21 お兄様とのお出かけ 5
「レーアを危険に晒されたら俺も黙ってはおけない? そんなの……いや、黒髪の男性のせいだ。俺のせいではない」
お兄様はセレン様に向かって、何かは分からないが、自分のせいではないと言っているようだ。
お兄様、人のせいにしてはいけませんよ。
「まあ、確かにそうなのかもしれないが……。いや、まず、その黒髪の男性を市場で会わせるように仕組んだ、ヴィルお義兄さんのせいでは?」
黒髪の男性? 仕組んだ? お兄様が?
もう話があっちこっち行って、さっぱり分からない。だけど、二人とも人のせいにしていることは分かった。
「優秀すぎる義弟め、そこまで分かってるのなら、俺の負けだ」
「お褒めにあずかり光栄です、ヴィルお義兄さん」
私はなんかセレン様とお兄様の戦い(?)が終わったようで安心する。
セレン様は私に向き直ると、今朝、お兄様に貰った髪飾りをするりと抜き取られた。
「あ、あの、セレン様!?」
セレン様の行動が理解できずにいると、セレン様はその髪飾りをお兄様に向かって放り投げた。
すると、セレン様がどこからか可愛い髪飾りを取り出し、私につけてくれる。
「あ、えっと、ありがとうございます?」
よく分からないがお礼を言っておく。すると、セレン様は満足したようで、うんうんと頷いている。
セレン様が何をしたかったのか分からないが、今朝お兄様に貰った髪飾りは、お兄様の髪色である白色のリボンと、お兄様の瞳の色である緑色の宝石で作られていた。
お兄様の色の髪飾りをつけているのが、セレン様は嫌だったのかもしれない。
今、頭につけられている髪飾りが、セレン様の瞳の色である青と、セレン様の髪の色である銀なら、多分あっているだろう。
私が仮説を立てていると、お兄様が近づいてきて、私たちを引き剥がした。
「そろそろ帰る時間になってしまった。セレンも気をつけて帰るように」
お兄様はニコニコしながら、私を近くに呼んでいた馬車に乗り込むと、大声で笑い出した。怖い。
今、笑うところあった?
何がそんなに面白いのか私にはさっぱり分からない。
ジトッとお兄様を見ていると、お兄様は私の視線に気がついたようで、声をかけてくる。
「レーアは面白くはないのか?」
「全く面白くはないです。逆にどこが面白いんですか?」
本当にお兄様のツボが分からない。何がそんなに面白いのか、何がそんなにも私が面白さが分からないことが、分からなさそうにしているのか。
お兄様ってちょっと変わった人だ。多分。
良い意味でも悪い意味でも。
悪い意味でいうと、まあ、これだ。これ。
私たち一般人には、お兄様のいう面白さが分からない。
良い意味だと、お兄様は他と違って魔術を使うのが上手い。
通常とは違う考え方で使っているようだ。所謂、天才の考え方だと思う。
この前、お兄様に魔術を教わったのだけど、全く魔術を習得できなかった。
『まず、ハァッて魔力を感じて、魔力をブワッて感じで手から出すんだ。そうすれば魔術は簡単に使える』
お兄様に魔術を教わったときに、言われた言葉を思い出すが、魔術を使える今でもよく分からない。
分かる人がいるなら、教えて欲しい。
何だ、ハァッて! あと、ブワッて!
そんな説明で分かると思っているのがおかしい。
良い意味で、違う考え方で魔術を使ってるって言ったが、悪い意味の方だったかもしれない。ただ単に、教え方が悪いだけ、という可能性もある。
「おい、何か失礼なこと考えてないか?」
何で分かったのか知らないが、お兄様にバレていたようだ。
「そ、そんなことないですよ〜」
「これは、そんなことあるだろう?」
頑張って誤魔化してみるも、お兄様にはお見通しだったようで、これ以上言っても悪い方にしか転がらないような気がしたため、私は素直に謝ることにした。
「すみません、お兄様。でも、お兄様の良いところも考えてましたよ。ところで、さっきセレン様と話していた内容が、全く分からなかったのですが。何を話していたか聞いてもいいですか?」
お兄様はうーんと考え込んだあと、まあいっかと言って私に教えてくれる。
「今朝、レーアにあげた髪飾りは何色か覚えているか?」
お兄様は聞いても質問をして、私に気づかせてから答えを教える。
面倒くさいなと思うこともあるけど、私に気づく能力を育てようとしていることは分かる。
最初はこのことに気づかなかったけれど、これもお兄様が私の気づく能力を育てようとしてくれたから、気づいたことだと思う。
だから、私はなるべくお兄様の質問に真剣に答えるようにしている。
「お兄様の髪の色である白色のリボンと、お兄様の瞳の色である緑色の宝石の髪飾りだったと記憶していますわ」
私も成長したと思う。自分でお兄様に言われずとも自分で気づいたのだから。
お兄様も私が気づいていたことに驚いているようだった。
「そうだ。わざと俺の色の髪飾りをつけさせた。そして、俺は王太子殿下と市場で会うように仕組んだのだ」
お兄様ったら、やっぱりあの髪飾りをわざと私につけさせたのね!
それは、セレン様が怒るのも無理はないと思う。何より私を大切にしてくれているのだから。私はきっとセレン様に大切にされているのが嬉しいんだと思う。
「お兄様、仕組むってどうやって?」
「ん? それは王太子殿下には借りがたくさんあるからね」
お兄様は、人差し指を自身の唇に押し付け「秘密だよ」と言って、悪戯っ子のような笑みを浮かべた。
あの劇場のときもだったけど、お兄様ってセレン様に借りがありすぎじゃない?
セレン様、お兄様に借りを作りすぎでしょ!
「それで、王太子殿下に今日は市場に何もしなくていいから、お忍びで行ってくれませんかって頼んだんだ」
お兄様ってつくづく恐ろしい。
何でそんなことをしたのかとか、聞きたいことはまだたくさんあるけれど、今聞いても教えてくれないような気がした。
また今度お兄様に聞いてみようと心に決め、屋敷に戻ると疲れもあり、すぐに眠りについた。




