26 お兄様の恋 2
「レオン様」
「レーア嬢、来てくれてありがとう! あとヴィルも」
レオン様は招待客のお出迎えをしているらしく、私たちにも話しかけてきた。
「ちょっと俺にだけ冷たくないか? レーアには笑顔で出迎えていたくせに」
お兄様は少し不機嫌な顔で言う。
「そりゃあそうでしょ? レーア嬢は可愛いし、笑顔で出迎えるのは当然のこと。でもヴィルは可愛くない」
「可愛くなくてすみませんねぇ?」
「ヴィルが可愛かったら恐ろしいわ!」
「恐ろしいとは酷いなあ」
お兄様とレオン様は軽口を言い合っている。
こんな軽口を言い合える人は、私はいないからお兄様とレオン様が羨ましく思ってしまう。
その後、お兄様にエスコートされながら会場へと足を踏み入れた私たちは、たくさんの人のの視線を浴びていた。
「すごい視線を感じるな……」
お兄様も視線を感じているようで、ボソッと呟いていた。
「きっと、お兄様がかっこよすぎて皆お兄様に見惚れているんですよ」
「本当にそれだと嬉しいが、皆が見ているのはレーアの方だろう?」
「うっ……」
分かっている。
セレン様の婚約者となってから初めての夜会なのだ。注目されるのは分かっていた。
だけど、会場にいるほぼ全員が私たちを見ている気がする。私の一挙手一投足全てを細かく見られている気がしてきて、歩くのすら大丈夫か心配になる。
すると、淡い水色の髪に琥珀色の瞳をした可愛らしい雰囲気の令嬢が、私の隣にいたお兄様に話しかけてきた。
「ヴィル様、今日は来られないとばかり思っていたのですが……」
「ああ。そのつもりだったのだが、レーアが行くと聞いて一緒に来ることにしたのだ」
「……その、ヴィル様の隣にいらっしゃるご令嬢は、あの、ヴィル様の……」
お兄様に話しかけてきた令嬢は、どこかモジモジとしながらお兄様に何かを聞きたいようだった。
「レーアが、俺の?」
お兄様がその令嬢に先を促すと、その令嬢は続きを言い放った。
「───こ、恋人なのでしょうか!?」
こんなことを聞くということは、この令嬢は確実にお兄様に好意を寄せているのだろう。
そして、お兄様をそっと観察する。いつも冷静なはずのお兄様は、どこか冷静さを失っているように見えた。
私の予想は当たりで間違いないと思う。
お兄様に話かけてきた令嬢──フィアナ・リアス侯爵令嬢は、お兄様が好きな人だと私が睨んでいた人物である。
鈍感お兄様はその気持ちに気づいていないようだけど、確実にフィアナ様のことが好きだわ。
でも、フィアナ様も少し内気なところがあるし、お兄様は気づかないしで5年も経っている。
お互いに好きあっているのに。
お兄様が18歳のとき、フィアナ様に初めて会ったようだ。そのときのフィアナ様は学園を卒業されて間も無い15歳。
それから5年も経っているのだから、今は20歳ぐらいだろう。
この年にして、フィアナ様は婚約者ですらいない。きっと、私みたいに両親に結婚を急かされたり、政略結婚させられそうになったりしただろう。
それでも、フィアナ様は自分の好きな人と一緒に居たいために、ずっと頑張ってきたのだ。
フィアナ様は、一途で健気でお兄様を想い続ける素敵な方だ。
というか、お兄様にはもったいなく思えてくる。
「フィアナ嬢、レーアは恋人ではない。俺のたった一人しかいない大切な妹だ」
お兄様が先程のフィアナ様の問いに答えると、フィアナ様はとても安心したようで、強張っていた顔が少しマシになっていた。
私は、少し緊張しながらもカーテシーを披露する。
「フィアナ様、お初にお目にかかります。レーア・コンバラリアと申します。ヴィルお兄様は普段あまり夜会などに出席しない私を心配して、ついてきてくれたのです。私はもう大丈夫ですので、お兄様と二人きりでお話なさってはいかがでしょうか」
よし、完璧じゃない?
お兄様の少しアピールして、二人のアシストもしたし、私頑張ったわ!
「レーア様、先程は勘違いをしてしまい、本当に申し訳ありません。私は、フィアナ・リアスと申します。あの、レーア様、お気遣いありがとうございます。ですが、せっかく兄妹で来られたのですから、二人で楽しんでください」
フィアナ様はやはり侯爵令嬢。所作がすごく美しい。それに、少し恥ずかしがり屋なところがあり、フィアナ様がものすごく可愛く見える。
こんなに可愛く美しいフィアナ様に婚約の打診が来なかったはずがない。それでも婚約者がいないということは、フィアナ様はお兄様といたいのだろう。
確かに、政略結婚は貴族の義務。だけれど、私はあまりこれには賛成しない。恋愛は自由でいいと思うのだ。
これから一生添い遂げる相手なのだから、好きな人がいいと思うのは当然のことだと思う。
きっと、ほとんどの人がこう思っているだろうけど、政略の駒としてしか見ていない人もいるのも当然のことだった。だって、義務としてあるのだから。
「フィアナ嬢、お言葉に甘えてもよろしいだろうか」
お兄様がフィアナ様に問いかけると、フィアナ様は頷く。
え、ちょっと待って!
何でこんな流れになってるの!?
「お兄様、フィアナ様、あとは二人でどうぞ! 私はこれで失礼しますね!」
少し大声を出して言ったあと、すぐにその場から離れた。これでいい。
私はまだ向けられているたくさんの視線を感じながらも、壁の花となるべく壁の方へと移動する。
だけど、予想通り壁の花となることは出来なかった。
私がお兄様たちから離れた途端、たくさんの人に囲まれた。
「レーア様、王太子殿下と婚約をしているというのは本当のことなのですか?」
「王太子殿下とはどのような馴れ初めで?」
「レーア様が王太子殿下と二人のときは、王太子殿下はいつもと違う一面を見せられるのですか?」
「どうやって、あの冷静沈着の王太子殿下を落としたのですか? 是非参考にさせてください!」
私は質問攻めに遭い、お兄様たちから離れたことを少し後悔したのだった。




