33 夏至祭 2
「うわあ! すごい、綺麗!」
「でしょ? レーアとずっと来たいと思っていたんだ」
私たちは湖に到着したあと、馬車から降り、湖や湖周辺を見回した。
湖の周りには、キャンドルがゆらゆらと優しい光を放ち、その光が水面に反射して、とても綺麗だ。
また、夜空からキラキラとした星みたいな小さい光の粒が降ってくる。
きっと、魔法で作り出しているのだろう。湖の周辺にしか降っていないが、それでもきっと膨大な魔力が必要に違いない。
それに、湖の周りには屋台もいくつか出ていて、美味しそうな匂いを出している。
「レーア、湖を一周するついでに屋台も見でまわろう」
「はい、セレン様」
これは私もそう思っていたので、セレン様に賛成しておく。
すると、私の手がセレン様の手に絡め取られた。
なんかこれも、もう慣れてきたな……。
慣れたくないんだけどね!
「あそこ行こ! レーア」
セレン様が一つの屋台を指さした。
すると、急にセレン様が走り出した。
なんかいつもと違うセレン様だ。子供みたいな感じ。
まあ、いつも堅苦しい王太子やってるし、たまには年相応の……それにしては子供すぎるかもだけど、肩の荷を下ろしたいのかもしれない。
「おじさん! 二つちょうだい!」
「はいよ!」
なんかセレン様、手慣れてる?
セレン様が代金を払い、おじさんから二つの串焼きを受け取ると、片方を私に差し出してくれた。
「あ、ありがとうございます。セレン様、聞きたいことあるんですけど、聞いてもいいですか?」
私は差し出された串焼きを素直に受け取ると、セレン様に聞いてみた。
「何でも聞いてくれていいよ」
「セレン様、なんか手慣れてません? いつも通りみたいな顔して」
「ん? まあ、みんなには内緒だけどね、王太子も窮屈なものだし、たま〜に小さい頃から一人で黙って城を抜け出してるんだ」
意外だ。
セレン様も以外とそういうことをするらしい。
婚約する前は真面目で冷静沈着な王太子ってイメージで全くそういうことをしなさそうな感じだったけど、小さい頃からそんなことをしてるらしい。
どうりで手慣れた感があったのだろう。
「レーア、この串焼き、当たりだと思わない?」
串焼きを美味しそうに頬張るセレン様に言われて、まだ一口も食べていなかったことを思い出し、串焼きを一口食べてみる。
王太子の肥えた舌でも当たりだと思わせるほど、この串焼きは美味しかった。
あのおじさん結構イカツい見た目してたけど、ちゃんと美味しい。って言ったら、あのおじさんに失礼か。
「私もこれは当たりだと思います!」
「やっぱり? あ、あれも美味しそう。レーアはちょっとそこに座って待ってて」
セレン様は近くにあったベンチに私を座らせると、人が十人ほど並んでいる屋台に並ぶ。
きっと、セレン様は私を長いこと立って待つことをしなくてもいいように、私をベンチに座らせてくれたのだろう。
なんかそういうのサラッと出来るセレン様がかっこよく見えてくる。おそらく幻影だと思うが。
しばらくさっきの串焼きを食べながら待っていると、セレン様がフルーツと小さな星のような形をしたゼリーが入った、これまた美味しそうなものを持ってきた。
「レーアはこういうの好きでしょ?」
「はい!」
「これ、食べたい?」
「食べたいです!」
「なら……」
一旦言葉を区切ると、セレン様が何かを企んでいるような顔をした。
なーんか、嫌な予感が……。
すると、セレン様は自身の右頬を右手の人差し指で何回か叩いた。
「してくれたらいいよ」
これって、頬にキスしてくれたらいいよってことだよね!?
いや、無理だからね?
食べたいけど、それはどうか勘弁して欲しいと口にしようとしたとき。
「なーんてね、冗談だよ。ごめんね、揶揄って。はい、あーん」
って、えええ……!!!
セレン様はスプーンで少し掬い、私の前に差し出してくる。
ここでそれする!?
人めっちゃいるし、恥ずかしいんだけど。
私は唾をごくっと飲み込んだ。
でも、食べたい!
私は口を開けて、差し出されたスプーンに食らいつく。
「おいひーです!」
令嬢としては口の中にものを入れて喋るのは、はしたないことだけれど、今はそんなことを気にしなくてもいい。
「良かった。はい」
セレン様はそのフルーツとゼリーの入った容器を渡してきた。
私はありがたく受け取っておく。
「レーア、ちょっと来て」
セレン様に来てと言われたので、大人しくセレン様についていく。何やら湖から離れていってるっぽいけど、何がしたいのだろう。
そう思っている間にも、湖からどんどん遠ざかっていく。段々と暗くなってきて、怖くなってきたとき、セレン様が立ち止まった。
目の前には私の身長よりも少し高い大きな石がそびえ立っていた。
セレン様はその石に手をかざす。すると、石に人が一人入れるくらいの大きさの穴が空いた。
恐らくセレン様は魔術を使ったのだろう。
すると、セレン様は私の手を握り、空いた穴の中へ入っていく。私もセレン様に引っ張られて何が何だか分からぬまま、穴の中へと入っていった。
「……レーア」
セレン様に名前を呼ばれ、恐る恐る目を開くと、いつもよりもかっこよく感じるセレン様の顔と、湖が目に入った。
「え……?」
湖全体が見渡せる、この不思議な場所はどこなのだろうとか、何をしにここに来たのだろうとか、色々思うことはあるけれど、それよりもここからの景色が綺麗で幻想的で見惚れてしまう。
しばらく煌めく湖に見惚れていると、ある一点から眩い光がキラッと光った。かと思えば、その光は空高く飛んでゆき、空中で爆ぜた。
花火のようだが、花火ではなく魔術の一種だということが分かった。
だけど、何が起きたのだろうと最初にキラリと光った辺りを見てみる。
まあ、見たところで遠くて何も見えはしないのだが。
すると、セレン様もさっきの光が気になったようで、光った辺りを見ると、驚きを含んだ声で呟いた。
「ヴィル……!?」




