敬い愛する者たちへ
寒さの残る春先ですが、どうか体を壊さぬよう気をつけて。
まるで海のような美しい青が、綿飴のような淡い白が。
頭上を覆い尽くす空が、我々を祝福するかのようにほんのり冷たい風が頬を優しく撫でた。
軽やかに舞う花弁が我々の行く先を祝福してくれているのか、ゆらりふわりと淡い桃色で彩ってくれている。
愛する後学の者達は祝福の言葉を述べ、別れを惜しんでくれる_____
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そんな姿を想像している僕は、いったい何様のつもりなのだろうか。
後半期に姿を消し、決して良い先達とは言えない行動をしたこの僕がどうして幸福な妄想をできるというのだろうか。終えた3月1日を忌々しく思いながら静かに俯くことしかできない自分に憤りを感じざる負えない。しかし過去を振り返れば零れんばかりの情動が胸を満たし、まるで宝石のように輝く美しき思い出たちが宝箱の中で鮮やかに、微かに風化している。
苦楽を共にした学友や後学、教えを説いてくれた師を裏切るような形でこの学校生活を終えてしまうことに苦い感情ばかりがせり上がり吐き出したくなるが、何とか堪える。
どうにも自分だけは赦すことができないので困る。
「どうしたの」
「いいや、何もないよ」
ひょこりと顔を見せるのは自分を信じてくれた友であり、推しであり、恋仲である人物だ。
今でもそうだが、こんな自分に愛する人ができるとは思いもしなかった。好い人はこの思考回路を辞めてほしいと思っているようなので辞められるようにはしているが、長年染みついたこの思考は頑固な汚れとなってこびりついてやまない。
だがその顔を見るだけで生きる気力が湧くというのは、なんとも不思議なものだ。
「それ、どうしたの?」
「届いたんだよ。母校から」
手元にある1枚の色紙をそっと持ち上げる。まるで割れ物を扱うように、優しく。それを見てか、はたまた色紙を見てかくすりと笑いふわりと体重をかけてくるが、どうにも支えられずそのまま地にひれ伏してしまう。
「いい子たちなんだね」
「ヴ……そうだね、いい子たちだったよ」
「おっと、ごめんごめん。ほら、起きて」
そっと上から退いて体を起こしてくれる。こんな日々が続くことを祈るばかりだけれど、こんな愚かな生き物たちが蔓延る世界で生きる人間たちが己へと憎しみが向けられる瞬間をいつまでも恐怖することしかできない。けれど、確かに愛する後学たちが幸福でいてくれることを願うのだ。
こんな脆弱で愚かな先達で申し訳ないと思うが、どうにも願わずにはいられない。何故ならば、皆と楽しく会話することができていなくとも僕にとっては愛するべきの可愛い可愛い後学たちだ。楽しい思い出や苦い思い出があるやもしれないが、それでも挫けず前を向いて歩いてほしいと切に願う。
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愛する我が後輩たちよ。
他の才を羨むばかりでなく、追い越さんとばかりに努力に励むことを。
君たちには他者にはない文才や画才があるのだから、それを誇りに常に前へと突き進むことを。
そうして此の世に僅かでも君たちの作品が誰かに愛されることを切に願う。
いずれどこかで会うことがあるやもしれない。会うことがないかもしれない。
だが、この身が朽ちようとも君たちのことを応援していることは努々忘れるな。
君たちがどこの誰かもしれぬ阿呆共に作品を貶されようが、私は君たちの作品を愛している。
敬愛する我が師よ。
今までご指導ご鞭撻のほどありがとうございました。不快にさせることも多々あったかと存じますが、それでも見放すことなくそばで見てくださったこと感謝してもしきれませんことを謝罪させください。
その謝罪を受け取るも受け取らまいも師の自由でありますが、これが私のできる精一杯のことであることを理解していただきたく存じます。
我が母校でしていただいた教えを忘れず、立ち続けられるよう尽力し続けたいと想っています。
どうか我が後輩たちを頼みます。そして、お体ご自愛下さい。
どうか、敬愛する我が母校の師達よ。
赦しは決して乞いません。むしろ謝罪をさせていただきたいほどです。
こんな愚者に諦めずご指導してくださったこと、鞭をとってくださったこと誠に感謝いたします。
どうかご自愛下さい。
以上をもって、師からの、母校からの卒業とさせていただきたく存じます。
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今日も始業の鐘は鳴る。
師が鞭を取り、教えを説く。
当たり前のようで当たり前でない毎日。
嗚呼、今日も世界は回っている。