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四つの前世を持つ青年、冒険者養成学校にて「元」子爵令嬢の夢に付き合う 〜護国の武士が無双の騎士へと至るまで〜  作者: 最上 虎々
第七章 もう一度

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第九十話 剣を折られた騎士へ 前編

 息が乱れた状態で意識を失ってしまったマーズさんを、ガラテヤ様はバグラディの横で寝かせる。


「……やられたのか。マーズ・バーン・ロックスティラは」


「ええ。内臓にダメージが入ったのかしら、致命傷では無いと信じたいけれど、重傷よ」


「……そうか。言っておくが、俺じゃあ何もしてやれねぇ。期待すんなよ」


「言われなくても分かってるわよ」


 相変わらず、ガラテヤ様もバグラディへの当たりが強い。


「つーかよォ、いいのかァ?大切なお仲間さんを、俺なんかの側に置いていたら、殺されちまうかも知れねェぜ?」


「……そこに関しては心配いらないと踏んでいるわ。貴方はマーズを傷つけられない」


 しかし一方で、バグラディのマーズさんに対する「何か」に関しては、信頼しているようであった。


「へぇ、そうかい。俺が恩返しも同盟も何もかもを無視して裏切る訳が無いなんて、そんな保証はどこにも無ぇハズだぜ?何だって、俺を切り離した革命団を簡単に捨て、作戦の情報を売ったくらいだもんなァ。えェ?」


「いいえ、貴方はここを動けない。だって」


「……ッ!い、いや、分かった。今のところは、ここで死にかけの恩人サマを見守っといてやろうじゃねェか。俺はそこまで鬼畜じゃあ無ぇよ、な?今のはお前を試しただけだ」


 マーズさんが何か根拠となるらしいバグラディの様子について言いかけたところで、バグラディの方から静止が入った。


「あら、そう?」


「悪いが、俺はそこそこ以上の権力を持つ奴を未だに信用し切れない。信条がどうこうとかじゃあなくて、そういうトラウマの問題だ。だから……お前を試すことで、俺は自分の警戒を少しでも解こうとしたんだ。手間取らせて悪かったな」


 そして、この答えは何か、早く会話を終わらせてしまいたいとの気持ちが含まれているようなトーンであったと、後で俺はガラテヤ様から聞くことになる。

 しかし、それは少し別のお話だ。


「それはそれとして……止まらないわよ、アレは」


「……あァ。こんなのが革命団の戦闘員になっていたかもしれねェと思うと、ゾッとするぜ」


 二人が見つめる先には、俺の隣から離れてロディアへ突撃するファーリちゃんがいた。


「はっ、とっ、さぁっ!」


「おぉっとっとォ。自分を大切にしてくれるお姉さんを馬鹿にされて、怒っちゃったのかな?」


「当然」


「ふぅん。へぇ」


「何?」


「うーん。おかしいなぁ。組織の皆に聞いたけど……強化人間っていうのは、何かしら人格に関わるものを少し失うらしいんだよねぇ。人間離れした力を発揮できる代わりに、何か人間的なものを失う、と。なのに、君からはそんな雰囲気を感じない。どうしてかな?どうして、マーズが馬鹿にされたくらいで怒れる?」


「……くらい、って、言った?」


 ファーリちゃんの太刀筋が変わった。

 正確さを犠牲に、威力と速度に重きを置いた、あの動き。


 冷静そうに見えるが、おそらくファーリちゃんは大激怒し(ブチギレ)ているのだろう。


「おっとっと、火に油を注ぐつもりは無かったんだよ。ただ、強化人間が怒るっていうのは、相当なことだと思ってね。それとも何かな?君の中で、それほどまでにマーズへの感情が大きかったということなのかい?」


「そんなもの、大きいに決まってる」


「あっそ。なぁんだ、強化人間の失われた感情が復活したのかと思ったよ」


「元々、おいらは試作型。何かを失ったんじゃなくて、満遍なく感情が出にくくなってる、って言った方が良いと思う」


「へぇー。あの情報って、そういうことだったんだねー」


 どうやら、ファーリちゃんは試作型の強化人間であるが故に、人格の何かしらが丸々一つ失われたのではなく、様々な感情や価値観が薄くなってしまった、という代償を抱えているらしい。


 確かに、ファーリちゃんが感情を大きく出しているところをあまり見たことは無い。

 これは俺が知る限りではあるが、「獣道(古巣)」がベルメリアの軍門に降った際と、俺が生き返った時と……そして、今くらいのものだろう。


「知ってたんだ」


「勿論さ。フラッグ革命団の残党が抱える情報は、全て持っていると思ってもらって構わないよ。ところで、何で君は裏切り者である僕に、いろいろ自分のことについて喋ってくれようとするんだい?」


「どうせ知ってると思って。それと、もう一つ」


 そして、ファーリちゃんはそこまで言ったところで、全身に雷を纏う。


「な、何を……」


「おいらのことを、よく知って、覚えてもらって、心に焼きつけてもらってから……。おいらに殺されて欲しいと思ったから」

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