34 夏至祭 3
セレン様がお兄様の名前を口にした。
私には見えないがセレン様は見えているのかもしれない。
あの光が光った辺りを見ながら、そう口にしているのだから、恐らくセレン様はあそこらへんにお兄様がいるのが見えたのかもしれない。
ただ、私の推測でしかない。
お兄様がいるのも分からない。
「セレン様、どうしたのですか?」
一応セレン様に聞いてみる。
「さっきの光、恐らくヴィルのせいだ」
「え!?」
ということは、お兄様はここにいて、あの光はお兄様の魔術ってこと?
何でここにいるの、お兄様!
言ってくれたって良かったのに!
「そして、フィアナ嬢もいるみたいだ」
「え、フィアナ様も!? ということは!」
私は嬉しくなり、後でお兄様に色々と聞かないといけないなと思う。
だって、お兄様とフィアナ様だけだよ? そんなのデート以外の何物でもない!
逆にデートじゃなかったら何なのか分かんないし。
きゃあー! ようやく、お兄様とフィアナ様がくっついてくれるのねー!
フィアナ様とも色々とお話してみたいとずっと思っていたし、これから楽しくなりそう! 特にお兄様の恋愛話が。
「ヴィルたち、うまくいったみたいで良かった」
「はい! それも、セレン様のおかげでもあります!」
「それなら手伝った甲斐があるな。とはいえ、そんなに手伝った覚えはないけど」
「確かに!」
「レーアらしいな」
私らしいって何が私らしいんだ。
何か心の中でモヤッとしたが、無かったことにした。
「ところで、セレン様」
「うん?」
「一つ聞いてみたいことがあったんです。その、セレン様の誕生日っていつですか?」
「えっ!? まさか、レーアは覚えててくれなかったの!?」
覚えててくれなかった?
ということは昔に聞いたことがあるのかもしれないけど、頑張って思い出そうとしても出てきませんが。
「すみません、覚えてないです」
「5の月の28日だよ。俺の誕生日パーティー来てくれたのに、覚えてくれてないだなんて。今度はちゃんと覚えておいてね?」
「……はい」
あの日だったのか……。
そういえば確かにあの日、セレン様の誕生日パーティーに行ったんだったよね。
うんうん、今でもあれは覚えてますよ。急に婚約してるだなんて言われたんだから。
もう、セレン様もお母様たちも私に何も言わないんだから、ホント酷いよね。
「あ、レーア、もうそろそろだよ」
「え? 何がですか?」
すると、ドドーンと大きな音を鳴らしながら、夜空に花が咲いた。
「わあ〜! 花火だったんですね! きれい……」
「花火が霞んでしまうくらい、君の方がきれいだよ」
「うわあ……ベタ過ぎる台詞ですねー」
私は呆れを含んだ声で言った。
だって、ベタ過ぎやしないだろうか。
「全く信じてなさそうだな」
「信じてなさそう、ではなくて、その通りなんです」
「ほんと、レーアは正直だよね。レーアは知ってる? この花火のこと」
花火のこと?
花火は花火だ。それ以上でも、それ以下でもない。
「知りません」
「この夏至祭で打ち上がる花火を意中の異性と見ると、結ばれるんだって」
「そうなんですね。ですが、私たちには関係ありませんね」
セレン様が急に黙ったものだから、恐る恐るセレン様に目を向けると案の定、悲しそうにしていた。可愛い。
「なぜレーアはそう思う?」
「だって、私はセレン様を好きではないので、意中の異性ではありませんし、セレン様も私のことなんて何かの計画に必要だったから、婚約しただけでしょうから、お互い意中の異性だとは思えません」
「は!?」
セレン様が今までに聞いたことのないくらい大きな声を出した。おかげで近くにいた私の鼓膜が破れるかと思った。
「いきなり大きな声出さないでください! 心臓に悪いです!」
「それはごめん、レーア。だけど、レーアは全く俺の気持ちに気づけてない。こんなにも伝えているのに……」
「……え?」
セレン様の気持ちに気づけてない? 私が?
セレン様の気持ち、それは、私を利用して何かを企んでいる、ということじゃないの?
「レーアは勘違いをしている」
「私が、勘違い?」
「そうだ」
セレン様は深呼吸をして少しの沈黙のあと、形の良い唇からセレン様の気持ちが告げられた。
「レーア、俺はずっと……ずっと、レーア一人だけを見ていた。だから」
セレン様は言葉を区切ると、意を決したように続きを話しだした。
「───俺は、レーアのことが好きなんだ。ずっとずっと昔から」
セレン様から初めて聞いた言葉。
今までセレン様から『好き』と言われたことがなかった。
───だから、私は何かの企みだと思いたかったんだ。セレン様が好きだから。傷つくのが怖かったから……。
最初の頃は単純に、この婚約は何かの企みによるものだと思っていた。
セレン様を好きになってからでも、本当に何かの企みによるものだとしか思えなかったから、傷つくのが怖いから、こっちから婚約解消しようとした。
あとで、愛のある婚約だと信じて、婚約破棄されるのが一番辛いから───。
セレン様に言われて気づくなんて、お兄様の言う通り、私も鈍感だなあ。
「ありがとうございます。セレン様」
私はセレン様に聞こえないくらいの小さな声で呟く。
「ん? 何か言った?」
「何も言ってませんよ」
「そう? ならいいけど……」
でも、まだ信じられない。
セレン様が私を好きだなんてそんなこと、あると思う?
私は今すごく嬉しい。
だけど、まだ、頭の片隅には彼がいる。
私って酷いよね。
セレン様がさっき言った言葉が本当の気持ちなら、私はセレン様に相応しくない。
だって、信じられないけれど、あれが本当ならセレン様は私をすごく思ってくれているということで。
私はまだ彼が頭の片隅にいる。そんな中途半端な気持ちでセレン様と向き合いたくない。
そんな状態でセレン様といるなんて、セレン様に酷すぎる。
でも、彼も忘れられないのも事実。
ちゃんとセレン様と、彼と、自分の気持ちと、向き合わないと、私がセレン様を傷つける。
それは私の本意ではない。
でも、今日はセレン様への自分の気持ちに気づけた。
それだけで、私にとっては今日という日は素晴らしい日なんだ。




