第百四十四話 ロディアの一撃
ロディアは一瞬、その数十秒にも感じる一瞬を硬直し、そして口を開く。
「……へぇ。そういえば……そうだったね。僕が何か言っても、信じてもらえないのか。僕が神の価値観を話に出した時点で、僕の言葉には完全にトドメが刺された訳だね」
ロディアは短くため息をつき、巨体のまま、右手でポリポリと頭を掻いた。
「ああ、その通りだ、ロディア。何を勘違いしてたのか知らねーが、お前も人間じゃない。ずっと魔術師ロディアでいれば、俺達だって、人間としてお前と接することかできていたのに……いや、まあ無理か。分かってるけどさ」
「悪魔差別かい?全く、前世で何を学んできたのかな」
「被害者ぶるな!」
「実際に被害者だよ、君達が神に流されるがまま動いていたら、僕の餌場が無くなるんだから。冷静に会話しようよ、会話」
「じゃあまず、その指先に溜めている魔力を何とかしてくれよ」
「それもそうだね。じゃ、発射っと」
ロディアは口を閉じると同時に、高く飛び上がって指先をこちらへ向け、闇の魔力から生成した弾丸を撃ち出してくる。
「不意打ちのつもりか?どこまで行っても裏切り者らしいな」
俺はその弾丸を斬り捨て、右肩に風の魔力を溜めながら懐へ。
「ちぇっ、バレちゃった。……って、それすら警戒できないほどバカだったら、ここまで来れてないか」
「一々うるさいな、ホントに!」
しかし、その魔力を纏ったタックルが当たる事は無く、ロディアはちょうど身体一つ分、後ろへ下がっていた。
「でも、ここまでだよ」
タックルを外した俺の頭上を、闇の魔力が覆う。
「【駆ける風】!」
俺はロディアの左腕の側へ回り込む事で回避するが、そこにはロディアの左手。
「甘いよ!」
「ぐべぇぁっ!」
そのまま顔面に拳を受けてしまった。
「ジィン!大丈夫!?」
「な、何とか……!」
岩に背中を打ちつけられたまま、俺は親指を立てる。
「しばらく下がっていなさい、ジィン。皆の拘束は解いた。正直、この人数でも勝てるかどうか分からないけど……少し休むくらいは出来るハズよ」
「お、お願いします……」
「……という訳だから。行きますわよ、皆さん」
「任せろッ!はぁぁぁぁぁ!」
先陣を切るは、マーズ・バーン・ロックスティラ。
「やぁやぁ、マーズ。君も出会った時と比べると、かなり強くなったね。昔は技も魔法も無かったのに」
「そうだな!お前と歩んできた道は、だから私は、今も臆せずお前に立ち向かえる!」
「へぇ。確かにパワーも剣の扱いも、短期間で歴戦の戦士並みになってるからねぇ。ちょっと僕も怖がらなきゃいけないかな」
「あまりナメてもらっては困るな。喰らえ、絶技……【怒羅剣】!!!」
「うわっ、ぐォォォォォッ!?」
完全に油断していたのか、ロディアはマーズさんの必殺技とも言える『怒羅剣』を避けることができず、左脇腹を抉られた。
「ふぅ、ふぅー……。どう、だ、ロディア!」
「ぐ、ぐググぐグググぐ……ハァ!いヤぁ、危なイとコロだったよ。ちょっと、まともに喋れなくなるところだった。この身体を取り込んだばかりの時を思い出すね」
「くっ……思ったより効いていない、ようだな」
「まあね。でも、ちゃんと身は削られたよ。今は闇の魔力で覆ってるけど、回復まではちょっと時間がかかるかな。大きいカサブタみたいなものだよ」
「仕方あるまい。ならば、もう一撃叩き込めば良いだけの話だな……!」
マーズさんは前方へ大きく踏み込みながら、軌道を予測しづらいように、構えを変えながらロディアへ接近。
そのままもう一度、大きく息を吸い込んで予備動作へ入った。
「いやいや。相手は悪魔だよ?しかも、結構有名な。同じ轍は踏まないって、分からないかい?」
「なっ……」
ロディアはそれを見るなり、マーズさんの背後へ回り込む。
「【デモンセスタス】」
「ぐ、ぁ」
そして闇の魔力から生成した巨大な手を用いて、マーズさんの剣と右肩を粉砕したのであった。




