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第百六十一話 矮小なる人間

 ムーア先生は、そのままバランスを崩して倒れ込む。


「ま、これで剣は握れな……」


「ウォォォァァァァァァァァ!」


 しかし、右腕を捥がれてもなお、ムーア先生は立ち上がった。


 そして、右腕の付け根から血を無理やり魔力で押さえ込むことで生成した刃を生やしす。


「まさか、ここまでやるなんて。随分と血気盛んなんだね。今まで隠してた破壊衝動が噴き出ちゃったのかな」


 ムーア先生の右肩から飛び出すものは、何ら特殊な能力を用いて生成されたものではない。


 さながら水圧カッターのように、圧倒的な力と、得意ではない魔術に使うことも無かった魔力の蓄積が爆発してこそ為すことができている、最期の足掻き。


 消し飛ぶかのように消費される魔力は彼の断末魔のようであり、しかしそれが、彼の生成された血の右腕を、剣の形としているのである。


「ムーア先生、無理をしてはいけないわ!今すぐ処置をすれば、まだ……!」


 ムーア先生は、メイラークム先生の静止を振り切って構えをとる。


「ハッ。どの道、俺はもう限界だ。一度解放しちまえば、この衝動を抑えることはできねぇ。俺がアイツを仕留められる気もしねぇが、せっかく死に場所を見つけた、ジジイのワガママだ。だから、黙って行かせてくれや」


「……っ」


 メイラークム先生も、その言葉を聞いて、今にも倒れてしまいそうな老体を受け止めようとしていた手を引っ込め、顔を背けた。


 後ろで弓を構えていたケーリッジ先生も、引いていた腕を戻す。


 そして俺達も、何故かこの場を動く気にならなかった。


 覚悟を決めた戦士の目は、もはや誰も間に挟む余地を残さなかったのだろう。


「じゃあな、若いお前ら。……せいぜい生きて、この世界を取り戻しやがれや……ウゥゥゥゥゥゥゥァァァァ!!!」


「そっか。ま、そこまでの覚悟があるなら、受け止めてあげるよ。【ファランクス】……」


「喰らえや……『斬獲(ざんえ)』の……最終到達点!奥義……!【(れつ)絶霊獲奪葬(ぜつれいえだつそう)】!!!」


 既に生き絶えたかのような全くの静止から、瞬く間にクダリ仙人の眼前へ飛び出す。


 そして瞬きをする間に、クダリ仙人の全身を粉微塵と化してしまう程の、連撃を繰り出した。


「残念」


 しかし、それが現実のものとなることは無く。


「ぐ、べ」


 全てを弾き返されてしまったのか。


 その場には、全身が穴だらけになったムーア先生の、萎びきった肉片が残っているのみであった。


「ムーア先生……!」


「そんな……こんなにも、あしらうようになんて……!」


 その有様に俺は、そしておそらく俺達以外も、その圧倒的なまでの《《差》》を思い知らされる。


 パワーやスピード、魔力、技術、そういったものを超越しているかのような、圧倒的な何か。


 それを直視してもなお、戦わなければならない事実に本能が打ちひしがれてしまったことを、自らの理性を以て感じることができる。


「ううう、ううあああああ!」


 一方でファーリちゃんは、目の前で起きている現実を受け入れられないといった様子であった。


 俺とガラテヤ様が持つ霊の力を含めても、打つ手が片手の指で数えることができるほどに残っている気がしない現状に、ファーリちゃんの精神は、既に限界を超えていたのだろう。


 そのまま泣き出すことさえやめてしまい、口を開けたまま座り込み、震え始めてしまった。


「くっ……や、やるしか無いわ……!【嶺流貫(レールガン)・急速装填】!」


「【雷電飛矢サンダーボルト・アロー!」


「【十文字(じゅうもんじ)】!」


 俺とガラテヤ様、そしてケーリッジ先生は、闇雲であることは理解していつつも、攻撃を仕掛ける。


「さてさて、《《本気のお遊び》》はこれくらいにして……汚い手も使っちゃおうかな」


 しかしそこへトドメを刺すように、クダリ仙人は両手を掲げ、ブラックホールのようなものを生成した。


「……な、何か来るわよ、三人とも、気をつけて!」


「【要素廃棄(ルールブレイク)・魔力剥奪】」


 そして、三人の攻撃がクダリ仙人へ届く前に、クダリ仙人が生み出した黒い澱み、その渦は動き始める。


 それはあろうことか、この世界においては当たり前だったものを。


 全ての魔力および霊力を吸収し、閉じ込めてしまった。

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