第百五十二話 果てよりの面々
教室棟でも、やはり学生達はうんともすんとも言わないどころか、息の音一つさえ立てていなかった。
こうも静かな日というのは、珍しいものだ。
「先生!誰か!……いないわよね、流石に」
「いませんねー。でも、こんな混乱の中で普通に学校に来てる訳無いような」
「それもそうね。じゃあ……どこに行こうかしら?家に行こうにも私達、メイラークム先生の実家以外、誰の家も知らないわよね」
「ん。知らない。探してみる?」
「うーん。でも、探す手段は何も無いわよね」
「無い。おいらも知らない。……メイラークム男爵のお家、行ってみる?」
「流石に遠すぎないか……?移動してる間に事態が悪化しないとも限らないし……」
「少なくとも昨日の晩までは普通に時間が流れていたのだし……先生達が異常に気づいて動いていたにしても、まだ王都から離れた場所には行っていないんじゃあないかしら?」
「じゃあ、一刻も早く探さなくっちゃあな。ま、三人とも動けなくなってたら意味無いんだけど。あと、バグラディも探さないとな」
「それもそうね。勾留を解かれたとか何とか言っていたけれど……。今、何してるのかしら」
「アイツも一応は、山で『果て』を見たメンバーですし……俺とガラテヤ様だけじゃなくて、ファーリちゃんも動けているなら……何となく、動けそうな気もします」
「どこか……目立つとこ、出る?」
俺達は訓練場を出て、そのまま広場へ。
ここなら、学校に動ける人を探しに来た誰かがいても、すれ違わずに済むハズだ。
しかし、こうも全てがピッタリ止まって動かないと、何とも居心地が悪い。
違和感の塊が常に視界へ貼りついているような。
空を飛んでいる鳥は、自身が羽ばたかずとも空にいることを知らず、噴水から吹き出した水は、自らが群れから外れたことに気づけない。
その景色が絶妙に気に入らないと、人間としての本能が、そう訴えている。
「……ハッ、お、お前らァ!ちょうど良いところに!一体どうやってやがるんだ、朝っぱらからァ!」
「バグラディ!やっぱお前も動けるのか!」
ほどなくして現れたのは、バグラディ・ガレア。
やはりバグラディも、この止まった世界の中で動ける人間であったらしい。
俺は、ガラテヤ様とファーリちゃんに説明した内容をそのまま、バグラディに説明する。
俺が起こしたガラテヤ様やファーリちゃんとは違い、ここまで辿り着く前に、様々な衝撃を前もって受けていたためだろう。
二人よりは反応が薄かったが、バグラディは、それでも驚く他ないといった様子であった。
「あっ!見つけた!声が聞こえると思ったら、みんな……動けてたのね!」
そして説明を終えると共に、現れたのはケーリッジ先生。
パワードスーツの「ゴリアテ」を身に纏い、空を飛んでやってきた。
この様子では人の足音さえ聞こえないのだ、俺達の声が、より遠くまで響いたのだろう。
「ケーリッジ先生!無事だったんですね!」
「ええ!皆も無事で何よりよ!……でも、まだ二人……足りないようね」
「ええ。ムーア先生とメイラークム先生は……大丈夫かしら」
「ん……でも、あの二人なら大丈夫」
ケーリッジ先生が足をつき、ファーリちゃんが胸を撫で下ろすと同時に、二つの影が動く。
「そうね。私達なら」
「やはり動けてしまいますな、悲しいことに」
そして、ストンと俺達の元へ降り立ったのは、ムーア先生とメイラークム先生。
「ね、無事だった」
「あっという間に、『果て』行きの生き残りが大集合ね」
「そうみたいですね。とりあえず、無事で良かった」
思いの外、集合は早かった。
やはり学校の待ち合わせ場所といえば、目立つ噴水。
ウェンディル学園に通う者に染みついた常識が、まさかこんなところで役に立つとは。
集合を確認した俺、ガラテヤ様、ファーリちゃんは、それぞれ一度寮へ戻り、装備を取ることにした。
このような状況を作り出す敵を相手に、防具が役に立つとは思えない。
むしろ、少しでも身体を軽くして動きやすくすべきであろう。
そして、ガラテヤ様とファーリちゃんも同じことを思ったのか、俺は刀、ガラテヤ様はセスタス、ファーリちゃんはナイフだけを持って、再び噴水前で合流する。
「さあ、行きましょうか。この異常の、原因を探しに」
俺達はガラテヤ様をリーダーとして、行動を開始する。
まずは高所から、周囲を確認しなければ……ということで、俺達は学園の敷地内にそびえ立つ、もう一つの集合場所と名高い塔へ向かうことにした。




