口実
「ああそうか、もうそんな季節になるのか」
仕事帰り、ふとコンビニに立ち寄った際。
俺は今年初めての〝夏〟を感じてしまった。
入ってすぐのド真ん前に設置されたコーナーには、少し変わり種の味のポテトチップスやら、流行りのアニメキャラクターとコラボしたチョコレートの小箱やらが並べられている。
しかしながら、目を奪われてしまったのはソレらについてではない。
この棚の商品は月数回のペースで入れ替わるため、元々興味を抱くことは少なかった。
今回ついつい気になってしまったのは、その更に下側に置かれていた〝手持ち花火〟の類いを目に映してしまったからなのである。
オーソドックスな吹き出し花火に、小型の打ち上げ花火に、シメを儚く飾るための線香花火まで。
モノによってはネズミ花火なんかも入っているらしい。
ファミリーセットなる謳い文句を付けて売っていることから察するに、まさに俺のような所帯持ちに向けての商戦なのであろう。
今はまだ夏と呼ぶにはそこまで暑くもなく、せいぜい梅雨空に溜め息を吐きながら出退勤を繰り返している真っ最中ではあるのだが。
つい先日に薄い上着を脱ぎ捨てて、ただの長シャツ一枚に腕を通すばかりになったというのに、もう数日か経てば、また例年のようにクールビズを謳う半袖オンリーの季節に切り替わってしまうのだろう。
季節の切り替わりとは点ではない。
常に半永久的に連なる線上に存在するのである。
なるほど、ほんの少し前から季節を先取りしておいて、じんわりと絵の具を滲ませるように生活に馴染ませていき、やがて来たるシーズンの真っ只中にはそれらが既に溶け込んでいる状況を作り出しているというわけか。
夏を感じ始めた途端、ドッと噴き出すジメり汗。
スーツがほんの少しだけ重くなったように錯覚してしまう。
そしてまた、その熱を綺麗さっぱり洗い流すかのように、キンキンに冷えたビールを飲み干す自分もイメージしてしまう俺なのである。
「……あー、手としては、全然悪くない……よな」
タイミングを見てこの花火を買って帰れば、少なくとも我が家のガキ共は手放しに喜ぶに違いない。
珍しいこともあるのねと嫁も笑ってくれるはずだ。
もちろん夏休みには手頃なレジャー施設にでも連れていってやりたいものだが、あいにく社会人の夏休みは盆の前後数日にしかないわけで。
家の近くでも夏の思い出を作ってもらうというのも、それはそれで大きな体験になることだろう。
しがないサラリーマンにとっての花火とは、あくまで嫁とガキ共からの票を集めるための、そしてまた、より美味い酒にあり付くための〝口実〟でしかないのである。
ああ、どうか許していただきたい。
文句なら、いずれ本格的に来たるであろう夏と、ちっとも給料を上げてくれないケチな会社にでも言ってくれたまえ。
一家の大黒柱による、小さな小さな愚痴である。
ご存知ですか?
空を彩る花火にも花言葉が存在するんです。
内容はもうお分かりですよね?
そう……「口実」です(*´v`*)
どうかお読みいただいた皆さまも
夏に花火にチカラを借りて
己の欲求を満たしてくださいませ!←
ではでは、また。
どこかでお会いいたしましょう!