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第四十四話 本気

 マーズさんとバグラディとの戦いが始まった。


 互いに間合いの近い者同士、大剣と斧は絶え間なくぶつかり合う。


 風の玉を飛ばすなり、マーズさんに風を纏わせて動きを支えることで援護しようにも、二人が動き回りながら斬り合っている以上、誤射を避けることはほぼ不可能な状況であるが故に、外野が手出しすることもできない。


「ハァァァ!ガァァァ!ウォォォォァ!」


「はっ!やっ!フンッ!」


 バグラディの炎に一歩も引かず、マーズさんは大剣を振るう。


「フゥゥ……。喰らってみやがれェ!【炎灰阿(エンパイア)】!」


「はぁぁぁ……やぁっ!やぁぁぁぁぁぁっ!」


 俺が知る限り、マーズさんが特殊な技や魔法を使っているところは見たことが無い。


 しかし、マーズさんは握っている大剣の刃、その向きを変えるだけで、ガラテヤ様とファーリちゃんが打ち負けた「炎灰阿(えんぱいあ)」を防ぎ切ってしまった。


「俺の炎を前に、一歩も動かないか」


「私だって、騎士の娘だ。ナメてもらっては困る。……それに、このパーティでは一応、私が最年長だ。このくらいの度胸は見せなければな」


「フン、いつまでその強がりが続くかな!」


「貴様の方こそ、覚悟をしておけ!」


「もう一度、喰らってみろッ!【炎灰阿(エンパイア)】!」


「返り討ちにしてやる!【オーガー・エッジ】!」


 鬼の如き気迫を纏ったマーズさんの大剣と、炎を纏ったバグラディの斧が、互いを削り合う。

 この世界には「オーガ」と呼ばれる巨大な鬼の魔物がいるが、彼らの如き気迫と力が、マーズさんの大剣には込められている。


「ッッググググァァァァァ!!!」


「はぁぁぁぁぁぁぁぁッ!」


 マーズさんもバグラディも、一歩も譲らない。

 本当に、「ケウキ」を相手に腰を抜かしていたとは思えない程の迫力である。


 しかし、マーズさんの表情がバグラディに比べて険しい。


「……お前は確かに強い。だが、俺は!お前より!ずっと強い!!!」


「ぐ、ぐぐぐ……!」


「ハッ!ガァッ!ハァァァァァァァァ!!!」


「なっ!ま、マズい……!」


 そして、バグラディはマーズさんの太刀を振り切り、懐へ。


「二つッッッ!!!」


「不覚……」


 マーズさんの胸ごと抉るようにバッジを砕き、その時点で転移の魔法が発動したのか、彼女もまた、講堂へ飛ばされてしまったようであった。


「マーズ!」


「これで二つ……さあ、かかって来ィィィィィ!」


 このままではマズい。

 数的有利がどんどん覆されようとしている。


「何かいい作戦は……!」


「小細工が通じる相手じゃ無いとなると…‥困りますね」


「ど、どうしようかしら」


 このまま各個撃破される訳にはいかない。

 かといって、ロクな作戦も思い浮かばない。


 次のターゲットは俺なのか、こちらに目線を合わせて距離を詰めてくる。


 俺は改めてファルシオンを構え直し、ガラテヤ様も拳に風を纏わせた。


「ガラテヤ様、二人で行きましょう」


「賛成。私達のコンビネーションを見せてあげましょ」


 かつての姉弟であり、現世でも四年以上を共に過ごした二人。

 今の俺達ならば、常に二体一を強いる戦い方をすることだって不可能ではないハズだ。


「二人で同時に来るつもりか。だが分断してしまえば、何も問題はないッ!【怨禍(えんか)】!」


 バグラディは、周囲を焼き払う炎の渦で俺達を分断しようとする。


 しかし、俺とガラテヤ様は共に後方へ退くことで、円の両橋へ分断される事態は防いだ。


「喰らえ、新技はお前で試してやる!」


 俺は後方へ飛びながら、風を纏わせた弓矢を構える。


「来いッ!弓矢など、俺には通じんッ!」


「果たしてどうかな!【閃竜(せんりゅう)】!」


 放たれた矢は、渦巻く風を纏い加速。

 矢先に集中する風は、その鋭さを更に高めながらバグラディの元へ向かう。


「フンッ!……グググググ!グアッ!?」


 それを斧で防ごうとするバグラディだが、矢は刃を抉り続け、とうとう弾き飛ばしてしまった。


 自身の身体から離れる物に風を付与し続ける技は、俺にとって確かにリソースを食うものだが……それに見合うだけの攻撃は叩き込めたようである。


 そして、それに続けてガラテヤ様が「飛風(フェイフー)」を用いて前線へ。


「喰らいなさい。私も、新技を試してあげる」


「クァァァ!もはや武器など不要!素手で弾き返してくれるわァァァァァ!」


「ジィンがレイティル隊長と戦った時に見せた、あの妙な気配……今なら、私にもできる気がするの」


「マジで言ってます!?アレ、やった後エラいコトになりますよ!?」


「そうでもしないと、コイツには勝てない。私のことは、後で貴方が何とかして」


「……わかりました。じゃあ、思う存分やっちゃって下さい!」


「ありがとう。……解き放たれよ、私の力!ハァァァァァァァァ!!!」


 飛び上がったガラテヤ様は一瞬のうちに精神を統一し、「刹抜(さつばつ)」と同じ要領で腕に魔力を込める。


 しかしそれによって纏うものは、風ではなく魂の力、人が未だ見ぬ霊の魔力。


「何の!その拳、打ち砕いてくれるわッ!」


 バグラディも、それに合わせて拳へ炎の魔力を込める。


「ハァっ!【波霊掌(ばれいしょう)】!」


「クァッ!【戦終落(せんしゅうらく)】!」


 ぶつかり合う拳は、互いに周囲に爆風を発生させる程の威力を発生させる。


「はぁぁぁぁぁぁ!!!」


「グォォォォォォォ!」


 僅かにガラテヤ様が押しているが、あの技が身を滅ぼすのは時間の問題だ。

 このまま耐えられてしまえば、もはやボロボロのガラテヤ様に勝ち目は無い。


 俺は弓矢を引き絞り、バグラディの背後へ誘導するように風を纏わせて発射する。


 しかし、バグラディは持て余している左手でそれを振り払い、尚もガラテヤ様と張り合っている。


「っぐぐぐぐぐぅ……!」


「カァァァァァァァァァァァァ!」


 矢を撃ち続けながらも、もはや打つ手無しか、そう思われた時。


「おいらを忘れてもらっちゃ困る。拳を使う相手が両手が塞がっている時はチャンスだって。足を使わないから」


「なっ……!?」


「もーらいっ」


 バグラディの背後から飛来したファーリちゃんが、ガラ空きの背中をナイフで切りつけた。


「そ、そんなブベァァァァァ」


 その瞬間、バッジがダウン判定を与えたものの、彼自身の纏っていた炎が魔術の発動を遅らせてしまったのか。

 気が散ったバグラディは、顔面が一瞬歪む程にガラテヤ様の拳を喰らいながら、講堂へと転移させられてしまった。

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