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第三十二話 自身の存在を理解できない青年の話

 少し、気になることがある。


 俺は何者なのか。


 これまで四度、転生を繰り返してきた。


 今の俺は、間違いなく「ジィン・セラム」にミドルネームを加えた「ジィン・ヤマト・セラム」で合っているだろう。


 しかし、俺はソドムのネフィラ少年であり、平安武士の常正であり、特攻隊員の武史であり、そして現代の小学六年生、大和なのである。


 時々、自分を見失うことがある。


 特に、常正であった頃に学んだ技を、魔法に頼らず使った時。

 これは俺が望んでいるものだが、尊姉ちゃんとして振る舞ってくれるガラテヤ様と話している時。


 俺は果たして「ジィン」として生きている意味があるのか、と思う。


 そして五度目の人生にして突然、別の世界へ転生してしまったこと。

 さらに尊姉ちゃんまでこちらの世界へ転生してきたこと。

 こちらも相当な疑問である。


 俺は何者なのか。

 何故、尊姉ちゃんと再会できたのか。


 元の世界は「何」であり、この世界は「何」なのか。


 枕が涙で微かに濡れている。


 転生を繰り返す俺。

 もはやそこには、死が実感として薄れていく感覚すら存在した。


 そんな俺を、今だに人間として生きることに固執させるもの。

 自身の命が大切なものであると知覚させるもの。


 以前の尊姉ちゃん、現在のガラテヤ様。


 向こうにとって邪魔でさえなければ、俺は、この人の側に居続けたい。


 ガラテヤ様だけが、俺の全てなのだ。


 身体も魂も、だいぶ落ち着いてきた。


 俺はベッドからゆっくりと立ち上がり、ガラテヤ様を出迎えた後にロディアとマーズさん、そして共に行動する仲間として登録したファーリちゃんを連れ、事前に指定されていた教室へ向かった。


「ジィン兄さん、目、腫れぼったい。泣いた?」


「ちょっとだけ。思い当たることがあってさ」


「悲しいことがあったらおいらも泣く」


「だよね」


 俺はファーリちゃんの頭を撫で、そして大きく伸びをする。


 一方、ガラテヤ様は俺達よりも早く一人で指定の教室へ先行し、先生達にパーティの集合が完了したことを伝えた。


 今日は学年が始まって丁度四ヶ月の記念日。


 一週間、山に籠って鍛錬と交流に集中する遠征の出発日なのである。


「『マハト霊山』……楽しみですね、ガラテヤ様」


「ええ。……ジィンの力を調べるためにも、一度行っておいた方が良いと思ってたところなの。丁度よかったわ」


「俺の力を調べるために?」


「ええ。第七隊長を倒したあの攻撃……どう考えてもおかしいもの」


「確かに……父上は自分でこそ戦闘が苦手だとは言っているが、そこら辺の人間が勝てるほどの力じゃあない。それを容易く吹き飛ばすほどの力……何か、心当たりがあるのか?ガラテヤ?」


「勿論よ」


「えっ、でもちょっと待って。普通にジィンくんの口から話してもらえばいいんじゃないの?」


「それが説明できないから俺も困ってるんだよ」


「訳が分からない。ジィン兄さん、気でもおかしくした?」


「はは……おかしくなっていなければ良いなとは思ってるよ」


 あの時、レイティルさんを倒した「越風霊斬(えっぷうれいざん)」。


 これは平安時代、俺が最終奥義として、度重なる戦の中で数回しか使ったことがない大技である。


 現代人の感覚からしてみると、失われたファンタジー世界がそのまま再現されているように見えるだろう。

 それほどまでに、当時はそのような非科学的なものが当たり前に存在していたのだ。


 そして、この世界には、魔法がある。


 しかし、それでも尚、今際の際に出た幻のような剣技をもう一度使うことができるとは思っていなかった。


 そもそも、俺の風牙流は平安時代よりも鈍っている。

 ブランクはほぼ解消されたとはいえ、全盛期のように立ち回ることは今でも難しい。


 それでも満足に使うことができた「越風霊斬(えっぷうれいざん)」は、きっと肉体ではないところを大きく使う剣技なのだろうと、俺の中で推論ができている。


 そこで遠征と来たものだ。

 渡りに船とはこういうことである。


 俺達はそれぞれの荷物を持ち、今回はギルドではなく、学校所有の馬車に乗る。


 学生全員を乗せる数の馬車。

 ちょっとした行軍である。


 行き先は王都から西側、「マハト霊山」。


 俺達の長い二週間が今、始まろうとしているのであった。

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