第百五十九話 神罰
クダリ仙人は血飛沫となり、辺りに飛び散る。
「ハァ、ハァ……」
「ふぅ、ふぅ……」
バグラディとファーリちゃんは、目に見えて疲弊していた。
「……ヘヘッ。やったじゃねェか、チビ」
「ん……何とか」
血塗れの芝生を尻目に、二人はグータッチを交わす。
「これで……」
俺は呟くと、皆も続いて声を上げ始めた。
喜びが心の底から溢れてくる。
これで、この世界は守られた。
そう思ったのも束の間。
「……どけ、チビ!」
「へ?」
バグラディはファーリちゃんに向かって突進して、突き飛ばしてしまったのだった。
「う、ぁ」
「え……あ、あ」
血飛沫。
しかし、クダリ仙人はもういない。
これは、バグラディの血だ。
彼の右肩と腹部から大量の紅が吹き出している。
青ざめるファーリちゃんの眼前には、血飛沫から生えるように飛び出た血の杭に突き刺さったバグラディがいたのだ。
「ハァ、ハァ……しくじったかァ、クソ」
「バグラディ……?しっかり、して……マーズお姉ちゃんが守った世界だよ、最後まで、守らなきゃ」
俺達が声を出す間も無く、ファーリちゃんはバグラディへ縋りつく。
「すま、ねェな、チビ……。オレは、ここで……オネンネ、だ……」
「そんな、そんなこと」
「これで、ようやく、オレも、アイツと、一緒の……。いや、無理……だよなァ……オレはよォ……」
ブランと、手が垂れ落ちると同時に、彼が持っていた大斧が芝を斬り割いて土の上へ刺さる。
「なんで、なんで……!」
ファーリちゃんは大粒の涙を流して、その場に崩れ落ちた。
あの血は悪足掻きのつもりなのだろうか、それとも呪いの類だろうか。
しかし今、目の前で爆発したクダリ仙人が、目の前にあった命を狩り取っていたことだけは、もはや確定した事実であった。
最期に残した、バグラディの言葉。
マーズさんは天国行きだろうが、おそらくバグラディが一緒に行けないと言っているのは、フラッグ革命団の存在と……何より今の今まで、クダリ仙人と戦っていたことが原因であろう。
しかし、それでも俺は、アイツがマーズさんと同じところへ。
もうとっくに出来上がっている天国があるのならば、そこへは行って良いと思っている。
その天国を作った主が、クダリ仙人の別人格であるという神でなければ、の話だが。
結局、俺達は歓喜の声を上げることができなかった。
バグラディがガラテヤ様を痛めつけていた時のことを思い出すと、今でも苛立つのは確かである。
それでも、バグラディは改心して悪魔へ、そしてクダリ仙人へと刃を向けたのだ。
そして何より、もはや彼は困難を共に乗り越えた仲間であったと、そう思ってしまうからである。
しかし、そのバグラディへ捧ぐ感謝も虚しく。
「……いやあ、今のは痛かったネ。一回死んじゃったから……ヤバい、残機がもう無い」
そこには、飛び散ったはずの全身を綺麗さっぱり取り戻したクダリ仙人の姿があった。




