島封印の立場を忘れて暴れようとするから、私は白金衣をこさえたり聖院規範を定める立場にされたのですよ? 比丘尼国からプラウファーネを呼んだのも、他ならぬ母様の暴走をおかみ様に伝える役目という意味合いもあったのですからね?)
ええと。
その辺の経緯はともかく、とりあえずは聖院規範とやらについて。
これ、わしが見てもまぁ、意味は通るというか、なーんとなく意味合いはわかるのですが、厳密に実際の諸々を反映していないというか、法学的にがっちがちな法令文ではなく、一種の訓示…それも、かなり昔の方がお考えになったように思えます。
(実際に昔。一千年前に考えられたから)
(マリアリーゼ…あなたもいつかはおばちゃんとかおばはん呼ばわりされる立場ですよ…)
(二代目様、既に覚悟はできてます…あたしの母親見てたらわかりますよね…いくら若造りしてもですね…いてぇよおばはん!)
ええ、聖母様がマリアリーゼ陛下の頭をハリセンでしばかれたのです。
厳密には、ハリセンをマリアリーゼ陛下の頭の上に持って行かれただけ。
しかし、なぜかハリセンのハリセンたるやの部位が勝手に動いて、すぱこーんと景気のよい音を立てたのです。
「そのババア扱いしとる女をこき使い、NBの下院に送り込む企てを企てたんはどこの誰じゃ…聖院規範の謀るべからずに全力で抵触しとる…いや、歴代金衣の中で一番、聖院規範を破ってる金衣、お前ちゃうか…」
「あたし痴女皇国の上皇…」
「内部的には聖院金衣を継承しとるはずや…ベラ子の後見が解けるまではお前も現役金衣同等の扱いのはずやぞ…ですわな、マイレーネさんにアレーゼさん…」
「残念ですが聖母様の申される通りなのです…」
「つまり、今、聖院規範を破ったとされる場合、マリアとマリアヴェッラは連名で懲罰されるという事になるんだ…今がまさにそれだと思ってくれ…」
ええ、苦々しく言われるお二方と、聖母様。
「まぁ、やらかした事をいつまでも言うててもしゃあない。とりあえず競馬については日本円の万馬券を上限としてそれ以上の巨大配当を禁じる方向で行けばええんちゃうかな、雅美さん…」
「うーん、ただ、それにしても購入金額と購入馬券によっては億単位の配当が出るわよ…ほら、三連単とか重賞が買えるようになったせいで、億馬券が出た事例、日本でもあったじゃない…」
で、マダム田中の示される事例とやらを見ますと、2億5000万王国フラン(=南洋ルピー)という、そこそこ高額な配当が出たようですね。
「これはWIN5という特殊な馬券…5回のレース全ての一着を当てる必要があるんだけど、最高で6億円の払い戻し上限が定められてるのよ。あと、払い戻しが6億円を超えた場合はその残額が次のレースに持ち越されるキャリーオーバーを採用してるわね」
と、解説を頂きます。
で、わしの疑問。
そんだけの高額なおぜぜ、国が目ぇつけないわけがないと思うのです。
確かにフランス王国でも発売されておる富くじ、これについては非課税です。
ただ、これ…借財やら負債で首が回らんようになった者の救済措置として売り出しとる一面もございますし、売上については王国の福祉予算に充当するとしております。
つまり、民衆に還元されるべき金なのです、売り上げも。
(はい、たのちゃん。馬券でごはん食べてる人が裁判起こした事例があったわよねっ)
(ええええええ…いえ、馬券の話が出たからにはいずれそういう問題を言われると思ってましたけど…)
で、財務局のマドモアゼル田野瀬・副局長が心話参加してお話をなさるには。
(ええとですね、連邦世界の日本における競馬の勝馬投票券的中配当払戻金…要は馬券を当ててもらったお金は、雑所得かつ一時所得となります。裁判の場合は予想屋さんみたいな事してる人が、常々から必然的に出てくる外れ馬券までもを控除対象にしようとしたりしてたのかしら、ともかく外れ馬券を経費に含めるかっていうのが争点になっていました…これは、当たり馬券が仮に6億円だったとすると、その45%…2億7千万円が単純納税額になってしまうことが原因なのです)
(結構でかい金額やわなぁ)
(で、裁判の結果などを踏まえて、現状ではギャンブルの収入は雑所得かつ一時所得…つまり、一定の収入が連続して発生する毎月のお給料や日雇のお賃金などとは別枠になっています。これもその外れ馬券の控除問題が尾を引いてるんだけど、当たり馬券の発生したレースに対して購入した馬券費用総額を経費として控除申告するのは認めますけど、関係ないレースの分までは控除として認めませんという意味ですからね…あと、馬券の配当だけで生活している人だけが馬券を買うわけじゃありません。他に所得を得ている公務員や会社員…給与などを貰っている人については、その所得を含めて課税額を計算しますからね)
なもんで、単純に1億王国フランを当てたら4千500万フランを税金として徴収されるわけでもないことを、タノキチ様は力説なさいます。
(あと、違法カジノで勝ったお金であろうと賭博は賭博なので、課税されます。違法カジノを利用した犯罪とは別で、日本が民間経営の賭博を認めているいないに関わらず「賭博で勝ったなら一時所得だから納税してください」が税務署のスタンスなのです…賭博を認めてないのは刑法で定められているだけで、収入が発生した原因を調査して課税することまでは規制されてませんからね…)
な、なんというか…あこぎな取り立てのようにも思えますが…。
(例えば、アメリカ合衆国が昔、禁酒法という法律を作った結果、密造酒の流通が蔓延しました。そして密造を指揮した犯罪集団の統領であるアル・カポネというおじさんを捕まえるために、当局は密造酒売買や賭博場の経営を含めた無申告所得の脱税容疑で検挙しようとしたのです。つまり、非合法な手段で金銭を得ても、所得を得た以上は課税されます)
(あ、天の声の昔の雇い主が風俗店を経営した売上の脱税で捕まったことでもわかるだろって言ってるな…)
(麻薬や武器の売買でも所得が証明されたら課税されるのよ…薄い本の場合は持ち出し経費も多いから、税務署が諦めただけで…)
(漫画家の先生が不動産購入に絡んで無申告だった件もあるよな…)
(でね、話を痴女皇国の世界のフランスや英国の馬券に戻すけど、まりり…外国の人が馬券買ったらどうすんのよ。払い戻し金に発売国の課税制度を適用するわけ?)
(それもあるよな…まさに、フランスの競馬場で英国人が馬券を買って当てるってことも予想できるし…)
(でさぁ、あたしからの提案。要は聖院規範に縛られるのは尼僧を含む女官と、痴女皇国に厄介になってる罪人の方々や聖院学院の子たちでしょう。あと、聖母教会の偽女種さんたち。その人たちに対しては賭博禁止!と言えると思うんだけどねぇ)
む。
(つまりね、聖院規範に縛られない人が運営する外郭団体が馬券を売ったり払戻金を支払うのはいいんじゃない?)
ええええええ。
(た、確かに田野瀬さんの言う通りだな…マイレーネ、どう思う?)
(田野瀬様が言われる通りです…ただ、馬券とやらの倍率を定める事も含めて公平性を担保する規律が必要に思えますし、何より複雑な計算が必要ではないかと…)
(そこで、日本のパチンコ業界のような、みなし賭博方式が奏功すると思うのです…馬券の倍率設定はともかく、発売や払い戻し窓口を管理する非営利団体を設立するというのはどうでしょうか。そして聖母教会や聖隷騎士団が直接に関与するのではなくてですね、あくまでも福祉のために計算が必要だからと騎士団員や知能偽女種の方々を出向させれば、建前としては民衆の福利に貢献したことになるのでは…)




