第百二十七話 知られざる山の秘密
翌日。
俺、ガラテヤ様、マーズさん、ファーリちゃん、バグラディの五人は、アンドレアが残したパワードスーツのヒントを探るため、チミテリア山の探索を始めた。
ヒントとなるのは、アンドレアやハニーヤについて記された情報、そのごく一部。
そしてその中に、目印となりそうなものや現象に関する記述は、さらに少なかった。
書いてあったのはせいぜい、雪が降っているだとか、動物や魔物どころか、植物がロクに生えることも許されない土地だとか、至って普通の雪山にありそうなことばかりである。
しかし一つ、奇妙な情報を見つけた。
「……ジィン?」
「ああ、気づきましたか。俺、また少しオバケになってます」
何か霊的な周波数、或いは存在としてのチャンネルのようなものが変わる、あの感覚。
アロザラ町では稀に、そしてごく短時間の間、何かしら存在が霊や魔力に近いものにだけ身体が透けるようになる程度のものであったが、それが少しずつ酷くなってきている実感があった。
このままでは、ナナシちゃんから貰った刀は除くが、そうではない装備や荷物は透けてしまうかもしれないと、俺は皆に予め伝えておく。
そしてあろうことか、それが何故かヒントとして本に書いてあったのだ。
この情報が示すのは、アンドレアやハニーヤが、少なくとも俺やガラテヤ様のような存在であったということ。
蘇生か、不思議な人との出会いか、或いはそれを目の前で目撃したのか、それは分からない。
しかし、何か普通の人間ではなかったが故に、霊体になってしまうということが、例のパワードスーツか、彼らのメッセージか、そのどちらかに関係するのだろうということは明らかであった。
ここまでまとめておいて、明らかなヒントも他の情報も、「これはこのヒントだ」と断定することまではできていないというのは難しいところだが、それは裏を返せば、それ程までに大きな秘密が隠れているということの裏返しにもなる。
あのパワードスーツは、この世界に現存するとされている技術では考えられないものだ。
そして、その情報と紐づけられているハニーヤというのもまた、常人では考えられない程の「何か」に触れ、死んでしまったという。
これは個人的な推測の域を出ないが、パワードスーツの秘密と、ハニーヤを絶命させるに至った「何か」。
その二つは、俺とガラテヤ様のように、何かしら特殊な、魔法が当たり前なこの世界においてもオカルト扱いされるような存在に関係しているような、そんな存在でありながら、それどころか、俺のような蘇生した人間や、ロストテクノロジーといったものの根元にもあたるであろう情報が潜んでいるのではないかと、俺はそう思うのだ。
「……ん、あれ、何?」
「石碑か……?少し、見てこよう。後からついてきてくれ」
ゆっくりと舞い降りていく雪の中、積もった雪から、遠くで姿を現した石碑を見て、マーズさんが走り出す。
ファーリちゃんの膝下が埋まってしまう程の雪の中で見つけた黒い石の塊は、確かに文字が書いてあるように見えた。
しかし、マーズさんが石碑へ近づいた瞬間。
「……こ、これはッ!?」
石碑がキラリと光り、分裂したかと思えば、さながら誘導弾のようにマーズさんへと飛んでいこうと、魔力を帯び始めた。
「離れてマーズ!」
「ウオオオオオッ!間に合いやがれ……!【戦終落】!」
バグラディは斧を構え、回転しながら炎を纏った斬撃を繰り出すことで、石碑の欠片を一撃で全て粉砕。
それにより事なきを得たマーズさんだったが、安心できたのも束の間。
「……これ、罠かも」
「早速、戦闘開始かしら。ジィン!」
「俺、今オバケなんですけど戦えますかねえ」
「ああ……そうね……。でも、無理なら無理でサポートをお願いするわ。とりあえず今は、そのオバケの状態で何ができるのかを探るのも兼ねて、戦えるように構えて」
「了解、ガラテヤ様!」
俺達は、地面から「ゴゴゴゴゴゴ」と音を立てながら伸びてくる石碑……もとい無人戦闘ロボットと、雪の中で戦う羽目になってしまったのであった。




