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第九十五話 死体蹴り

 劣勢、どころの騒ぎでは無い。


 俺とファーリちゃんの必殺技とも言える剣技が、まるで大したダメージになっていないのだ。


「確かに、君達は強いね。その若さの人間で、ここまでの実力を持つ者は、そう多くなかったよ。だから、僕が人間として生きる上で主に使っていた肉体は倒せた。でも……僕の本体を取り込んだ、それも現時点では『最上級の器』と……所詮は急造品の『あの身体』とじゃあ、訳が違うんだよね」


 ロディアはそう言いながら、右手に闇の魔力から剣を生成していた。


「最上級の器……ね。妙な言い回しをするんだな」


「ええ。本当に、意地の悪いオバケは困ったものね」


「いじの、わるい……おばけ?……さっきから、二人が何言ってるのかあんまりわかんない……」


 ファーリちゃんだけ、少し話に乗り遅れている。

 仕方ないことだ。

 彼女は、俺とガラテヤ様がこの世界に転生した人間だということを知らないのだから。


「おっ、ガラテヤ。気づいていたんだね」


 振り下ろされる闇の剣を避け、ガラテヤ様は指先から突風を弾丸のように放つ。


「当然よ。悪魔に身体は無い、そうでしょう?」


「うぐぉっ!……うんうん、大正解。だから君達の言うロディアは、ただのオバケだよ。そして……このバケモノこそが、本体を入れるに相応しい……今のところ、最高級の肉体なのさ。どう、結構悪魔っぽいでしょ?人間の身体なんだよねー、これ」


 ガラテヤ様の射撃により左肩を抉られたロディアだが、すぐに傷は癒えてしまい、こちらも大したダメージにはならなかった。


 それにしても、「人間の身体」という文言は気になるものだ。


 誰か、素体となった人間がいたのだろうか。


 それも、ロディアのような悪魔が好んで入り込む程に特殊な性質をもち、かつ、この洞窟にいた人間……。


「……ロディア。今から俺は、その答えを聞きたくない質問をする」


「聞きたくないならしなくても良いよ」


「軽口はよしてくれ。もう、そういうテンションじゃないんだ」


「あー、そう。で、何だい?」


 器に心当たりがあるとすれば、それしか無いのだ。


 何故、父さんがロディアの本体……「マルコシアス」の器になっているのかは分からない。


 抜け殻同然になっていたところを乗っ取られたのか、或いは何かしら騙されたか利害が一致したかで、父さんが契約した可能性もある。


 しかし、いずれにせよ……今の、マルコシアスに乗っ取られている状態が、父さんの望んだ展開とは思えない。


 ここで、今のロディアを「ただの敵」として処理することができれば、どんなに良かったことか。


 かつての仲間として、未練が無いわけではない。

 しかし、それでも今のロディアは間違いなく敵だ。


 故に、問わなければならない。


「『ジノア・セラム』を……どこへやった?」


 もう、何があったかは大体察している。


 しかし、信じたく無いのだ。


 その事実を、奴の口から聞くまでは。


「……分かってて何を今更ぁ。そのジノア・セラムっていうのは、他ならぬこの身体のことだよ」


 分かっていた。


 分かっていたのだ。


 それでも、この言葉を聞いた瞬間。


「【十文字(じゅうもんじ)】」


 俺は考えるよりも先に、手と脚の方が動いていた。

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