38 危険の訪れ
レオン様は私のことが好き、だったなんて。
全く分からなかったし、知らなかった。
今思えばレオン様とデートする約束をしたあとのお兄様の笑いは、このことだったのかもしれない。
お兄様はレオン様が私に、告白するのが分かってたのかも。
お兄様って鈍感なのに、そういうとこだけ鈍感じゃないの、なんか都合よすぎ。
そう思いながらも、私は聖女について調べるために、図書室に来ていたのを思い出す。
国王陛下直々に頼まれたんだもの。どんなに難しくてもやらなきゃ。それが聖女の務めだから。
物音一つ響かない図書室で、本のページをめくる音だけが図書室にこだまする。やがて、本がパタンと閉じられる音が響いた。
「何も……分からない!」
やっぱり、過去に一度あっただけで、それも一部の人たちしか知らなかったっぽいから、そう簡単に本を開いただけで見つかるわけないよね。
流石にもう本からの情報は得られないか……。
聖女になってからというもの、たくさん本を読んで、魔術のことや聖女のこと、精霊のことなどを調べまくったが、あまり良い情報は得られていない。
そもそもの話、それらについて書いてありそうな本を何百冊と読んだけど、全く載ってない!
99%以上、そのことについて書いてない。
もう、私はどうしていいのか分からないじゃない。昔の人、もっと残してくれててもよかったのに!
「レーア、そろそろ休んだらどうだ?」
お兄様がやってきた。
また私をいじめに来たのかと思ったら、心配してくれていたようだ。本当かどうかは知らないけど。
「いいえ。精霊の花畑に異変が見られた以上、文献にあった通り、精霊の花畑に危険が訪れるのは近いと思うのです」
「そうは言うけど、本当に危険が訪れるのかどうか分からないのに?」
確かにお兄様の言う通り、本当に起こるという確信はない。ただ、文献を読んでみんながそう騒いでいるだけ。
それだけ、だけど。
「だって、私は小さい頃から精霊の花畑が好きで、そんな大切で大好きな場所に危険が訪れて、なくなっちゃったら嫌だから」
「ふーん。なら、俺も協力してやるよ、レーアに。俺にとっても精霊の花畑は大切な場所だからな」
「ありがとうございます、お兄様」
お兄様も椅子に座り、そこら辺にあった本を開き始めた。
お兄様も手伝ってくれてるし、私も頑張らないと。
そう思った時だった───。
『助けて』
そう頭の中に直接話しかけられているかのような声がした。
「誰!?」
私は驚きのあまり慌てて立ち上がり、そのため座っていた椅子はガタンッと倒れた。
「何があった、レーア!」
近くにいたお兄様には聞こえていないように思えたため、声が聞こえたことを説明する。
「それって、精霊の声、じゃないのか!?」
「もしそうなら、精霊の花畑が……!!」
……危ない!!
今すぐ私が行かないと!
助けに向かわないと!
私が何をしたら良いかわからない?
そんなのはまず、精霊の花畑に行ってから言うことだ。
まず私がすべきこと、それは精霊の花畑へ今すぐ急いで向かうこと!
そして、私は図書室を飛び出した。
すると、後ろから私を呼んでいる声がした。お兄様の声だ。
「レーア! 一人で行くんじゃない!」
「お兄様、だって急がないと」
「それなら尚更だ。いったん冷静になれ。そして、俺の手を握ってろ」
よく分からないけど、今すぐ駆け出したい気持ちを抑えて、お兄様の手を握る。
「魔術陣展開!」
お兄様が大きな声で言った。
お兄様は一体何をするつもりなの……。
すると、辺りに風が吹いた。
お兄様の瞳の色は緑。緑は風属性の魔術に適性があるはずだ。
つまり、この風はお兄様の魔術によるものだろう。
でも、こんな時に魔術を使うってことは、何かあるはず。
急がないといけないけど、お兄様がそれを分かっていないとは思っていない。
今から一体何が起こるの?
……まさか!!
一つだけこの状況で魔術を使う理由、それは目的の場所へ転移すること。
でもそれは相当の魔力がいるし、お兄様の魔力量は知らないけど、でも無理なはず。
お兄様が魔術師団の団長だからってそんなの出来やしない。
そんな事が出来るのは、今まででもそれは一人しかいない……。
今まで文献を読み漁ってきたから、転移という魔術があることや、それを使えた人物が一人いることを知っている。
お兄様はそれを知っていたのだろう。
お兄様って一体どれだけすごい人なんだろう。
すると、私の視界が一瞬、真っ白になった。
と思えば、さっきまでいた図書室ではない場所にいた。
「え? ここはどこ!?」
「精霊の花畑だ。魔術を使ったほうが早かっただろう?」
何事もなかったようにお兄様は答えるが、これは大変なことだ。
「そ、それはそうですけど、そんな転移魔術なんて使えるのは『すずらんの聖女』しかいないはずで、お兄様が使えるはずは……」
「よく知ってるな。その通り、俺には使えない」
お兄様には使えない?
ならどうして転移できたの?
「レーアの力をちょっと借りさせてもらったんだ」
「わたしの力?」
「そう、レーアの、すずらんの聖女の力をな」
転移はすずらんの聖女にしか使えない。
つまり、すずらんの聖女の力があれば使える。お兄様はそう言いたいんだ。
まだお兄様に問い詰めたいことは山ほどあるけど、まずは精霊を助けなければ!
精霊の花畑に美しく咲いていたすずらんは枯れており、滝の水の色も禍々しい色をしていた。
何が起こったのかは分からないが、これが『精霊の花畑に危険が訪れる』ということなのだろう。
私の思い出がたくさん詰まったこの場所を、必ず守り抜いてみせる!
精霊の花畑に訪れた危険なんて吹っ飛ばしてやる!
魔術の練習もこの日のために頑張った。
私だっていつまでも弱いままじゃないんだから。




