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第六十二話 実質的敗北

 まずは、倒れているマーズさんとファーリちゃんの容態を確認する。

 幸い、息はあるようだが……何が起こったのか、さっぱり状況を理解できない。


「……おはよう、ジィン。二人なら大丈夫よ。メイラークム先生から預かっていた魔法薬の余りを使って、何とか快復へ向かっているみたいだから」


 ブライヤ村の公民館付近に設けられた治療室の扉を開け、部屋に入ってきたガラテヤ様が、状況を説明する。


 あの戦いから経過した時間は数日。

 身体がすっかり動ける程度には治っているところからして、相当な時間、俺は眠りこけていたらしい。


 そして、多数の犠牲者を出しながらではあるが、強化人間部隊は何とか退けることに成功したらしい。

 しかし、ケレアが死亡した時点で倒されていなかったブライヤ村付近の全強化人間が、一斉に闇の魔力を放出する魔法によって爆発させられ、それにより、更に犠牲は増えてしまったとのことであった。


 その中にはファーリちゃんとマーズさん、そして前衛に出ていないハズのロディアまで含まれており、マーズさんとファーリちゃんは爆発の衝撃で、全身を焼き切られたような大怪我を負ってしまったそうなのである。

 さらに、ロディアに至っては行方不明なのだそうだ。


「ロディア……」


「……失うものが、大きすぎたわね」


 勝利するも大損害を受け、パーティメンバーゆ大怪我を負ったり行方不明になったりした上で、強化人間とされた子供達を救うことさえできない。

 こちら側の勝利という結果の中では、考え得る限り、最悪に近い状態である。


「ええ……。でも……あのロディアが、そう簡単に死んだとは思えません。まだどこかで、生き延びていると思いたいですけど……マーズさんもファーリちゃんも、こんなになってしまう程の爆発が起こったなら……クソッ!」


 そして、王都やベルメリア邸など、主要な街や施設の大体は守ることができたものの、問題となっているキース監獄は、陥落こそしなかったものの内部へ敵の侵入を許してしまい、何十名かの囚人が殺されたり、行方不明になってしまったりしたそうであった。


「ジィン。追い討ちをかけるようで心が痛むのだけれど……もう一つ、悪いニュースがあるわ」


「……な、何ですか」


「行方不明になった囚人のリストに、バグラディと……貴方の、父親の名前があったわ」


「バグラディはどうでも良いですけど……。その、俺の父親の名前は……ちゃんと、ジノア・セラムって、書いてあったんですか」


「ええ。……残念だけれど、間違いないわ」


「そう、ですか……」


 ジノアの名前が、わざわざ「死亡」ではなく「行方不明」と書かれていたリストにあったいうことは、ロディア同様、必ずしも殺されたとは限らない。

 しかし、「連れ去られただけ」であったとしても、相手が相手だ。

 そう気楽なことは言っていられないだろう。


「私としては、とりあえず二人の意識が戻り次第、王都に戻るつもりよ。できれば、ついてきて欲しいのだけれど……貴方の父親のこともあるから、無理に来いとは言わないわ。ちょうど、行方不明者の捜索隊も各地で結成されているらしいし……その中には、レイティルさんが隊長を務める部隊もあるそうよ」


「……とりあえず、レイティルさんも無事だったってことですか」


「ええ。……もし、ジィンがそっちに着いていくと言っても、私は止めないわ。どうする?」


「……いや、大丈夫です。俺はガラテヤ様の騎士ですから。それに、人にあまり順序をつけるものでは無いとは思いますけど……俺にとって、最も大切なのはガラテヤ様ですから」


「……そう。ありがとう。私も、とりあえず王都に戻ったら、遅れてレイティルさんの捜索隊には加わるつもりよ。だから、その時には一緒について来てくれるかしら?」


「当然です。何があっても、俺はガラテヤ様について行きますから」


「分かったわ。じゃあ、とりあえず……村の復興を手伝ってくるわね。ジィンも、身体が治ったら来て頂戴」


「それについてはあんまり気乗りしませんけど……分かりました。仕事として割り切ることにします」


「そうしてもらえると助かるわ」


 ガラテヤ様は、小さい身体で俺の頭を撫でてから、治療室を出ていく。


 パーティメンバーが一人行方不明となってしまったことに加え、マーズさんとファーリちゃんも、しばらくは動けない程の重症を負ってしまった。


 確かに激戦を制したのは、辛うじて王国政府と貴族達に多くの冒険者を加えた連合軍である。


 辛くも勝利と言いたいところだが、加えて父親まで行方不明となってしまった今。

 俺にとってこの戦いは、「実質的な敗北」となってしまった。

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