22 すずらんの聖女 1
私は今、図書室に来ていた。
昨日の私の頭に直接喋りかけているような声や、光の粒について調べるためだ。
二時間近く、図書室に籠もって調べているが、全く収穫はない。
まず、魔術なのかすらも分からない。魔術だとは思うけど、あんな魔術は知らない。
お兄様に聞いたら分かるかもしれないけれど、最近の私は少しお兄様に頼りすぎな気がする。これではダメだ。自分で調べて頑張らないと。
もしかしたら、ここには私の求めているものがないのかもしれない。
私はそれでも根気強く、本を読んでいく。
だが、どの本にもそんなことは書かれていなかった。
さっき、私はお兄様に頼らず自分で頑張るとか言ったけれど、前言撤回だ。これは無理だ。
堂々とお兄様に聞こう。
私はお兄様の部屋へと向かった。
お兄様の部屋の扉をノックすると、中からお兄様の声が聞こえた。
私がそっと扉を開けると、お兄様が待ち構えていた。
「どうしたんだ、レーア」
「あの、すみません。ちょっと聞きたいことがあって」
私がそう言うと、ソファに座るように促されたので、ソファに腰掛けた。
すると、お兄様付きの侍女がお茶を入れてくれる。あまり長居するつもりはなかったのだが、ありがたくいただいておく。
「それで、聞きたいこととは何だ」
お兄様が侍女が部屋から出ていくのを確認すると、私に話を促してきた。
「えっと、昨日、私が誘拐のようなことをされかけたとき、魔術を使用したのです。ですが、倒しきれなくて捕まると思ったときに、声が聞こえたのです」
「声?」
「はい。頭に直接喋りかけられているような感じでした。そして、声が聞こえたと思うと光の粒が降ってきたのです」
私の話を聞き終えたお兄様は、信じられないというような顔をした。
お兄様が驚くようなことなのだろうかと思っていると、お兄様が説明し始めた。
「レーア、多分それは……精霊の声だ。光の粒は精霊の祝福だと思う」
精霊の声? 精霊の祝福?
聞いたことのない単語の登場に、首をかしげる。
「あの、お兄様、それは何ですか? 聞いたことが無いのですが」
「レーアが聞いたことがないのも無理はない。すごくすごく珍しいことだからな。精霊の声が聞こえて、精霊の祝福が与えられたということは、レーアは」
私は、何!?
お兄様はそこで言葉を区切り、真剣な顔になると、言葉を続けた。
「レーアは、精霊に『聖女』だと認められた、ということだ」
「聖女?」
「そうだ、聖女だ」
誰が?
いや、私しかいないよね?
でも、ありえない。私が聖女? 絶対に違うでしょ。
そう思っていると、お兄様が聖女について教えてくれた。
「聖女は何百年と現れていなかったと聞く。そして、『聖女が現れたとき、精霊の花畑に危険が訪れる』と聖女や精霊に関する書物に書いてあった。本当かどうかは定かではないが」
聖女が現れたとき、精霊の花畑に危険が訪れる。
私はまだ自分が聖女だと思ってはいないが、もし私が聖女だとするならば、精霊の花畑に危険が訪れるということ?
「聖女に関しては、あまり文献が残されていないから、俺も分からないことが多い。俺も色々と調べてはみるから、レーアは気をつけるように。何かあればすぐに俺に言え」
あの何でも知っているお兄様ですら、知らないことが多いとは……。
お兄様が私が精霊に認められた聖女だと言うのならばそうなのだろう。
聖女って全く何か分かっていないそうだ。でも、聖女の役割はあると思う。聖女にしか出来ないこと。それを私は聖女として全うしなければならない。
今、私に出来ることは聖女について知ること。
図書室で調べるのはもちろんだが、お兄様以上に知っていそうなセレン様にも今度聞いてみよう。セレン様は王太子だし、何か知っていてもおかしくはない。
私はそう考えながら、お兄様の部屋を出て自室に戻ると、セレン様に話がしたいという旨の手紙を書いた。
そして、最近セレン様にあげるために練習していた刺繍をしたハンカチも送ろう。
少し恥ずかしいけれど、セレン様はたくさんのものを私にくれるから、私もセレン様に何かあげたいと思ったのだ。
デートでセレン様にピアスをあげたけど、あれだけでは返せている気がしない。というか、返せるなんて思えない。
だけど、少しでも返せたらと思う。だから最近は刺繍をしていた。
セレン様には、すずらんのあしらった刺繍をしたハンカチを手紙と一緒に送った。
手渡しで渡そうかと思ったけど、セレン様も忙しいだろうし、こっちの方がいいと思ったのだ。
セレン様、少しでも喜んでくれるかな?
少しでもいいから喜んでくれたら嬉しいな。
あ、私ったらセレン様に好かれてるって勘違いして、恥ずかしい。セレン様はいつも優しいから、勘違いしてしまいそうになる……。
セレン様は私のことなんかどうでもいいんだ。そう、人違いか、何か企みがあるかなんだ。
でも、それでも私はセレン様となら結婚してもいいかなって思い始めている。
そもそも、このまま『約束』にしがみついて婚約が決まらなかったら、政略結婚されるだけ。
でも、企みの方じゃなく人違いなら、私はすぐに身を引こう。
でも一つ気になることがある。
昨日、見かけた黒髪の男性。あれはきっと『彼』だと思う。私には『彼』にしか見えなかった。
あの黒髪の男性は確実に私を見た。だけど、何もなかったかのように何処かに行ってしまった。
ということは、あの黒髪の男性があの時の彼ではなく、全く別の人だということか、あの時の彼だったけれど私なんて忘れているということ。
まあ私が小さい頃と全く違うから分からなかっただけなのかもしれないけれど。
でも、やっぱり気になってしまう。あの黒髪の男性のことが。
今、私は恋をしているのだろうか。
彼のことが未だに好き───なはずだった。
今は『好き』なのかどうか、よく分からなくなってしまった。
私の頭の片隅には、ずっとセレン様がいたのだった。




