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第百五十五話 天国の襲来

 あろうことか、この場所で。


 俺とガラテヤ様が育った、この邸宅で。


 クダリ仙人が、騒動に明らかな関係があるであろう、光の柱、その真下に立っている。


「……わざわざベルメリア邸までお越しになって、何の用ですの?貴族の家に部外者が堂々と入っている状況は、色々とよろしく無いのだけれど」


 ガラテヤ様は拳を構え、皆も続けて臨戦体勢へ。


「なぁに、君達に吉報を持ってきただけだヨ。そう警戒しないでくれると嬉しいな」


 しかし、クダリ仙人は右手の平をこちらに向けて静止のジェスチャーをしながら、光で形成した椅子に腰掛けた。


「吉報?それにしては、随分と怪異じみているじゃない!何が起こってるのか、キッチリ教えてもらおうかしら!」


「うん、勿論だよ。じゃあ、まず結論から話すネ。……おめでとうございまーす!無事、天国が完成しましたー!!!イェーイ!パチパチパチパチ~!」


 クダリ仙人は、大はしゃぎしながら拍手をする。


 ……え?


 何を言っているのだろうか、このヒトは。


「すいません、何も分かりません」


「ま、結論を言っただけだからネ」


「それで……どういうことなんですか?」


「天国が完成したんだよ。天国っていうのは、善良なる人々が、楽しく暮らす場所ってイメージだと思うんだけど……合ってる?」


「合ってますよ」


「なら良かった。でも天国ってのは、簡単に作れる訳じゃなくって。その世界に生きる人々がある程度以上は善良じゃないと、そもそも天国に残す人を選別することさえできないんだヨ」


「難しいのね。天国を作るというのは」


 ここまでの説明で、すでに疑問点が一つ。


「クダリ仙人。天国に行ける人を選ぶって言い方なら分かるんですけど……『天国に残す人』っていうのは、どういうことですか?」


「良い質問だネ!そう、そこが今、この世界で起こっていることだヨ」


「やっと説明してくれるのね」


「お待たせしたネ。この世界を餌場にしていた悪魔を撃破してくれた君達以外が止まった、今、この瞬間が!まさに!天国ってことだヨ!」


「……はい?」


「何を言っているのかサッパリよ」


「ん、わからない」


「……私達が果てに行ったことに、何か関係があるってことかしら?」


「ふむ……我々がロディア・マルコシアスを倒したことで、この事態に陥ったと言っているのではないですかな」


「ウーン、その言い方はちょっと嫌だけど……大正解!この世界をこの時間で固定して、天国は完成!善が悪に勝った世界として、永遠の栄光が!住人達も、永遠の命が保証されるんだヨ!


「なーんか勝手じゃあねェかァ……?」


 それはその通りである。


 この世界に生まれた俺達にとっては、栄光がどうこうよりも、この世界の全てが固まってしまっていることの方が重要であるということを、クダリ仙人は理解できていないようだ。


「まあまあ。ちゃんと君達にはご褒美も用意しているから。悪魔を倒した救世主である君達には、これから私の使徒として、永遠の命を約束するヨ!」


「お断りさせていただこうかしら。気に入らないわね」


 ガラテヤ様は再び、拳を構えた。


「まあそう言わずに。勿論、マーズ・バーン・ロックスティラも、後で私の側近に」


「気に入らないと言っているのよ!」


 クダリ仙人が説明を終える前に、ガラテヤ様は真っ先に走り出した。


 無理もない。

 今までの説明を聞く限り、クダリ仙人の説明は、彼自身の主観に基づいた善悪でのみ語られている。


 この世界を最も良い、もとい「善い」状況で固定し、それを天国として保存することで、神の栄光を示すコレクションになる。


 そして、俺達は使徒……つまりは天使として神の勢力に迎え入れられる。


 神様の元で天使として過ごしていられるのだから、永遠の命は保証されている上に、マーズさんも側近に迎え入れるため、俺達はマーズさんにまた会える。


 それを全て良いことのように語っているクダリ仙人だが、少なくとも俺からしてみれば、そつではないのだ。


 まず、現世を生まれ育ったこの世界が、クダリ仙人の一存によって、突如として終わりを迎えてしまうことに、俺はそもそも納得がいっていない。


 そして、果てしない未来が続いていくことが、必ずしも良いことであるとは限らない。

 こうして神様や天使、その別人格であるクダリ仙人が動かなければならない状況が存在しているということは、神様や天使達だって、絶対に殺されない、或いは死ぬよりも辛い目に遭わないとは限らないということなのだ。


 永遠の命が保証されているとは言うが、俺達は天使にされるのであれば、クダリ仙人や悪魔が特殊な方法で殺しでもしない限りは、それは当然であり、また固定された世界の人間達が死なないというのも、全てが固定されているのだから、それはそうだろうとしか言いようが無い。


 今思えば俺は、クダリ仙人に天啓を授けられ、またロディアに殺された際には、特別に目をかけている人間として、蘇らせてもらっていたのだろう。

 マーズさんが死に際に一度だけ使えた霊の魔力を、俺とガラテヤ様だけが、消耗は激しいとはいえ自由に使うことができるのも、きっとクダリ仙人、或いは神様に授けられた、特別な力だ。


 全ては、この時のために。


 しかし、それでもガラテヤ様のように、俺はこの事実が気に入らない。


 受け入れられない、受け入れたくも無い。


 俺は死んでも、ガラテヤ様の夢に付き合う。

 その一つには、俺とガラテヤ様、そして仲間達が、この世界で幸せに生きることも、含まれている。


 だから、俺はガラテヤ様に続く。


 走り出し、ナナシちゃんの刀を抜いて、構える。


「喰らいなさい、不届き者!」


「クダリ仙人!俺は心底ガッカリしましたよ!」


「【(さつ)……」


「風牙の太刀……!」


「うおっ、そんな、何が」


(ばつ)】!」


「【雀蜂(すずめばち)】!」


 俺とガラテヤ様の悲願である、何気ない日々。


 それを奪うクダリ仙人は、たとえ本当に神様の別人格であったとしても、俺達にとっては、間違いなく悪魔なのだから。

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