対ドラゴン
──沼地の洞窟。
この先には巨大な力を持った何か、がいる。
今の俺なら善戦、勝つことも可能かもしれない。
俺は注意深く辺りを探りながら奥へと進む。
幸いなことに雑魚モンスターの強さは変わらず。この先にいる化け物のことだけ考えれば良さそうだ。
だいぶ先に進んだ時。
洞窟を崩さんばかりの咆哮。
(これは……?ドラゴンッ!?)
それは威嚇。
ドラゴンはこれ以上進むなら容赦はしないと、最終警告を発したのだ。
俺は、それでも前に進む。この先にはラーブ姫がいる。
それは疑惑から確信へと変わった。
一際大きな場所に出る。目の前には巨体を揺らしながら、死の象徴とも言える生物。
火のように燃える瞳は睨むだけで敵を硬直させ。その鱗は鋼をも弾き返す。鋭い鉤爪は鉄を紙のように引き裂き。口から吐き出されるブレスは岩をも溶かす。
実物を見るのは初めてだ。
唸り声を上げ、今にも飛び掛からんとする巨体。
狭い洞窟だからドラゴンは思うように動けない。
かに見えたが、狭いと言うことはこちらの動きも制限されることになるのだ。
ドラゴンの手の届く距離での戦いを強いられる。
装備は、鉄の斧、鉄の鎧、鉄の盾。
どれもドラゴンの一撃を食らったらそれだけで使い物にならないくらい頼りない武器だ。
だからこそ!
ドラゴンの懐に潜り込む。ドラゴンの巨大な爪が眼前に迫るが、俺は鉄の盾を掲げた。
もちろんこんなものでドラゴンの鋭利な爪を防げるとは思っていない。
爪が鉄の盾に触れた瞬間、盾を軽く添える。そして、軌道をずらす。
攻撃を外したドラゴンに隙が生まれた。俺はそれを見逃さずにドラゴンの腹の下へと潜り込む。
鱗に覆われた強固な肉体。
しかし、下に潜ればドラゴンは手出しができない。俺はドラゴンの鱗と鱗の間に斧を突き立てる。
それでも刃が通らない。
「くそ! 化け物めっ!」
俺は腰に手挟んだ棍棒を取り出し、ハンマーのように斧の柄を叩き、刃をさらに奥へと突き立てる。
「!? ちっ!」
ドラゴンの腹の中で斧の折れる音がする。引き抜いた斧は、手元しか残っていなかった。
もはや武器としては使い物にならない。
「GRrrrrr!」
プライドを傷つけられたドラゴンの口が赤く光る。
炎のブレスだ。
俺は考える。どうすれば柄のみの斧と棍棒でドラゴンに勝てる!?
目に入ったのは灯り用に転がして置いた松明。
今にも火の息を吐き出そうとするドラゴン目掛けて松明を蹴り上げる。
火にも耐性のあるドラゴンに松明火なんて、まさに風前の灯火だが、流石に目にあたれば怯むはず。
予想通りに仰け反り洞窟の天井に火の息を吐き出したドラゴン。
その隙をつき、俺は岩肌を登るとドラゴンの口に体を突っ込む。
先程の折れた斧は確実に心臓に向かって突き立てた。
ならば……っ!
頼りないナイフと棍棒を使い食道をかき分け、肋骨をへし折りながら心臓へと向かう。
ドラゴンものたうちまわり抵抗をするが、体内に入られたら終わりだ。
今このタイミングで火の息を放とうとしても、ズタズタに切り割かれた食道から炎が溢れ、内臓を燃やすだけだ。
「見つけたっ!!」
先程の突き立てた斧の切先。それを手に取り、すぐ横で脈打つ心臓に突き立てる。
その大きさは俺の倍以上あったが所詮は内臓。守るべき骨や筋肉がなければただの水風船だ。
「はあぁぁぁぁぁぁぁあああっ!!」
渾身の力を込めて切り裂く。
声もなく倒れたドラゴン。
俺はドラゴンの中から這い出すと、その死体を確認した。
「やった、のか……?」
俺の言葉に返ってきたのは静寂のみ。
強敵だったドラゴンの死体をそのままに、俺は奥の部屋へと向かった。