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7 王城での昼餐会 3



「あらあら、レーアちゃんはきっぱりと言うのねえ」


 セレン様が倒れたというのに、王妃様は笑っている。普通、心配するところでは無いのだろうか。


 王族って全員ちょっと変わってるのかもしれない。特にセレン様はおかしいと思う。


「レーアちゃん、セレンのことどう思ってるの?」


 そんなことを思っていると、王妃様が質問してきた。どう思っているって迷惑でしかない。

 そのことを伝えると、王妃様は「正直ね」と笑っている。


 正直なのはダメなことだと思うんですけど。

 私はそこまでバカではないので、しませんけど、もし私がセレン様と結婚すれば、いずれ王妃になる。その王妃が嫌いな相手に、正直に嫌いと言うのは絶対にダメなはずだ。


 それなのに咎めることもなく笑っている王妃様を見て、私はふとあることを思った。


 国王陛下や王妃様、セレン様は、私をセレン様と結婚させるつもりは無いんじゃない?

 もしそうなら、少しくらいは注意があってもいいと思うんだけど。


 そもそも、私はセレン様のお嫁さんになるなんて一言も言っていないし、そう考えるのが自然だろう。その証拠に、セレン様から「好きだ」と言われたことは無いし。


 すると、いつの間にか起き上がっていたセレン様に後ろから抱きしめられた。それと同時に甘い香りがした。


「母上、俺のレーアを揶揄うのも程々にしてください」


 今、セレン様、俺のレーアって言わなかった!?

 その台詞はなんかずるい。


 でも私はそれくらいで騙されないんだから。何か企みがあるってことくらいお見通しですからね!


 セレン様が私から離れると、自分の席に座った。


「ところで、セレン。レーア嬢との結婚式はいつくらいに行うのだ? 待ち遠しいぞ」


 け、けけけ結婚式!?

 またまた聞き慣れない言葉の登場に緊張してしまう。

 ていうか、そもそもセレン様とは結婚するつもりは無いんですが。


 なんか、国王陛下も王妃様も婚約解消どころか、今すぐ結婚させようとしている気がする。でも、それも何かの企みによるものなのだろう。


 私は騙されてやらないんだから!

 軽く見られては困りますよ。


 セレン様は国王陛下の問いに、考え込んでいるようだった。


 やっぱり、セレン様は私と結婚するつもりなど無いんじゃない?

 そもそも何かの企みがあるから婚約しているだけで、結婚するつもりはない。でも、国王陛下や王妃様は私に怪しまれないために、私の前で結婚式の話をしている。


 何かそうな気がする!

 これはイケるんじゃない? 婚約解消できるんじゃない?


 私が心の中で、ふふふ、と悪巧みをしている風に笑っていると、いや、悪巧みしている『風』ではないな。現にしているのだから。

 すると、セレン様が暫くの間、閉じていた口を開いた。


「今は、レーアが俺との『()()』を忘れているようなので、レーアが思い出したらします」


 約束?

 今までセレン様は、約束だなんて一言も言わなかった。いつも、俺のお嫁さんになることを承諾してくれた、としか言わなかったのだ。


 俺のお嫁さんになる、ということが今のセレン様が言う『約束』なら、もしかしたら……。

 だけど、髪色が違う。髪色は変えられないはずだ。


 まあ、そんな約束をする子どもだって私の他にも、何人かはいただろうし。


 やっぱりセレン様の勘違い、もしくは、セレン様が何らかの形で私の『約束』について知り、それを利用して何かを企んでいる。

 このどちらかだろう。まだ何かを企んでいるという可能性があるから、警戒しておこう。


 私が心の中で、この婚約の真相を推理して、今後の方針について考えていると、今度は国王陛下から質問された。


「レーア嬢はコンバラリア家の人間だから、精霊の花畑には入れるのだろう?」

「はい」

「精霊の花畑についてどう思う?」


 何これ?

 試験かなんかなのだろうか。これって、チャンスじゃない? チャンス来たんじゃない?

 ここで、将来の王妃に相応しくない答えを返したら、婚約解消できるんじゃない?


 なんかイケる気がする!


「精霊の花畑など価値の無いものです」


 精霊の花畑の中には、貴重な薬の材料となる精霊の花畑にしかない薬草や、飲めばどんな病でも治るという空から降ってくる滝の水など、価値のあるものばかりだ。

 そんな精霊の花畑を価値の無いものといえば、王妃に相応しくないと判断されるはずだ。


「何故、価値が無いと思う?」

「精霊たちが許さないと薬草も水と取ってはいけないからです。その精霊たちは何十年に一度くらいしか許してくれないのに、許されたとき取れるのは薬草も水もほんの少しだけ。その量では飲んでも効果がなく、薬草も薬にはできません。次に取れるときまで置いていたら何十年といつ月日が経つのですから、水も薬草も効果が無くなるという意味のないものなのです」


 私は長々と理由を説明すると、国王陛下はじっと私の目を見て、何かを見極めているような様子を見せた。


 その国王陛下の目から視線を逸らせないでいると、セレン様に腕を掴まれて引き寄せられた。


「父上もレーアも見つめすぎです。レーアと見つめて良いのは俺だけなんですから」


 この国の王太子、嫉妬深すぎじゃない?

 別にそれくらい良いでしょ、と思う。国王陛下もやれやれといった様子で私を見ていた。


「セレン、レーア嬢とイチャつきたいのは分かるが、もう一つだけ質問させて欲しい」

「嫌です」


 国王陛下のお願いにセレン様は間髪を入れず、嫌だと返す。

 私はセレン様が嫌だと言ったのが嫌である。質問を聞くのは私の自由なはずだ。セレン様がその自由を奪う権利はない。


「何でしょうか、国王陛下」


 私が国王陛下にそう言うと、セレンは不機嫌そうに綺麗に整った顔を歪めた。


「精霊に許されたときに取れる量は、レーア嬢の言うほんの少しのときもあるが、多いときは一人分どころか十人分取れると聞くが」


 やっぱり。この質問は飛んでくるとは思ったけれど、精霊の花畑については私の方が詳しいはずだ。国王陛下を騙すことは出来る。


「それは真っ赤な嘘です」


 私はそう真っ赤な嘘だという真っ赤な嘘を、国王陛下たちに言ったのだった。

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