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影から生えてくるマンドラゴラをスープにして売るだけの簡単なお仕事

作者: 芋もち

 マンドラゴラという、動物系なのか植物系なのか分からん魔物を知っているだろうか。



 根っこが人間みたいな形をしていて、無理矢理引っこ抜くと聞いたものを死に至らしめる絶叫を上げる、炒め物にして良し、煮物にしても良しで、魔力を回復させる薬の材料にもなる、万能の食材である。

 ちなみに、薬にしなくても料理して食べた場合もある程度魔力は回復するそうな。

 回復量は微々たらものらしいが。



 そんな話はさておき。この万能食材なマンドラゴラだけど、なんと私の影から生えてくる。

 とっても大事なことなので、もう一度言おう。



 私 の 影 か ら 生 え て く る 。



 マンドラゴラとは、魔物である。

 んでもって、繁殖方法は普通の植物と同じ。花が咲いてそれが実となり弾けて中から種が飛び出し、地面に落ちて芽吹く。



 だから普通は、人間の影から生えてくることなんざあり得ない。

 天変地異が起きてもあり得ねえことなのである。だがしかし、私の影から生えてきやがった。

 五歳の頃から生え続けてやがるから、もうかれこれ十二年もこの謎現象は続いている。ちなみに生える数は、一日十株。



 で、この影から生えてくるマンドラゴラは通常の物と違って、どいつもこいつも美味しそうな人参の見た目してるっていう。

 しかも先端が二股に分かれていて、それを足みたいに動かして歩くのだ。上に生えてる葉っぱの部分は手のように使うことも可能。しかし穴を自力で掘ることは苦手らしく、私が埋めてやらないと枯れて死ぬ。

 んでもって、口も無いのに「ピギー」と鳴く。周りを死に至らしめる効果は無いので別にいくら鳴いても構わんが、どこから声出してんだろうな?



 これがどうしてマンドラゴラと分かったかというと、専門の研究機関に新種の魔物だって一株提供したら、マンドラゴラの変異種ですねって言われたから。



 謎は深まるばかりだった。

 何故に私の影から変異種が生えてくるのか。



 だがしかし、私の影から生えようが、見た目がどんなにマンドラゴラからかけ離れていようが、見た目だけじゃなく味まで人参に変わってしまおうが、元の物と同じくらい美味しいことに変わりはない。

 あと、魔力が回復するという薬効も変わらない。どころか、こっちはちょっと強くなってるっぽい。

 昔人参マンドラゴラを使ったスープを知り合いの魔術師のおっちゃんにあげたら、魔力が回復したって驚いてたからね。



 というわけで、私はダンジョンがある町でマンドラゴラを使った、魔力回復スープを売ることにした。

 魔力回復薬よりちょっと安めの値段設定にして。



 最初は疑いの眼差しもあって中々売れなかったけれど、それでも何人かが興味本位であれ買っていってくれて、そこから噂が広まってある程度の収入を得られるようになった。

 おかげで最近、小さいながらも庭付きの家を買えた。もちろん庭には、影から生えてきたマンドラゴラを何株か植えている。

 掘り起こしても「ピギー」と鳴くだけだし、基本的に植えた場所から動くことはないので魔物なのに無害。

 それでいいのかと思わなくもないが、こちらとしては助かるのでツッコミは心の中に留めている。



 それに加えて、こいつ等は捌かれる段階になっても「ピギー」と鳴くだけだ。

 抵抗らしい抵抗はせず、綺麗に水で洗われてまな板の上に置かれ、いざ包丁で真ん中から真っ二つに切られそうという状況になっても、「ピギー」としか鳴かない。

 最近では、洗おうとしたら自ら洗われにくるのはなんなの。



 本当にそれでいいのか人参マンドラゴラ。

 普通のマンドラゴラは絶叫を上げ、それでも逃げられなかったらジッタンバッタン暴れて対抗するのに。

 本当にそれでいいのか。お前等一応魔物だろ。もうちょっと動けよ。



 そんなことを考えながら、今日も今日とても人参マンドラゴラを調理する。

 というか収穫しておいてなんだけど、大人しく籠に収まってるの魔物として本当にどうなの。

 水で洗おうとしたら、籠から飛び出して自ら洗われるのも本当にどうなの。



「こいつ等もしかして、自分から進んで食べられに行ってるとかそういう感じじゃないよね……?」



 大人しく洗われている人参マンドラゴラたちを見ていたら、そんな考えが浮かんだ。



 まさか。いやいや、まさかまさか。それは無いだろう。

 そもそもこいつ等魔物云々以前に、意思があるようには見えない。

 ……もしや、本能的に食べられに行っているとかそういう……?

 いやいやいやいやいや。そんな馬鹿な。



「ピギー」



 そんな馬鹿な……。



「ピギー」

「ピギー」

「ピギー」



 馬鹿、な……。



「「「ピギー」」」



 ……よし。もう考えるのはやめようそうしよう。

 いっぱいスープ作って、たくさん売ろうそれがいい。



 いつも通り抵抗しない人参マンドラゴラたちを捌き、売り物用のスープを作るために購入した大鍋にドボドボと投入。

 他にも肉とキャベツとじゃがいもなども入れて、ぐつぐつと煮込む。



 前日に安い食材を買ってくるので、スープに入れる具材は日替わりだ。

 野菜オンリーな時もあれば、今みたいに肉を入れることもあるし、魚や卵などを入れたりすることもある。

 一番喜ばれるのは、肉の入ったスープだ。常連さんに定番メニューにしてほしいと言われる程度には、人気がある。



 スープが出来上がったら、鉄製の水筒にスープを移す。

 この水筒には魔法がかかっていて、この鍋くらいの量なら余裕で入るし、時間経過しても中身が温くなったり腐ったりしない上に、重さを感じない。

 凄く便利なのに、骨董品店で二束三文で売られていた時はびっくりした。

 水筒と一緒に魔法で容量を拡張されたリュックが、これまた二束三文で売られていたのにもびっくりした。

 あそこの店主、見る目なさ過ぎではなかろうか。



 リュックには使い捨ての器をたくさん入れて、水筒は紐が付いているので肩にかける。

 今日影から生えてきた人参マンドラゴラはもう庭に植えたし、準備はばっちり。



「よし、行きますか」



 そしていざ、外へ出ようと玄関のドアを開けようとした時。



「キュー」



 背後から、聞いたことのない鳴き声が聞こえた。



 なんとなく嫌な予感がしつつ、後ろを振り返る。

 そこには、私の影からどっこらせと言わんばかりに出てきた馴染みのあり過ぎる紫色の物体が。



「さつまいも、だと……!?」



 こうしてまた新たないマンドラゴラが、私の影から生えてくる様になったのだった。

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