39 精霊と聖女 1
私だって弱いままじゃない、とはいったものの、私ってお兄様の足手まといにしかなっていないのでは?
今、お兄様は精霊の花畑に何故か大量に発生している魔物と戦っている。
「レーア、危ない!」
お兄様に急にそう言われたかと思うと、私の視界に影がさした。
もう目の前に魔物がいた。
襲われる……!
私は瞬時にそう察したが、何も出来ず目を閉じることしか出来なかった。
もうすぐ来るだろう魔物の攻撃をただ待つしか出来ない。
数秒経ったあと、なかなか攻撃が来ないと思い、恐る恐る目を開けた。
すると、額を貫かれている魔物が私の視界に入った。
恐らくこの魔物は、お兄様が倒したのだろう。
お兄様は私を守りながら戦っている。そのため、魔力の消耗が早いように見えた。
今のままじゃ私は、お兄様の足を引っ張る存在でしかない。
───弱いままじゃないんでしょ、私!
私は私自身に叱咤し、周りの状況を確かめ、自分でも出来ることを考える。
まず、この魔物が大量発生している異常な状態を、もとに戻すには何をしたら良いのかが重要だよね。
屋敷で聞いた「助けて」という声以外には、今日は精霊の声を聞いていない。
もしかしたら、精霊の声からどうすれば良いのか分かるのかも、とか思っていた。でも、この場所に来ても何も聞こえない。
だから、どうすればいいのかが分からないままだ。
とりあえず、お兄様の邪魔にはならないようにしなくては。
私は急いで自分の周りに防御結界を張った。
これはお兄様と街へ出かけて、誘拐されかけたときには使えなかった魔術だ。
この魔術は常に魔力が少しずつ奪われていくため、それなりの魔力が必要なのだ。
私は魔術の特訓もしたが、魔力量の特訓もした。
おかげで魔力が特訓前の倍くらいになっている。
これは私が成長期なのと、すずらんの聖女で精霊と深い関わりがあったからこそ、異常なほど成長したのだと、お兄様は言っていた。
これでも、お兄様はこの国の魔術師団の団長なのだから、お兄様の言う通りなのだろう。
それに、魔力をあまり使わずに魔術を行使する方法を、お兄様に教えてもらったのもあって、今こうして結界を張っても何もないくらいに成長した。
正確には、お兄様に教えてもらったのかどうか分からないけど。
だってお兄様、教えるの下手くそだし。
『いいか、レーア。ブワッてしたら魔力が大量に奪われるから、フワッてするんだ。そうすると、同じ威力なのに魔力があまり減らない』
体全体を使って一生懸命、私に教えようとしていたお兄様を思い返す。
多分、お兄様はそれで私に伝わってると思ってるけど、ここは鈍感お兄様。全く伝わってないことが伝わってない。
その時、幸いにもフィアナ様が我が家に来ていた。フィアナ様に通訳をしてもらっていたから分かったものの、いなかったら未だに伝わってなかったと思う。
つまりは、フィアナ様のおかげ!!
お兄様もフィアナ様を少しは見習って欲しいものだ。
ところで、精霊はどこにいるんだろう?
いつも姿を隠していて、コンバラリア一族である私でも、その姿は見たことがない。
でも、精霊の花畑がこんな状態だということは、精霊だって危険な状況なんじゃ……。
「お兄様は、どうしたらいつもの精霊の花畑に戻るのか分かりますか?」
私には分からない。
ここはお兄様に聞いてみるべきだ。お兄様だってコンバラリア一族。精霊の花畑について普通の人よりは知っているはずだし、何か知っているかも。
そう思ったが、その期待はすぐに裏切られた。
「残念だが、俺にもどうしていいのか分からない。だが、この異常な魔物の大量発生は、過去に2回起こったことが記録されていて、何百年かの周期で起きていると考えられる。それでも異常なほどに多いがな」
お兄様は私の質問に答えながら、魔力で作った剣を使って、お兄様に迫いくる魔物を全て倒していた。
私もお兄様ほどではないが、お兄様が魔力で作った剣を使って、魔物を倒していく。
お兄様に剣の稽古もつけておいてもらって良かった。
魔術だけで大丈夫だと思ったけど、誘拐されかけたときみたいに魔力が枯渇してしまったときの、自衛できる術があるのとないのでは全然違うからね。
というか、お兄様って魔術も完璧だし、剣術もそれなりに強いし、認めたくはないけど容姿もまあまあ良いのよね。
なんか、お兄様って完璧なんじゃ───なかった!
教えるのが下手くそだったのを、危うく忘れるところだった。
『レーア、助けて』
突然、声が聞こえた。
この声って……!
頭に直接話しかけられているような声。間違いない。精霊の声だ。
『このままじゃ、精霊の花畑は消滅するわ』
「消滅する!?」
『精霊の花畑を維持してるのは、私の魔力なの。だけど今、私の魔力が魔物たちに吸い取られている。だから、もう、私には精霊の花畑を維持できるほどの魔力を持っていない』
精霊の花畑の消滅は、国家において重大な事件だ。
なぜなら、精霊の花畑があることによって、この国に存在する魔力が多くなるからだ。
魔力が少なくなってしまうと、魔物が多く発生する。
だから、精霊の花畑がなくなるのは、この国にとっても私にとっても絶対に避けたいことなのだ。
「レーア、精霊から何か言われたのか?」
私の言動からそう察した、こういうところだけ鈍感じゃないお兄様が、私に問いかけてきた。
私は精霊に聞いたことをお兄様に説明する。
「さっき、精霊さんから声が聞こえたんですけど、えっと、精霊の花畑がこのままだと消滅するって……」
「消滅する!? どういうことだ?」
私は精霊さんから聞いた通り、お兄様に説明した。
すると、お兄様は少し考え込む様子を見せた。
かと思えば、眉間に皺を寄せて焦っているように見えた。
こんなお兄様は見たことがない。
お兄様がすごく焦るほどに、大変な状況なのだろうか。
「レーア、まずいことになった」
「え……?」
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