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第百二十六話 雪景色

 馬車を放棄してから一週間後。


 徒歩で北へと向かった俺達はついに、真っ白な景色の中に埋もれるチミテリア山へと辿り着いた。


「ふぅ。やっとひと段落、といったところね」


「そうですね。いやあ、ハードな道のりでした……」


「いやはや、現役を退いてもトレーニングを続けたことを、これほどありがたいも思う日も珍しいですな」


「……ムーア先生、おじいちゃんなのに元気」


「ホッホッホ。腰だけはついてこない時もありますが、戦士たるもの、健康が一番ですぞ!よく食べて、よく遊んで、よく寝る、ただそれだけで、強い身体は手に入ります。強くなりたくば、基礎こそ、忘れてはなりませんぞ」


「わかった。がんばる」


 一人だけピンピンしているムーア先生をよそに俺も含めたパーティメンバーは、既にクタクタになってしまっていた。


「こんなに過酷な道、現役の頃ですら来れてなかったのに……パワードスーツ無しで徒歩はキツいわよー!」


 左腕と左脚の機能が鈍っているケーリッジ先生は、メイラークム先生に肩を貸してもらっている。

 しかし他のメンバーにも増して足場の悪さに苦しめられており、身体が思うように動かないことに、肉体面以上に精神面でのダメージが大きいようであった。


「まあまあ、ケーリッジ先生。アロザラ町で解いた謎のこともありますけど、貴方が使うパワードスーツの安全性を確かめるために、ここまで来てくれているんですから。頑張りましょ?」


「そうだけど……ごめんね、メイラークム先生。ずっと肩貸してもらっちゃって」


「構わないわよ。あのケーリッジ先生が今、隣で私の肩を借りてると思うだけで興ふ……満足だもの」


「メイラークム先生?」


 また、メイラークム先生の様子が時々おかしくなっているのは、いつものことである。


 さて、俺達は魔法薬を使いながら、その反動分を取り返すための休憩も挟みつつ、やっとのことで山の麓まで辿り着いたのだが……。


「こ、これは流石に……身体に堪えるな……」


「果てって呼ばれてンのはァ……伊達じゃあねェってなァ……ゼェ……ハァ……」


「寒いって、こんなに体力奪われるのネ……。一日歩き続けるよりも、まだウチで丸三日、武器作ってた方が楽に感じるワ……」


 魔法薬が身体に合わなかった三人は、俺達よりもさらに辛そうであった。


 休憩を挟んではいるものの、疲労が少しずつ蓄積しているようであり、寝て起きた時には満身創痍といった日も少なくなかった。


 ここで一度、風に当たらない小さめの洞穴にでも入り、火を焚いて暖をとりたいところである。


 俺達は麓から少しだけ山を登り、洞穴へと入っていった。


 それから数十分後。


 俺達は焚き火の周りへ集まり、洞窟の中に仮の拠点を作った。


 これからチミテリア山を探索するにあたって、拠点無しでは不安が付き纒う。

 故に何名かはここへ残り、時と場合に応じたメンバーで、何回かに分けて山を調査することになったのである。


 そして、この洞穴はそこまで広くないらしく、入り口から歩いて数分で、奥まで着いてしまう程だった。

 しかし魔物もおらず、また水源もみられたため、拠点としては悪くない場所だろう。


 少々不安な要素もあるが、ここよりマシな洞穴が他にあるとも限らない。

 バグラディは拠点の位置を示すため、持ってきた木の棒に布の先を巻きつけて即席の旗を用意し、洞窟の入り口に立てかけたのであった。


 いよいよ、チミテリア山の探索が始まる。

 パワードスーツの秘密と、北の果てに残された謎の真相を求めて。


 しかしこの時の俺達は、知らなかった。


 ただ、何も知らなかったのだ。

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