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第三十七話 躍動

 俺は「駆ける風」で距離を詰め、ガラテヤ様に迫る。


 しかし、何やらガラテヤ様の右手が風を纏っている。


「【駆ける風】!」


 瞬く間に風を前方に噴射して後退。


 ガラテヤ様は何かを仕掛けようとしている。

 間一髪、気づいて良かった。


「あら、引っかかってくれないのね」


「何か察しましたから」


「なら、こっちから行くまでよ!【風の鎧】!そして……【飛風(フェイフー)】!」


 しかし安心したのも束の間、今度はガラテヤ様が全身に風を纏って突っ込んでくる。


 その機動性は、全身にジェットエンジンを搭載しているロボットと同等かそれ以上。


 滑空というよりかはホバリングに近いが、その様は、まさに風そのものといったところだろうか。


 やはり、ガラテヤ様は天才だ。

 飲み込みが早すぎる。


 しかし、少しばかり己の力と技量に頼りすぎる戦法なのは確かであり、そこはガラテヤ様ならではの未熟な点であろう。


「【駆ける風】!」


 俺は足元にだけ風を纏わせ、「飛風(フェイフー)」よろしくそれを噴射して後退。


 やはり、スピードでは負けていない。

 ガラテヤ様との距離はぐんぐん離れていく。


「な、何故!?全身から風を放っているのに、距離が縮まらない……!」


「ガラテヤ様!効率ですよ、効率!」


 全方位に風を噴射できたところで、速さ比べならばさほどそれに意味は無いのである。

 現に、「方向転換に難があり、しかし一方向に噴射するエンジンのパワーが百八〇の飛行機」と、「全方位に移動可能だが、一方向あたりにかけることができるパワーが百二〇のロボット」が直線でレースを行った場合、どちらが先にゴールへと辿り着くだろうか、という話であり、その正解は「飛行機が大差で勝利」で間違いないだろう。


 今、俺とガラテヤ様はまさにそれをやっている。

 足首から下にしか風を纏っていないが、魔力をそこから空気を噴射することだけに割くことができているため、出力は「風の鎧」から繰り出される「飛風(フェイフー)」よりも高いのだ。


「ならば……!【糸巻】!」


 しかし、俺が調子に乗っていられるのもどうやらここまでのようだ。


 一見、単純な竜巻。

 しかし、それは自由自在に操られている。

 伸びたり縮んだり、空中で飛んだり跳ねたり。


 空気を巻き込み、辺りのものを引き寄せる小さな竜巻を、ガラテヤ様は手刀で作り出している。


 そして、その竜巻は倒れ込むようにこちらへ軸を変えた。


「な、何、これはっ!?ガラテヤ様!?」


 地上に対して垂直ではなく、平行に。

 巨大な柱のように用いて、先端から俺を巻き込むことができるように。


「私の大技!ファーリちゃん達のアジトを探しに行った時にジィンが使ってた『風洞』を真似しようと思ったら、こんなことになっちゃって」


「アレを真似しようとしてこうなるって……!」


 メカニズムはあまり変わらないようだが、出力の差がまるで比にならない。


「ま、何でもいいわ!強いみたいだし!そらっ!」


「ああ危ないっ!?【駆ける風】、【駆ける風】、【駆ける風】!」


 これはマズい。

 とにかく今は、「駆ける風」で距離を離さなければ……!


「さらに離れる……!なら私は、【風の鎧】!これに乗って……貴方に近づくッ!」


 速い。


 とんでもないスピードで、「糸巻」に乗ってこちらへ突っ込んでくる。


「ガラテヤ様、これは!?」


「『糸巻』を風のトンネルとして使っているの!燃費は馬鹿にならないけど、これなら『駆ける風』にも負けないスピードで近づける!」


「そ、そんなことまで……!ガラテヤ様、貴方は……!そんなに……」


「貴方に追いつくまで、三、二、一、ゼロ!」


「……っ!フンッ!!!」


 ファルシオンを抜き、突進してくるガラテヤ様の拳に合わせて防御体制をとる。


 しかし、ガラテヤ様は竜巻の中からフワリと飛び上がり、背後へ。


 そして風を手に纏わせ、こちらとの距離を一気に詰めた。


「【殺抜(さつばつ)】」


「うおおおおおおっ!」


 ガラテヤ様の「殺抜」と同時に、風で腕を加速させてファルシオンを振る。


「おっと。これはいけないわね」


「危ないところでした……ッ!」


 しかし、反撃の斬り上げは失敗。

 ガラテヤ様は飛んで後退、容易く回避されてしまった。


 このままでは防戦一方だ。

 何か打つ手は無いかと探る。


 考えなければならない。

 ここで勝ちを譲ってしまっては、相手がガラテヤ様とはいえ、そこそこの熟練者として生きてきたプライドがズタボロである。


 ここまでガラテヤ様が成長しているのは、師匠として嬉しい限りではあるが……それと同時に、弟子に乗り越えられようとする師匠の気持ちが今、俺にも理解できた。


 俺はファルシオンを構え、ガラテヤ様の攻撃に備える。


 しかし、未だ状況は変わることなく、ガラテヤ様の次なる一撃が、俺へと迫るのだった。

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