第百十一話 アンドレア鍾乳洞
翌日。
俺達は昼前に準備を整え、アロザラ町を出発した。
次に行く先は、「アンドレア鍾乳洞」。
古くから堆積している石灰岩が、そのままの形を残していることで、国内でも有名な洞窟ではあるが……その反面、あまりの広さと様々な天然の罠が原因で、入り口より奥に立ち入る人はほとんどいないのだとか。
少し奥まで行っただけの冒険者が、命からがら脱出した……などという話は、学園の基礎科目に設定されている地理の講義で聞いたことがある。
そのまま帰ってさえ来れなかった人も、そこそこな人数いることだろう。
そして、俺達はこれから、そんな命知らずと同じ行動をしようとしているのだ。
……向こうから襲ってくることが前提とはいえ、そんな悪魔とマトモに戦おうとしている時点で、今更言えたことでは無いが。
アンドレア鍾乳洞では、入り口の音がよく響くことから、入り口の近くにドーム型の間があり、そのドームを中心に多数の道が広がっているものと思われる。
手分けした方が効率は良いのだろうが、何かあった時にメンバーを見捨てる訳にもいかないため、全員で同じルートを歩くことになるだろう。
しかし効率は勿論、重みやスペースの関係で、悩みの種が増えない訳ではない。
特に重みが問題であった問題は、道の下が空洞だった場合、全滅の直接的な原因にもなりかねない。
……では、俺達が何故そこまで危険な鍾乳洞を目指しているのか。
それは、鍾乳洞の名を冠する「アンドレア」というの遺産が眠っているという、かなり信憑性が高い噂の真相を確かめに行くためである。
錬金術師アンドレア。
他の人間には理解できない程に難解な理論を展開し、魔法と錬金術師を高い次元で融合させた数々の道具を製作しようとしたものの、アナーキストであった彼の武装蜂起を恐れた王国政府に暗殺された……偉大でありながら、愚か者とされる錬金術師である。
学園での話を聞く限りではあるが、実際に科学と魔法、それぞれの技術力を数値化して合計値を出そうものなら、先進国であっても負けかねない程ではないか……と、俺とガラテヤ様の中で仮説が立っている。
そんなアンドレアの遺産というのは、彼が製作した道具の設計図は勿論のこと、暗殺されたために製作できなかった道具の情報、更には彼の理論を片っ端から記したノート……そのような類のものであるらしい。
情報ソースは、アンドレアの死後に数十年後に見つかった、彼の友人が残した遺書である。
その友人曰く、自身も危険人物として殺されるのは時間の問題であるとして、アンドレアの死後、せめてその技術が政府に隠蔽或いは廃棄されないことを願って、鍾乳洞の奥へ、自らの遺体ごと隠したのだとか。
「そろそろ着きますぞ、ご準備を」
馬車を運転しているムーア先生が、馬車のカーテンを少し開いて声をかけてきた。
俺達は車内に置いていた装備を見に纏い、荷物を持って降りる準備をする。
アンドレア鍾乳洞。
錬金術師の墓場であり、探究心と好奇心に取り憑かれた冒険者達の命を刈り取ってきた洞窟は、すぐ側にある。
墓を荒らすようで悪いが、その真相を暴かせてもらうことにしよう。




