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「はやいところやっつけてください」と言われましても……

「アイ様、今日から授業に参加されるのですよね? それでしたら、はやいところやっつけてください」


 テラスにある真鍮製のテーブル上には、すでに朝食が準備されている。


「目玉焼き?」


 彼女が引いてくれた真鍮製の椅子に腰かけながら、卵料理がなにかを確認した。


「もちろんですとも。料理長はアイ様を熟知されていますから」


 リーゼは、「エッヘン」といった感じで応じた。


 彼女は、事情があって子どもの頃から皇宮で働いている。まだ若いけれど、一番のベテラン。だけど、ちっともえらそうにしない。優秀すぎる侍女なのである。


 なにより、侍女にしておくにはもったいない美貌の持ち主。


 じつは、彼女には「皇帝陛下の市井のレディに産ませた子」という、そんなまことしやかな噂が流れたことがあった。


 いまとなっては、それが真実かでたらめかはどうでもいいことだけど。


「もちろん、半熟状態です。料理長は、食パンをアイ様バージョンの分厚さに切っていますから、目玉焼きとカリカリベーコンをのせてお召し上がりください」


 そう勧められ、さっそくそうした。


 すべてがわたしの好み。


 昨夜のサンドイッチといい朝食といい、さすがは料理長だわ。


 彼もまた、子どもの頃から世話になっている。


 わがまま放題のわたしのリクエストを、いつも完璧に応じてくれた。


 料理長こそが、わたしの夫になるべきだと思っていた時期もあった。


 というわけで、テーブル上にあった料理の数々は、等しくお腹の中におさめた。


「それで? さっきの『はやいとこやっつけてください』、というのは?」


 お腹がいっぱいになって落ち着いたから、そう尋ねてみた。


「みなまで言わせないでください。きまっていますよね?」


 なんてこと。リーゼは、わたしのことを全知全能の神かなにかと勘違いしているわ。


 まぁ、彼女の言わんとしていることはわかっているんだけど。


「とにかくひどいのです。アイ様なんてまだ古顔ですし、『悪女』っぷりには慣れていますからいいんですけど、彼女はひどすぎます。侍女たちだけでなく、執事や庭師や雑用人まで迷惑をしています。だから、最初からアイ様が目を光らせて牽制してくれればよかったのです。それを、もったいぶって屋敷へ帰ってしまわれて……」


 ちょっ……。


 心の中で絶句した。


 わたしのせい? 騒ぎの元凶はわたしなわけ? わたしが悪いの?


 というか、リーゼ。あなた、わたしをなんだと思っているの?


「冗談じゃないわ。どうしてわたしが皇宮の使用人たちを守らなければならないの? そういうことは、皇帝陛下や皇妃殿下に訴えなさい」

「アイ様ですから」


 リーゼは食器を片付ける手を止め、わたしを見おろし断言した。


「『孤高の悪女』の悪っぷりは、この皇宮で知らない者はいません。ある意味では、その悪行の数々は伝説化しています。正直なところ……」


 彼女は、ムダに視線を周囲に走らせた。そして、声を潜めて続きを言った。


「皇族よりよほど頼りになります。その悪意と悪知恵で見事とっちめてください。お願いしましたよ」


 そして、彼女は食器類をすべて回収し終え、カートを押してテラスから室内に入ってしまった。


 いろいろな意味で衝撃的だったことは言うまでもない。


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