11 セレン様と初デート 2
セレン様はそんな恥ずかしいことを言ったあと、優しく微笑んだ。
セレン様の顔が異常に整いすぎているせいで、破壊力が何倍にも増すのだから本当にやめてほしいと思った。
「レーア、絶対に俺から離れちゃダメだよ。離れたら俺の言うことを一つ聞いてもらうからね」
「はい……」
どうやらセレン様から離れたら罰があるらしく、それが恐ろしいものだという予感がしたため、絶対に離れないでおこうと心に決めた。
それはそれで誘導されているようで嫌なのだが。
すると、セレン様が私の肩に頭を預けた。そして、腰にまわされている手じゃない方の手で、私の手を取ると指を絡められる。
「レーア、今日は俺以外の男を見たらダメだからね」
「いや、それは無理があると思うのですが……」
「ダメ。こんなに可愛いレーアに見られたら、誰だってレーアを好きになっちゃうから、絶対にダメ」
なんか今日のセレン様はいつもよりも甘く、私に甘えてくる。
おかげで馬車の中の空気はずっと甘ったるくて、私の心臓が終始悲鳴を上げていた。そして、セレン様の相手をするのも含めて疲れた。
馬車が止まるとセレン様が先に降りて、私をエスコートしてくれた。
馬車から降りると、王都の街並みが広がっており、ワイワイと人々が行き交っていた。
セレン様は私の手を掴み指を絡めると、歩き出した。
「あ、かわいい……」
私がお店のショーケースを見ながら、素直な感想を零すと、セレン様は買おうとしたので慌てて止める。
「セレン様、買わなくて大丈夫です。見ていただけなので」
「レーアが喜ぶのなら何でも買いたいんだ」
本当にかわいいと思ったのだが、私がかわいいと思ったのは子供用の服だった。小さくてかわいいなと思っていたのだ。
子供用の服を買って貰っても観賞用でしかなくなるのだから、別に要らない。
私はセレン様をどうにか説得すると、色々なお店を見てまわった。
私が「かわいい」「きれい」とか言うたびに買おうとするので、とても大変だった。
「あ、セレン様、ちょっと待っててください」
私はそう言ってセレン様の手を振りほどいて、セレン様から離れた。
そして、目の前のお店に入る。
せっかくセレン様に連れてきてもらったんだから、お礼代わりに何かあげたいなと思っていたのだ。
すると、このピアスを見つけたのだ。
そのピアスには、美しい青色のサファイアが輝いていて、光の加減によってセレン様の瞳の色である青色と私の瞳の色である水色にも見える。
私たちにぴったりだと思ったのだ。
セレン様をあまり待たせてはいけないと思い、そのピアスを買い、店を出た。
すると、不機嫌そうなセレン様が笑顔で待っていた。
笑顔なのに、ものすごく不機嫌そうだ。何があったのだろうか。
「レーア、俺から離れないって約束はどうなったの?」
「あ……!」
セレン様は馬車の中で確かにそう言っていた。そして、私も返事をしていた。だけど、セレン様にあげるものを買うために離れたのだから、大目に見て欲しい。
「馬車の中で言ったよね。もし離れたら、俺の言うことを一つ聞いてもらうって」
セレン様は、確かにそう言っていたし、私も返事をしたのだから、これは完全に私が悪い。
そう思った私は素直に謝ることにした。
「すみません、セレン様」
「俺の言うこと、聞いてくれる?」
「はい……」
もう、そう言うしかない。
セレン様が何を言うのかは分からないし、嫌な予感がするが、私が離れてしまったのだから、しょうがないだろう。
すると、セレン様は暫く考え込んだ素振りを見せたあと、私に言ってきた。
「じゃあ、レーア、キスしていい?」
き、きす……? って、キス!?
む、無理無理無理!!
「どうかご勘弁ください、お願いします! セレン様」
私はセレン様に頭を下げて、目をうるうるとさせながら上目遣いで、お願いしますと頼み込んだ。
セレン様は自身の手で顔の下半分を覆っているが、指の隙間から赤くなっているのが見えた。
「ごめん、言ってみただけ。その顔はずるい……」
本当にそういう冗談はやめてほしい。冗談でも心臓に悪すぎるし、恥ずかしすぎる。
しかも、セレン様ほどの美形なら尚更だ。
そんな思いも込めて、セレン様を軽く睨んでみせた。
「もうレーアが可愛い過ぎて死にそう。やっぱりキスしていい?」
「駄目です! 本当に、それだけは勘弁してください」
「どうして?」
ど、どうしてって言われても、私はセレン様のことを……って、どう思ってるんだろう。
嫌いでは、ない。
だけど、好きでも、ない……と思う。
最初は迷惑だとか思っていたけれど、今は迷惑だとかは思わない。
私、どうしてしまったのだろう……と思っていると、何も言わない私を訝し気に思ったセレン様が、私の顔を覗き込んできた。
「レーア?」
「な、何でしょうか、セレン様」
「レーアが何も言わないから、どうしたのかと思って」
「あ、えっと、大丈夫です」
セレン様は優しいな……。
きっと私よりも、セレン様とお似合いのご令嬢がいるのだから、やっぱり婚約は解消しないといけないなと思う。
私のためにも、セレン様のためにも。
セレン様は未だに勘違いだと気づいてないようだし、気づいてもらわないと、婚約解消はこの調子だと、なかなかに難しい。
「体調が悪いとかでもない?」
セレン様はまだ私を心配してくれる。
「大丈夫です。考えごとをしていただけですから」
私がにこりと笑いながら答えると、セレン様は眉間に皺を寄せた。
何か不快になるような言い方をしたのだろうかと思っていると、セレン様が口を開いた。
「レーアは俺のことなんてどうでもいいと思ってるんでしょ?」
何か不味いことになってる気がする。早く訂正しておかないと。
「セレン様、私が考えていたのはセレン様のことです!」
私の言葉を聞いたセレン様は、顔を上げると目を丸くした。そして、甘く蕩けるような微笑みを浮かべた。
私の心臓がどくんっと跳ねた気がした。
「もうレーアが可愛すぎて我慢できない。レーアが悪い……」
「セレンさ……っ!」
その時、私の頬に柔らかく温かいものが触れた。




