31 やっぱり婚約者はイヤ!
「そうじゃありません! 何度言ったら分かるのですか!」
「はい、すみません……」
はぁ、やっぱりセレン様の婚約者なんてヤダーーーーーーーーーー!!!!!
今、私が何をやってるかって?
そんなの決まってる。
もちろん、王太子妃、のちの王妃に相応しい礼儀作法を叩き込まれているのである。
伯爵令嬢とはいえ、そこらへんは厳しかったので完璧だと思っていたのだが、全くそうではなかったらしい。
ということで、私は教師を付けられて勉強にダンスに礼儀作法にと、色々なことを学んでいる。
といっても面倒くさいし、正直今すぐに逃げ出してしまいたい衝動に駆られているが、気合で我慢している。私を褒めて欲しいくらいだ。
こうなるんだったら、セレン様の婚約者なんて嫌だ。
ちょっといいかもと思い始めてたけど、やっぱりしんどいし、私には王妃とか王太子妃とかに相応しくないし、こんな半端な気持ちでなっても責任なんて負えない。
多分、そんな王太子妃や王妃はみんな嫌だと思う。きっと、神様は私に婚約を解消しなさいって言っているんだ。
よし、婚約解消してみせるんだから!
セレン様には申し訳ないけれど、私がこの国のことを考えた末の婚約解消なの。だから、許してくれるよね?
このことを伝えたセレン様を想像してみると、思わず笑ってしまいそうになる。
きっと、カチンコチンに固まって、悲しそうな顔をして、絶対に嫌だって言う。
王太子があんなで大丈夫なのかと心配になってしまう。
だけど、外ではちゃんとやっているようで、評判も良い。早く王位を継いで欲しいという声もあるくらいだ。
きっと、みんなからの支持や信頼があるセレン様なら、賢王になってくれるだろう。
私がいなくても……。
何故か少し寂しくなってしまったが、無かったことにした。
だって、これ以上にセレン様と一緒にいたら、きっと私は、セレン様のことが好きになってしまう。
それは絶対にダメだ。
こんなに何も出来ない、何の取り柄もない私が王太子妃に? ましてや王妃に? なれるわけがない。
そんなの一番私が分かってる。
みんなはお似合いだとか言うけれど、私はそうは思わない。
私なんかが、セレン様と釣り合うわけが無いから……。
「……ア様、レーア様! 一体何をボーっとしてらっしゃるのですか? 次は、婚約式のためのダンスのレッスンですよ」
婚約式───それは、公に婚約発表をする式のことだ。この婚約式を経て、正式な婚約者となるが、私たちの場合は全く必要のないものだ。
セレン様のせいで、もうこの国のほとんどの人が知っていることである。
つまり、私たちの婚約式は形だけのものとなるのだ。
だからなのか、余計面倒くさく感じてしまう。
「はい」
いやいや返事をし、ダンスのレッスンに取り組もうとしていたとき、私たちがいる部屋の扉が叩かれた。
そして、それは私たちの返事など不要だというように、直ぐに開いた。
「レーア! 会いたかった」
「セレン様!? 何故こちらに?」
「そんなの決まっているじゃないか。レーアに会うためだけど」
「コホンッ」
先生の咳払いで私とセレン様は黙り、先生が話し始めた。
「王太子殿下、これからダンスをしようと思っていたのです。良かったらレーア様と踊っていかれませんか?」
セレン様は顔をぱぁっと輝かせて、二つ返事で了承した。
このセレン様は、ちょっと可愛いかった。
セレン様が片膝を折って跪くと、私の手を取った。
そして、その綺麗な形をした唇から甘い言葉が紡がれる。
「俺だけのプリンセス、俺に二人きりの時間を与えて欲しい。俺と一緒に踊ってはくれないだろうか」
別にセレン様と踊ることはいいんだけど、ものすごく「はい」と言いにくいんですけど。
なんでだろうね、いや、そんなのセレン様のせいに決まって入るんだけど。
「セレン様、私はセレン様だけのプリンセスになるつもりはありません。それに婚約をしているからといって、既にセレン様のものになったつもりもありません。よって、セレン様の言う『俺だけのプリンセス』は私ではない方なのですね。一体先程のセレン様は誰に言ったのでしょうか?」
私は何事も起きてないように普通に最後まで話したが、それを聞いているセレン様は、さっきの台詞の冒頭部分で既に倒れていた。
私はセレン様のプリンセスになるつもりは本当に無いのだから、しょうがない。
セレン様には倒れててもらっておこう。
「コホン、レーア様、王太子殿下にそのようなことを言ってはなりません。いくら婚約者だとしても無礼ですよ」
うーん。
無礼なのは分かるけど、セレン様が倒れてすぐに助けようとしない先生も無礼かと思うのですが……。
まあ、私も無視してるんだから人のことは言えないけど。
「はい。すみません、先生」
心の中ではそう思っていたが、とりあえず返事しておく。
「レーア! 俺のプリンセスにならないとはどういうことだ!?」
いつの間にか復活していたセレン様が、私に縋り付いてきた。
そのままの意味です、と答えようとしたら先生からの視線が痛く、とりあえず今はセレン様に無礼ではない言葉を選んで話を逸らそう。そうしよう。
「あ、セレン様、ダンスしましょう!」
「あ、ああ、そうだな」
セレン様がそっと手を差し出してきた。
私はその手に自身の手を重ねる。
すると、セレン様は蕩けそうなくらいの甘い声で、甘い言葉を吐く。
「レーア、今は俺だけを考えて欲しい」
よくもまあ、そんな恥ずかしいことをスラスラと吐くことで。あの口は甘い言葉製造機かなんかかと疑ったこともあるくらいだ。
先生にバレないように、ジトッとセレン様を睨む。先生にバレたらまた怒られるから、バレないようにしなきゃ。
セレン様はというと、睨まれているはずなのに何故か嬉しそうに顔を綻ばせている。
どこに嬉しそうにする要素があるのかは、私には分からなかった。
やっぱりセレン様って、よく分からない人だ。




