27 お兄様の恋 3
大量の質問が私に飛び交っているが、答える隙がなくて何一つ答えていない。まあ、その方が良いのかもしれないが。
こうしているうちにも人は集まってきて、私に質問を投げかけてくる。
あぁ、うるさい。
そもそも私は目立たない普通の令嬢でいたかったんだけど、あの王子の婚約者になったことで無理なことである。
「あの、皆様、そんなに質問されても答えられませんわ」
私はよそ行きの微笑みを浮かべながら、私を取り囲んでいる人たちに向かって言った。
すると、令嬢たちの黄色い悲鳴が会場内に響き渡った。
何事だろうと思い、周りを見た。
だけど、360度たくさんの人に囲まれているため、全く何が起こっているのか見えなかった。
王太子の婚約者という立場は面倒くさいものだ。周りを見ても人しか見えないのだから。
すると、私を囲っていた人たちが一部分を開け、道を作り始めた。
ようやく人以外が見えるようになったと思ったら、その私を囲っていた人たちが開けた道から人が入ってきた。
また、人なのである。
でも、その人物を見た瞬間、嬉しくなった。
「レーア、ずっと会いたかった」
その人物は、甘い声でそんなことを言いながら私に抱きついてくる。
でも、嫌だとは思わなかった。
「セレン様、ずっと会いたかったって言いますけど、3日前に会いましたよね?」
「3日も前だ。……俺は毎日レーアに会わないとレーアが恋しすぎて死んでしまう」
いやいや、それで死んでしまうならセレン様はもうとっくの昔に死んでますけど。
というツッコミは言わないでおく。
私はセレン様の腕の中で、周りの様子を窺った。
セレン様は周りを気にしないところがあるから、周りを気にする私にとってはソワソワしてしまうのだ。
周りにいた令嬢は、いつもと違うセレン様を見られて幸せだと言って、バタバタと倒れている。
何だこの状況は。
「あの、セレン様、皆様が見ています……」
「見せつけてるんだよ。レーアに悪い虫がつかないためにも、ね」
「……悪い虫?」
「そう、悪い虫」
悪い虫が何なのかは分からないけれど、セレン様は私たちの仲を見せつけているらしい。見せつけて何になるんだか。
「レーア、もう結婚しよう」
「まだ早いと思います。というか……」
私は「嫌です」と続けようと思ったが、急に黙り込んでしまった。
少し前なら、そんなことなんて簡単に言えていたのに……。
「……レーア?」
急に黙り込んだまま何も言わなくなった私に、セレン様は訝し気に私の名を呼ぶ。
「セレン様、すみません。何でもないです」
「それならいいけど……。悩み事とかあるんだったら、溜めるんじゃなく俺に相談してね」
セレン様は少し常識外れなところが多々あるが、やっぱりセレン様は優しい。
そんなこと、婚約するまで知らなかった。本当についこの前まで婚約解消してやる!って思ってたのに、今はどうだろう? 全くそんなこと思わないわけじゃないけれど、この婚約を続けたいと思う気持ちが勝っている。
でも、この婚約はセレン様か陛下かは分からないけれど、私とか誰かを利用するために結んだ婚約。私が利用されるのは少し癪に障る。
だから、私たちの婚約によって何かを起こすという企みは、良いものか悪いものか、誰がやろうとしているのかが分かればいいんだけど……。
「ありがとうございます、セレン様」
私は素直にセレン様にお礼を言い、よそ行きの微笑みじゃない、本当の微笑みを浮かべた。
「あの、セレン様、少しいいですか?」
「うん。いつでもいいよ、俺のレーア」
セレン様に甘ったるい声で囁かれた。
いちいち心臓に悪い。それに、みんなが見てるしやめて欲しい。
でも、とりあえず作戦決行することにした。
私はセレン様の手を掴み、思いっきり走り出した。私たちを囲んでいた人たちを撒くためだ。
すると、ふわっと体が浮いた。
何事かと思い状況を確認すると、セレン様に横抱きにされていることが分かった。
「レーア、どこに行きたいの?」
セレン様が少しソワソワしながら嬉しそうに聞いてくる。
何でそんなに嬉しそうなのか聞きたかったが、とりあえずセレン様の問いに答えることにした。
「人のいない場所がいいです!」
「人のいない場所……」
セレン様はそう言ったあと、顔を真っ赤に染めた。
普通に可愛い。
セレン様のなかなか見られない一面を見れて嬉しい気がする。多分。
耳まで真っ赤になっているけど、何でそんなにも真っ赤にしているのか分からない。暑いのだろうか。
気のせいか、セレン様の心臓が早鐘を打つ音が聞こえてくる。緊張してる……?
一体セレン様に何が起こっているのかは分からないが、セレン様は私が走るよりも早く、私を抱えて人のいない場所に連れて行ってくれているようだ。
いつまでこの状況なのかは気になったが、じっとしていると、いつの間にか外に出ており、人の気のない立派な木の下でセレン様はようやく立ち止まった。
近くには噴水もあり、反射してキラキラと煌めいている。少し向こうには小さなバラ園のようなものもあり、美しい。
セレン様はそっと私を降ろしてくれた。
そして、まだ顔を赤くして緊張気味のセレン様に向かって、ヴィルお兄様とフィアナ様の恋のお手伝いをしてほしいとお願いをしてみる。
「───セレン様、いつもセレン様に貰ってばかりの私が、まだ我儘を言うのはどうかと思うのですが、私は……」
「レーア!」
セレン様が珍しく私の言葉を遮って、私の名を呼んだ。
「あ、レーア、すまない。遮ってしまって……。でも、レーアも俺と同じ気持ちだと思うと嬉しくて」
私とセレン様が同じ気持ちって、セレン様もヴィルお兄様とフィアナ様を応援したいって思ってるってこと?
やっぱりセレン様にお願いしようと思ったのは間違いじゃないみたいだ。
「ということは、セレン様も気づいていたんですね!」
「気づかないはずがない」
「では、セレン様、お願いしますね!」
「こちらこそお願いする。これからはレーアを『婚約者』ではなく『恋人』だと言える」
「───……ん?」




