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第八十話 ブライヤ村での一幕

 数日後。


 ブライヤ村へと到着した俺達は、馬車から降りて宿屋へと向かうことにした。


 アデューラ岳までは遠く、また捜索が何日続くとも分からないが故に、出来る限り長く動けるよう、持てる限りの物資も用意しておくことになっている。


 とは言え、一泊でも時間を持て余すだろう。

 何か、少しでもアデューラ岳に関する情報を聞き出せれば良いものだが……。


 良くも悪くも、俺が「ジィン・セラム」であると気づかれていない以上、変に「ブライヤ村」というコミュニティへ深入りするわけにもいかない。


 おそらく「忌み子」としか扱っていないためであろうが、「やった方は忘れていても、やられた方は覚えている」という話が、いよいよ真実味を増してくるところである。


 今の俺は、すっかりフラッグ革命団から村を守った英雄達の一人である「騎士ジィン」なのだ。

 幸か不幸か、忌み子である「ジィン・セラム」の戸籍さえ村には残っていなかったのだろう。


 ある意味、由緒正しい騎士ではなかったことを喜ぶべきなのだろう。

 どこを探しても、「セラム」という名字の騎士は俺を除いて一人も存在していない。


 そして、特に名のある家から出たでもない騎士の名字など、全国どころか領地の主要都市でさえ、一般的には知られないのである。


「ようこそいらしてくださりました、ガラテヤ様、ジィン様、マーズ様、ファーリ様。革命団との戦い以来ですな。歓迎致しますぞ」


 馬車を駐めると、偶然散歩中であったらしき村長がこちらへ駆け寄って、歓迎の言葉をかけに来た。


 社交辞令か、或いは英雄扱いか。

 後者であれば、村を救った連合軍の主要メンバーであったとはいえ、随分と調子の良いものである。


「少しの間、アデューラ岳の捜索を行う上で、ベースキャンプとして使用させてもらうことになるわ。よろしくお願いするわね、村長」


「いやはや、喜んで。ありがたいですなぁ、こうして、また村へ来て頂けるとは……どうぞ、ごゆっくりお過ごし下さい」


 フラッグ革命団と戦う前に、騎士の名前が殺人鬼の息子と同じ名前だということを、わざわざ話したことで軽く揉めてしまったガラテヤ様が、今目の前にいるということを忘れてしまったかのようだ。


「普通にしていれば、普通に良い村長っぽいのに……残念ね」


 一方のガラテヤ様は、村長と少し揉めたことを覚えているらしく、大きなため息をついて座り込んだ。


「お疲れ様、ガラテヤ。……また、ここに来ることになるとはな」


「ガラテヤお姉さん、あんまり嬉しい顔してない。村長さんのせい?」


「ううん。村長のことはもう気にするのをやめた。ただ、ジィンが心配で」


「俺がですか」


「ごめんなさい、何度もブライヤ村を見せるようなことをしてしまって。嫌でしょう?」


「何だ、そんなことですか。良いんですよ。ガラテヤ様が中継地点に選んだのなら、俺は従うだけです。それに、向こうは俺が殺人者の息子だって気付いてないんですから。『ジィンという名の騎士』として普通に過ごせば大丈夫です」


「そう、なら良いのだけれど……」


 一息、今度は安堵のため息をつくガラテヤ様をよそに、ファーリちゃんが駆け寄ってくる。


「ねぇ。ジィンお兄ちゃ、お兄さん」


「お兄ちゃんで良いよ」


 また一歩、心を許してもらえたのだろうか。

 元々「ジィン兄さん」と呼ばれていたのが、今や「お兄ちゃん」とは。

 

「ガラテヤお姉ちゃん、マーズお姉ちゃんも。……買い出しが終わったら、話したいことがある」


「うっ、かわいい」


「マーズ、落ち着きなさい」


「はぁ、はぁ……ふぅ。買い出しの後だな。構わないが……用件は何だ?」


「おいらがあの山で思い出したことと、力の秘密……伝えておいた方が、良いと思って」


 戦いの最中に、ファーリちゃんは急激に力を増した。

 それは、ロディアが作り出した幻の類か、或いは魔力の塊であろうが、首無しのケウキを相手に一人で互角に戦ってしまう程であった。


 確かに気になってはいたが、俺が一度死んだせいであろう。

 勇気を出して何かをカミングアウトしようとするものの、それを話すタイミングを逃したのだと踏んだ俺達は、特に反対するでも無く、速やかに食料や道具の買い出しを済ませて、宿屋へと戻るのであった。

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