二度寝
これは地元の友人松田さん(仮名)から聞いた話です。
松田さんの元カレに武末さん(仮名)と言う人がいて、その人が自称『霊感のある人』でした。と言っても、日常的に幽霊が見えるとかそんな感じではなく、武末さんが見るのはちょっと変わっていて、いわゆる『予知夢』と呼ばれるものです。
これがまた変なのですが、『予知夢』と言っても未来の出来事が見えるわけではなく、本人曰く『次に見る夢が分かる』のだそうです。
どういうことかというと、彼が『予知夢』を見るのは決まって『二度寝』の前でした。本当かどうか知りませんが、後で知り合いの霊媒師に聞くと、人は眠る直前や起きた直後などは半覚醒状態にあり、霊が取り憑いたり、あっちの世界と繋がりやすい……のだそうです。
武末さんは仕事柄良く夜勤に入っていました。昼間仮眠を取っているのですが、一度目を覚まし、二度寝をする間に、「次の夢はこんなだな」と何となく分かるのだといいます。
慣れてくると明晰夢? って言うんですか? 夢の中で「嗚呼これは夢だ」と気づけるようにまでなったのだとか。それはそれで好き放題出来て楽しいらしいのですが……。
最初にその話を聞いた時、私は「何それ」と笑ってしまいました。松田さんも「どうせなら現実の未来が見えたら良いのにね」だとか、武末さん自身も「こんな未来を見たって何の役にも立たない」と苦笑いしていたとの事でした。
でも今思えば、それが霊の仕掛けた罠だったのです。
ある日のことです。いつものように、武末さんは夜勤後、眠りにつきました。そして昼日中に目を覚まし、トイレに立ったそうです。
すると案の定、霊のいたずらか、次に見る夢のイメージが武末さんの頭の中に流れ込んで来ました。近所の公園の夢でした。いつも予知夢で、夢の内容を教えてくれるので、気がつくのも簡単でした。
それで……「俺は公園の夢を見ているんだな」そう気がついた武末さんは、どうせ夢ならいっそ現実で出来ないことをしよう、と思いつきました。まるで何かのゲームみたいに、そこら中モノを壊しまくって、ナイフを手に取り、人々を襲って……日頃の憂さ晴らし、ストレス発散のつもりだったのでしょう。
もうお分かりですよね? そうです、この間の公園での無差別殺人事件……。
……私多分、その武末さんに予知能力があったわけじゃないと思うんですよ。
きっと何処かの幽霊が、武末さんに狙いを着けて、あえて『予知夢』を見せていたんじゃないか、って。ええ、それで本人が「これは夢だ」と信じ、慣れてきたところで……分かりませんけどね。