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9 彼への手掛かり



 お兄様の『黒髪……?』という言葉が少し気にかかったが、今日はもう遅い。色々と疲れたし、もう寝ようとベッドに倒れ込んだ。



 翌朝、私は伯爵邸の中にある図書室に来ていた。

 本好きの私にとっては癒しの場所であり、大切な場所だ。


 婚約やら何やらでなかなか来れなかったが、一度色々と落ち着かせようと来てみた。


 伯爵邸の図書室は、結構大きく二階に渡って本がぎっしりと本棚に収納されている。図書室に入った途端、久しぶりの本のインクの匂いがして無意識に顔が綻んだのが分かった。


 今日は何を読もうかな、と図書室の中を歩いていると、魔術の本がふと目に入った。

 私は魔力が少なくて、気持ち程度の魔術しか使えないけれど、なんとなく気になって魔術の本を手に取った。


 そういえば、あの彼は精霊の花畑に入れるほどの魔力を持っているのよね。なら、余程の魔術師になっているんじゃないだろうか。


 そう思いながら、表紙を捲ってみた。


 その本には、色々な魔術が載っていて面白かった。ほとんどが私には出来ない魔術だったけれど、魔力が少ない私でも出来そうな魔術がいくつか載ってあり、今度試してみようと思う。


 彼を見つけるための手掛かりになりそうだと、他にも魔術に関する本を読んでみた。


 やはり、ほとんどが知らないことばかりで、非常に面白かった。


 そして、次のページを捲ると、私はページを捲る手を止めた。そのページに精霊の花畑に関することが書かれてあったからだ。


 そして、私はある一節に目を留めた。


『精霊の花畑は、コンバラリア一族と()()()()の高い魔力の持ち主しか入れない』


 王族並み……。


 しかも、その下には『王族でもトップレベルの高い魔力を持った者しか入れない』と書かれてあった。


 魔力を持つ者は、貴族にしか現れない。平民も極稀に魔力を持つ者が生まれるが、非常に少ない。

 そして、貴族でも男爵や子爵家の生まれだと、魔力量は無いのと同じようなもので、一つの魔術をギリギリ使えるレベルだ。


 伯爵家に生まれた私だけど、お母様が男爵家出身のため、魔力が少ない。


 そして、魔力は身分が上の者ほど高い傾向にある。それは、上位の貴族が高い魔力持ちを妻にして、代々受け継いでいるからだ。


 そして、王族ともなれば格別に魔力が高い。それなのに、王族でもトップレベルの者しか入れないとなると、ほとんどの人が入れないということになる。


 昔、おじい様が『精霊の花畑に入れるくらいの魔力の高い者は、いないだろう』と言っていたことが分かる。


 そんなのほぼいないに等しい。


 でも、彼はコンバラリア一族ではない。だけど、精霊の花畑に入れた。となると、彼は王族でもトップレベルの高い魔力の持ち主ということになる。


 彼は王族だったのだろうか。

 でも、あんなところに王族が来るとは思えない。


 やっぱり彼は謎に包まれているなと思った。彼は今どこにいるのだろうか。


 彼は忘れているかもしれないけれど、私はずっと彼のお嫁さんになる日を待っているのに……。


 もう忘れないといけないのだろう。だけど、忘れられる自信がない。子どもの頃の私を慰めようとして交わした約束を本気する私なんて、彼にとっては面倒なだけだ。


 すると、コツンコツンと誰かの足音が聞こえた。その足音が私に近づいてきたので、振り返るとそこにはお兄様が立っていた。


 すると、お兄様は信じられないことを言った。



「──レーア、お前の言う『彼』と話をしてきた」



 私は驚きのあまり、目を丸くする。

 お兄様の言っていることを理解するのに時間を要した。理解したはしたものの、信じられない。


 あのときの彼とお兄様が話を、した……?


 お兄様は、本当にこう言っているのだろうか。

 今までずっと会えなかった彼と? お兄様が?


「信じられないのも無理はないな」


 お兄様がそう言うということは、本当に会ったのだろう。


 ……会いたい。


 私は、一番最初にそう思った。

 会いたい。お兄様が会えるのなら、きっと私にも会えるはず。


「お兄様、会わせてください!」


 私はお兄様に飛びついて、懇願した。

 お兄様は、いきなり私が飛びついてくるのは予想外だったようで、困惑していたが私には関係のないことだ。


「お兄様、一生のお願いです! 私に会わせてください! 遠目に見るだけでもいい。話せなくてもいいから、会わせて欲しいんです!」


 私は縋るように一生懸命お願いする。

 お兄様はそんな私を見て、にこりと優しく微笑んだ。だけど、その口から出た言葉は全く優しくなかった。


「一生のお願いをこんなことに使うものではない。レーアは会っても『彼』だと気づかないだろうからな」

「そ、そんな……」


 私が彼を忘れるはずがない。絶対に気づける。なのに、何でお兄様はそんなことを言うのだろう。


「お兄様、私は絶対に気づきます。だから、会わせてください」

「絶対に気づかない。既に証明されている」

「何でそんなに言い切れるんですか!」

「何でもだ」


 冷たい。お兄様が冷たい。

 お兄様の可愛い一人だけの妹の一生のお願いを聞いてくれないなんて、冷たい。


「お兄様って冷たい人なんですね……」


 私がボソッとそう言うと、頭を叩かれた。


「俺はお前に幸せになってほしいと思っている。だからこんなにも、お前らに協力してやってるんだ」

「お前()?」

「ああ。お前と『彼』のことだ」

「え……」


 それってどういうこと?

 私は、約束が果たされることをずっと望んでいる。お兄様はそれに協力している。


 お前ら、ということは、彼も約束が果たされることを望んでいるのだろうか。


 本当にそうだったら嬉しい。だけど、これは私の望み……我儘だ。

 それで彼を縛り付けたくない。


 都合の良いように解釈してしまっている。

 そう思わないと、彼が約束を忘れていたと知ったとき、とても辛いだろうから。


 私はお兄様から離れると、お兄様は私の頭を撫でたあと、図書室の扉へと歩いていった。

 そして、一言だけ言い残して図書室から出ていった。



「──レーアが早く気づいてやらないと、『彼』が可哀想だ……」

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