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「見るもの」25歳 男性③

蔵で見つけた古いテレビを興味本位でつけてみると……

 ちらつきかけた蛍光灯に照らされたテレビをしばらく見つめたあと、こいつがきちんと起動するのかが気になった。かつてこの部屋にもテレビは置いてあった。そのあたりを探ればどこかにアンテナ線を繋ぐところがあるはずだと思い、記憶を頼りにそのあたりを見た。ベッドと壁の間を覗くとコンセントと小さな2本のネジが付いている差込口を見付けた。おそらくこれだ。ベッドを少し壁から離し、テレビを近づけてアンテナ線と電源コードを差し込んだ。

 さて、接続はしたものの主電源がわからない。本体前面を探っていると、摩耗してつぶれかけた「切⇔受像」の文字がうっすら見えた。つまみを回してみたものの反応はなかった。試しに引っ張ったところ

 『バチッ、ブゥゥゥン……』

 と大きな音を立てて、それから少しずつ画面が明るくなった。画面には白と黒の粒が高速で動いているような模様が映っていた。先に引っ張ったつまみを回すとスピーカーから「ザー」という音が出た。それから1~12と13~62の二つの大きなダイヤルがあったのでそれぞれをガチャガチャと回してみた。いずれのダイヤルも特に何かを映し出すところはなかった。

 こんなもんかと思いながら蛍光灯を見上げた。小さな虫が数匹明かりに向かっては跳ね返されてを繰り返していた。虫は時折、蛍光灯からぶら下がる紐に当たり微かに揺らしていた。

揺れる紐をなんとなく見ていると、先ほどまで鳴っていた「ザー」という音が突然消えた。

 「え……?何?」

 壊してしまったのかと思いテレビを見た。

 画面が真っ暗になっていた。真っ暗になっているが電気的な音がするので電源は入っているようだった。画面を見始めて数秒後、目が画面の明るさに慣れてきたようで、うっすらと何かが映っているのが確認できた。

 「白っぽい、箱?」

 画面の下手側に四角い白っぽいものがあり、上手側は暗くなっていた。時折、白っぽいものに黒い染みのようなものが横切ったりしていた。気味が悪くなりそれ以上は見ていられなかったので電源を落とした。

 「気味が悪いもん見たな。明日蔵に戻しておこう。」

 今日はもう寝てしまうことにした。タオルケットを首元までかけて足先も包むようにして横になった。

 翌朝、ガラス越しに聞こえてくる蝉の声で目が覚めた。ベッドの上で上体を起こすと昨晩のテレビが真っ先に目に飛び込んできた。昨日見たものは何だったのだろうかと思いながらベッドから降り、カーテンを開けてから電源を抜こうとプラグに手を伸ばした。が、触れる直前で手が止まってしまった。昨日見たものをもう一度確認したい、そんな好奇心が芽生えてしまったのだ。

 テレビの前に座り電源を入れると、昨日と同じように大きな音で起動した。そのあと、またあの映像が映し出された

 「変な夢じゃなかったんだ。」

 太陽が昇っている分、昨日より恐怖感は薄らいでいた。一旦部屋のカーテンを閉めて日光を遮り画面がよく見えるようにした。画面の下手側には相変わらず白い四角いものが映っていた。昨日と違うのは、上手側に明るい箇所があるということだ。丁度、漢字の「あみがしら」のような形をしていた。それから数分見ていたものの、それ以上の変化はなかったのでひとまず朝食をとりに行くことにした。

 食事や洗顔など一通り済ませて部屋に戻ると、つけっぱなしのままのテレビが相変わらず暗い映像を映していた。ただ、先ほどとは違うところがひとつあった。

 「右の明るいところ、さっきはもっと真ん中くらいにあったような……」

 誰かが動かしたのだろうか?何のために?そもそもこれは何の映像なのか?気味の悪さを残したままテレビを消した。さっきまで聞こえていたブラウン管独特の音が無くなり、外からジリジリと蝉の音がいっそう強く入ってきた。それと、両親の声と車のドアを開閉する音。カーテンを開けて外を見ると父がバケツや鎌を積み込んでいた。

 「どっか行くの?」

 窓を開けて声をかける。

 「ばあちゃんのお墓。今朝ご飯の時に行くって言ったけど、あんたもいく?」

 母が供物を片手に車のドアを開け、遠回しに「あんたも来なさい」と言わんばかりにこちらを見ていた。

 家にいても暇だし、せっかく帰省したので行くことにした。祖母の墓に行くのは何年ぶりだろうか。

 さくっと着替えて車に乗り込むと、すでに道具は揃っていたようですぐに出発した。車は商店街を抜け、田を横切り、つづらおりを上って町が一望できる墓地に着いた。日を遮るものがないが風通しがよくとても気持ちがよかった。各々草取りや清掃を分担して作業そのものは20分かからないかというところだった。まだ乾ききらない拝石、朽ちかけた塔婆、誰かが供えていった花……ここで見えるものすべてに盆を感じた。

 「倒れる前に帰ろう。去年はここに何回も救急車が来たらしいしな。」 

 父が怖いことを言ったものだから母とあわてて車に避難した。エンジンをかけたままにしていたおかげで車の中はエアコンが効いていた。

ブラウン管のテレビって、電源を入れると独特の音がしますよね。小さいころに薄型に切り替わるくらいだったので書きながらなんか懐かしくなりました。因みに、ガチャガチャ回すタイプは使ったことがありませんw

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