第百三十七話 混乱するアドラ
「アドラさん!目を覚ましてください!」
一方。
俺、ガラテヤ様、バクラディは、暴れ回るアドラさんを抑えていた。
「駄目ヨ。アタシは真相に気づいてしまったの。……ねぇ、ジィンちゃん達。何で、あの壁は存在してると思う?」
「私はお母様に、世界は果てまで辿り着いたら終わりだと、そう教わってきたけれど……それと関係があるとは思うわ」
「何で壁があるのかっつってもなァ。世界がそこまでだからじゃあねェのかァ?ぃよっとォ!」
「……半分正解、といったところかしらネ」
バグラディが振るう斧を、アドラさんはスルリと交わして槌を振りかぶる。
「うおッ!?」
「させないわ」
間一髪、ガラテヤ様がアトラさんを空気の弾丸で吹き飛ばした。
「……アタシね、ずっと考えてたの。今まで、ジィンちゃん達と一緒に歩いてきて、世界の果てを見た。世界の端っこは、間違いなくこの壁ヨ。でも」
「でも、何ですか!」
「その壁は……誰が作ったのかしらン?」
「それは自然に……あら?」
ガラテヤ様がそう言いかけたところで言葉を止める。
「そうヨ。自然に、あんなに高くて真っ直ぐな壁ができるは、とても思えないのヨ。……正直に言うワ。アタシ、さっきの攻撃で魂をあの悪魔に奪われてるの」
「「「はァ!?」」」
「でもネ。アタシは今、自分の意思でアナタ達を裏切っている。本当にアナタ達のために尽くすなら、今すぐ自死を選べば良いハズだって、思うデショ?」
「確かにそうね……。ねぇ教えて、アドラさん。まずは武器を納めて、話を……」
「それは無理な相談ネ。アタシ、不思議だと思っていたのヨ。ジィンちゃんが死んだ後に蘇った人だってコト。嘘をついているようには見えなかったし、『信奉者たち』の人達も、その場に居合わせた司教から噂に聞いてたみたいだったから、本当だとは思ってたのヨ?」
そう言いながら、アドラさんはハンマーを構えた。
「まあ実際、本当ですから。俺、今生きてますし。ロディアに殺された時も、それから生き返った時も、そこそこ目撃者いました」
「それがウソで、アナタがジィンちゃんそっくりのバケモノだったら、どんなに楽だったかしらネ。……アナタは人間の身体を持ちながら、ガラテヤちゃんの守護霊?みたいになって生きてるのよネ?」
「そうです。俺はガラテヤ様がいないと、霊力の供給が無くなっちゃって。今度こそ本当に死んじゃいます」
「ジィンちゃんとガラテヤちゃんが『霊』の魔力って言ってた、特別な力……あの力こそ、アナタ達が危険な存在である証なのヨ」
「……いきなり何言ってんだ、このオッサン」
「オッサン!?失礼しちゃうワ!バグラディちゃん!?」
アドラさんの身体は空高くへ飛び上がり、振り下ろされるハンマーはバグラディへ狙いを定める。
「ハッ。軌道が丸見えだぜェ。【怨禍】ァ!」
「キャァーッ!?」
しかしバグラディは、斧で渦巻く炎を放ち、アドラさんを炎で包み込み、動きを封じた。
「で、説明してもらうかなァ。どういうことだァ?あの二人が危険な存在だってのはよォ?」
「もう、察しがつかないかしらネ……!ジィンちゃんとガラテヤちゃんの力は、果ての『壁』を作った存在によって与えられたものなのヨ……!」
「はァ!?」
「な、何を突然言うんですか!」
「ロディアに吹き込まれたのかしら!?」
「それもあるけど……あくまでも追い討ち程度ヨ。あの壁を見た時、全て繋がったのヨ!そして、『信奉者達』が信じてる聖典のに書かれている……部外者のアタシ達でも普通に聞く、偉人の数々……!あの人達は全員、『神から遣わされた』人、でショ!?」
「……何が言いたいんですか、アドラさん!」
「アナタ達にその記憶があるかは分からないけれど、神はアナタ達を使って……再び、《《自分の描いた理想の世界を、人間達に強いるつもり》》なのヨ!」
そう叫んで、アドラさんは「怨禍」によって生み出された炎の縄を解き、バグラディの斧をハンマーで弾く。




