30 お兄様の恋 6
「お兄様、どうでしたか!?」
私は帰りの馬車に揺られながら、お兄様からフィアナ様との二人きりのときのことを聞いていた。
「何故レーアにそんなこと言わなきゃならないんだ?」
今更お兄様は何を言ってるのだろう?
もちろん私の娯楽のために決まっているじゃないか。
「前にお兄様に私の恋愛話を娯楽として楽しまれたので、私もお兄様の恋愛話を娯楽として楽しんでやるためです」
「レーア、言葉遣いが少々乱れている。淑女らしい言葉遣いをだな」
「話題を変えないでください! こうなってるのは、お兄様が私の恋愛話を楽しんでいたからでしょう!? 自業自得ですよ」
「はぁ」
お兄様はわざとらしく溜息をつくと、ようやく私に話す決心がついたのか、ぽつりぽつりと話しだした。
最初からそうすればいいのだ。
「今回ばかりはレーアに感謝しないといけないな。でも、あれは分かりやす過ぎたぞ」
「え!? そんなに私、分かりやすかったですか?」
「ああ。赤子でも気づけるほどに分かりやすかったな」
「赤子は言い過ぎですよ! そんなに分かりやすくしたつもりないですし」
もう! お兄様ったら酷すぎる。赤子なんて言い過ぎよ。でも、まあ、分かりやすかったのは本当だし、今度からは気をつけよう。
てことは置いといて、お兄様とフィアナ様の恋愛話をたっぷり聞かせてもらわなきゃね!
お兄様以上に楽しんでやるんだから。
「お兄様、話を逸らさないでください! ところでフィアナ様とはどうなったのですか!?」
私はお兄様をじとりと睨みつけた。
「俺が話を逸らしたみたいに言うな! あのまま続きを話してやろうと思っていたが、急に割り込んで話を逸らしたのはレーアの方だ。せっかく話してやろうと思っていたのに」
「え、あ、それは申し訳ありま……じゃない! 今、確実に話を逸らしましたよね!? ねぇ!?」
さっきまで合っていた目が合わなくなり、お兄様がギクリと肩を跳ねさせているのが分かった。
なんだかんだお兄様も案外分かりやすいところがあるんだよね。多分、私以上に分かりやすい。
何でそんなお兄様に私は分かりやすいと怒られなきゃならないんだ。
少しムッとはしたが、今はお兄様の恋愛話に集中しなくては!
「コホン。ところでお兄様、フィアナ様とはどうなったのですか?」
私がわざとらしく咳払いをすると、もう一度お兄様に問いかけた。
「はぁ。俺の妹は俺の恋愛話がよっぽど好きらしいな。しょうがない、そんな妹のために話してやろうか」
すごくイラッとくる言い方だが、ここで言い返したらお兄様の手の内だ。
私は黙って続きを聞くことにした。
「こんなことを言うのはあれだが、レーアのお陰でフィアナ嬢と話すことが出来た。それについては感謝しているのだが……」
「だが?」
黙り込んだお兄様の話の続きを促すと、わざとらしい大きな溜息をつくと、また話しだした。
お兄様ったら、こんなにも話を逸らして焦らして、よっぽど話したくないのね。
もしかして、ようやく自分の恋心に気づいて話しにくいとか!?
ていうか、そうとした思えないじゃない! そうじゃなきゃこんなにも話さないわけないもんね!
「だが、今回は俺の負けだ。レーアの言うことが正しいだなんて思いたくなかった……」
「なんですかそれは! っと、それでどうだったんですか?」
お兄様は負けだとか言っておきながら、また私を怒らせて話を逸らそうとしている。
私だって簡単に騙されないもんね。
「フィアナ嬢と、今度出掛けることになった。レーア、俺がいなくて寂しいとか言うんじゃないぞ」
なんと!
どっちから誘ったとかは分からないが、多少の進展はあるんじゃないか。
ていうか照れながら、この話をするということは、お兄様はご自分の恋心を自覚したんじゃない?
だって、さっきも私の言うことが正しいとは思わなかったって、あれって、セレン様のデートを報告したときの『お兄様は気づいていませんが、お兄様は好きな方がいるでしょう!?』って私が言ったことだよね?
逆にそれしか無くない!?
これって、既に恋人同士ってこともありえるよね。だって明日、フィアナ様と二人きりでデートするんでしょ?
もうすぐ婚約発表とかあるんじゃない?
「お兄様、ご婚約おめでとうございます!」
私が勢いで言うと、お兄様は眉間に皺を寄せた。
「婚約? 何のことを言っているんだ?」
「お兄様ったら隠さなくてもいいですよ。家族ですし、正式な発表があるまで勿論誰にもバラしませんから!」
私がそう言うと、お兄様は本気で困ったような様子を見せた。
「だから何のことを言ってるんだ、レーアは」
「だから、フィアナ様とお兄様の婚約のことですよ!」
「俺とフィアナ嬢の婚約? レーアは何か勘違いをしている」
勘違い? 私は何も勘違いなんてしていない。
「お兄様とフィアナ様がご婚約されたのでしょう?」
「何を言っている? 俺は妻も婚約者も恋人もいない。というか、出来たことすらない」
「えー!? 婚約してなかったんですか!? 何やってるんですか、お兄様! フィアナ様のことが好きなのでしょう? なら、女性を待たせるのは良くないですよ!」
お兄様にはさっきの私の言葉が刺さったようで、何も言ってこなくなった。
ということは、フィアナ様のことが好きだと100%自覚しているとみて間違いないはず!
よし、ここからが良いところなんだから、そのフィアナ様とのデートも詳しく聞かなければいけないわ。
「お兄様、今度フィアナ様とデートに行くことになったのでしょう? その時もたっぷりと色々聞かせて貰いますので覚悟しておいてくださいね!」
「……ああ」
お兄様は大きな大きな溜息をついたあと、力なくそう答えたのだった。
一応言っておくけど、お兄様の自業自得なのだし、私は悪くないからね! そうだよね!?




