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「見るもの」25歳 男性②

実家に帰ってやることもなく、暇つぶしに興じます。


帰省してもやることってないですよね。

 荒れたアスファルトの道路をしばらく走って、ようやく実家に到着した。車から荷物を降ろして玄関に向かう。無締まりの引き違い戸をカラカラと開けると懐かしい匂いがした。実家にいたときは気が付かなかった自宅の匂いだった。いつもは出さないボリュームで「ただいまー」と声をかけると奥の方から「おーう」

と返ってきた。

 居間に向かうと父が肘枕でテレビを見ていた。ゆっくり起き上がって一瞥するやニヤリと笑い「男らしい顔になってきたな。ゆっくりして行けや。」といい、またテレビを見始めた。昔から多くを語らずともすべてを見通すような空気を纏った人だった。

 自室だったところに荷物を置いてベッドに腰をおろした。段ボールが置かれたりして若干物置のような雰囲気もしているが、主がいなくなった部屋だから仕方ない。さあ羽を伸ばすぞと思ったものの、特に何かあるわけでもないし、何もしないでいると仕事が気になってしまって悶々としてしまう。ベッドに横になり部屋に置かれた段ボールを見つめながら昔は段ボールに隠れてりして遊んでたっけななんて思っていたら、かくれんぼに使っていた蔵を思い出した。ここにいても暇だしちょっと行ってみるかと体を起こした。

 玄関内側にある鍵を保管しているケースに蔵の鍵があったはずだと思いだし、開けてみるとまだそこに大きめの「それ」はあった。ポケットに入れて庭を横切り、池の鯉に手を振りながら速足で向かった。

 蔵に到着すると昔と変わらない姿でそこに建っていた。南京錠に鍵を差し込んで力を加えた。ジャリジャリと音を立てて鍵が回り、やがてつっかえた。手で南京錠の動きをサポートしてやってようやく開錠できた。手には少し錆がついていた。太い閂を外して重い扉を引くと、時が止まって煤けた空気が顔面にかかってきた。それは夏なのに冷たく、いつの時代から流れてきたんだと疑問を持つ程だった。

 昔は使い方がわからなかった使われなくなった農機具が目の前にあって、その奥の方は真っ暗闇となっていて何も見えなかった。ポケットからスマホを取り出しライトをつけた。ライトが照らす範囲は広くなく、普段嗅ぐことのない蔵独特の埃っぽさも相まって気味が悪かった。が、これもいい経験だと思いスマホで動画を回し始めた。スマホの画面越しに見る蔵の中は埃がキラキラと舞っていて深海のようだった。そして、画面越しだと恐怖感が幾分和らいだ。

 特に気になるものを見付けることなく奥に進んでいくと、鈍く明かりを反射しているものがあった。画面から目を離しそれを確認すると古いブラウン管テレビだった。昔居間にあったものとは少し違う、ダイヤルが画面の横についているものだった。ふと電源が付くのか気になってしまい、どうせ暇なのでこれで遊んでみることにした。

 これを蔵から運び出すのはなかなか骨だった。ブラウン管テレビはただでさえ重たい。昔のものとなれば更に重たいのだ。蔵の中に動線を作ってやっとの思いで外まで出した。そこから母屋に持って行くのもまた長い距離だった。ただ、日光があって広いので蔵から出すよりは楽だった。服も手も埃だらけになりながら部屋に運んでクリーニングして一旦作業を止めることにした。汗といい汚れといいひどい有様だったのでシャワーを浴びることにした。

 シャワーを浴びていると母が声をかけてきた。

 「ご飯できた……ちょっとなにこの汚れた服は!何したの!」

 「ちょっと懐かしくなって蔵で遊んでた」

 「はぁ。タオル置いとくから早く来なさいよ」

 そのあとは歩きながら小言を言っていたようだったが、シャワーの音でよく聞こえなかった。

 すっきりした状態で夕食を食べながら父がすすめてきた地酒を飲んでだいぶいい酔いを感じながら部屋に戻った。

 部屋に戻ると、昼間持ってきたテレビがこっちを見ていた。

昔のものってうまく表現できない不気味さがあったりしませんか?

次回、電源入れます。

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