決着
その姿が異形へと進化する。
確実にシリコンでできた体ではない。
「こうなっては我自身も体の制御はできんぞ。世界を焼き尽くすまで、暴れ回るのみよ!」
繰り出される爪を盾で受け止める。
伝説の盾でなければ、肉体ごと切り裂かれていたであろう。
カウンター気味にその手に剣を突き立てるが、硬い。
引けた腰では痛痒にもならないだろう。
しかし、こちらも守勢でばかりいられない。足の下をスライディングするように潜ると、その脚の腱に切り付ける。
弱点でもこの硬さか!
手が痺れるが、それでもダメージは通っている。
「ぐぬぅ!」
多少の手傷は負わせたが、同じ手は二度は通用しないだろう。
激しい攻防が続く中、竜王は炎を吐く。
激しい熱が襲いかかるが、こちらも炎で応戦する。
「ベギマラ!」
炎と炎がぶつかりあい、対消滅する。
「我が炎を打ち消すとはやるな、勇者よ」
「そっちこそ」
俺も竜王も笑を浮かべる。
正直、楽しくなってきていた。
爪をいなし、尾を避け、牙を受け止める。
剣を防ぎ、魔法を無効化し、あらゆる攻撃をその身で受けながら致命傷を避ける。
しかし、こちらのマラパワーも尽き掛け、魔法もあと何発打てるか。
向こうも食道をやられ、すでに炎は吐けない。
終わりの時間だ。
「名残惜しいな、勇者よ」
「奇遇だね。俺もそう思っていたところだ」
「思えば我はこのような戦いを望んでいたのかもしれぬ」
強者ゆえの孤独。
それはだれにもわからないものなのかもしれない。
しかし、決着はつけないといけない。
「これで最後だ」
「のぞむところよ、勇者よ!」
最後の煌めき。
爪は盾を切り裂き、左手に食い込むが、すでに力なく腕で受け止めることができた。
対して俺の剣は、確実に竜王の心臓を捉えた。
「くくく。我の夢もここまで、か」
そう言うと、竜王は倒れ込み動かなくなった。
俺は申し訳ないと思いつつ、竜王の首を切り落とした。




