29 お兄様の恋 5(ヴィル視点)
何があるのかは分からないが、俺は妹の誘いに乗ってやることにした。
それにしても、綺麗な花を見つけたので見に行きませんかって分かりやすすぎる。どうしてそんな分かりやすいことしか言えないのだろうか。
フィアナ嬢も分かっていたようだけど、とりあえずレーアのフォローをし、フィアナ嬢とともにレーアに連れられて庭に出た。
空はキラキラと星が輝いており、三日月が美しく映えていた。
そんな夜空の下を数分ほど歩くと、光に反射して水が輝いている噴水や、美しい真紅の薔薇が咲き誇るガーデンのような場所に出た。
すると、ここでようやくレーアが立ち止まった。
「レーア、綺麗な花とは薔薇のことか?」
俺がレーアに問いかけると、レーアは分かりやすく動揺していた。
「え、ええ。まあ、そんなところです……」
何をしたいのかは分からないが、我が妹ながらバレバレ過ぎやしないだろうか。もうちょっと考えればいいものを。
俺はフィアナ嬢をここまで連れ出したのだからと、薔薇を近くまで見に行こうとフォローすることにした。
「フィアナ嬢、せっかく我が妹が美しい薔薇を見つけてくれたので、もう少し近くで一緒に見ませんか?」
「はい!」
フィアナ嬢も茶番だということを分かってはいるようだけど、レーアのために知らないフリをしてくれているようだ。
そんなフィアナ嬢をエスコートしながら、ローズガーデンに近づいていく。
ローズガーデンにはテーブルと椅子が置いてあり、ここでお茶会などをやっているのだろう。
俺だって他の家だったら座らないが、ここはレオンの家だ。レオンの家だし、大丈夫だろう。
俺は近くにあった椅子に座った。
「フィアナ嬢も座ったらどうだ?」
「いや、あの……」
「大丈夫だ。ここはレオンの家だし、レオンが何とかしてくれる」
フィアナ嬢は座るか迷っているようだった。
それはそうだろう。俺は第一魔術師団の師団長だから、第二魔術師団の師団長であるレオンとは身分に差がほとんどない。
だけど、フィアナ嬢は第二魔術師団の団員だ。直属の上司の家の庭にある椅子に、許可なく勝手に座るということを躊躇っているようだった。
たかが庭に置いてある椅子に座るくらいだし、俺しか見ていないのだから、そんなもん勝手に座ればいいのに。
俺はフィアナ嬢のそういうところを好ましく思っている。
「フィアナ嬢が座ってくれなければ、俺は女性だけ立たせているダメな男になってしまう」
「はっ、すみません! 座らせていただきます!」
フィアナ嬢は少し頬を赤く染めながら、そっと椅子に座った。
……赤くなってるの、可愛い。
あれ、俺なんでこんなこと……。レーア以外の女性に可愛いって思ったことなんて無かったのに。
そうか、俺、フィアナ嬢のことが好きなのか───……。
「……ヴィル様?」
「すまない、フィアナ嬢。少し考えごとをしていた」
「いえ、それは別に構わないのですが……。あの、ヴィル様は、こ、恋人といいますか、その……いるのでしょうか……!?」
耳まで赤くして可愛い……。
「いないよ。恋人なんて出来たことすらない」
「え? ヴィル様が、ですか? すごくモテていらっしゃるのに……」
「俺がモテる? 何かの勘違いだよ。俺、全くモテないよ? 告白されたことないし」
「え!? 以外ですね、すごくモテているのに」
本当に告白されたことなんてないし、モテていないけど、どうやらフィアナ嬢の中では俺はモテているらしい。
でも、嫌な気はしない。
「それで言うと、フィアナ嬢の方がモテているだろう? 学園でも成績トップだったと聞くし、それに容姿もこの世の他なく美しいのだから」
「美しい……?」
「ああ、フィアナ嬢は賢くて美しい上に、可愛さも持ち合わせている完璧な令嬢だ」
「か、かわ!?」
ひどく動揺しているフィアナ嬢を見れるのは、俺だけでいい。
そんなことを思うなんて、俺、どれだけフィアナ嬢のことが好きなんだよ……。
今更、この気持ちに気づくなんて俺、鈍感すぎだろ。本当に。
『鈍感お兄様だけには言われたくありません!』
『誰が鈍感だ!?』
『お兄様は気づいていませんが、お兄様は好きな方がいるでしょう!? それを鈍感と言わずして何と言えばいいのでしょうか』
『俺が好きな人……?』
『やっぱり自覚が無いのですね? お兄様の方が鈍感では?』
『レーアの言う通り自覚がないのかもしれないが、レーアの勘違いということもあるからな。レーアの方が完全なる鈍感だ』
前にレーアとこんな会話をした。
あの時は俺が誰かを好きだなんて思っていなかったから、完全にレーアの自分だけ鈍感と言われたことの照れ隠しだと思っていたが、あれは照れ隠しなどではなく事実を述べていたのだな。
自覚が無かったとはいえ、レーアには既に気付かれているようだし、さっきのレーアの挙動不審な行動は、俺をフィアナ嬢と話させるための行動だったのか。
俺は恋愛なんてしたことがない。だから、何が正解とか、何が間違いとかなんて分からない。だけど、俺はフィアナ嬢が好きって気持ちが溢れてくる。
今すぐフィアナ嬢を俺のものに───。
……なるわけないか。
だって、こんなにもフィアナ嬢は美しく愛らしいうえに、真面目で一生懸命で努力家で。そんなフィアナ嬢が俺なんかを好きになるわけなんてない。……無いに、決まってる。
俺の心の奥底では、フィアナ嬢は俺のことを好きだと思いたいと思っている。
本当に酷いな、俺は。
フィアナ嬢が俺のものになるなんてことはないのに。
「あ、あの、ヴィル様?」
「っ、すまない、考えごとをしていた」
それから、フィアナ嬢は少し頬を赤らめながら、俺に提案をしてきた。
「ヴィル様、もしよろしければ今度、一緒に湖に行きませんか?」
信じられないが、フィアナ嬢が俺を誘った、ということで間違いない、よな?
嬉しすぎて未だに信じれないものの、フィアナ嬢に、もちろん行くという返事をした。
急だけど、レーアのおかげで(?)フィアナ嬢とデートすることになった。




