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ほんっとバカバカしい

「ブハッ!」


 ショックのあまり、口に含んだばかりの紅茶をふきだしてしまった。


「まあっ! アイ、大丈夫? お茶が熱すぎたかしら?」


 アポロニアは、室内に駆け込んだ。


 彼女は、子どもの頃から足が異常にはやい。皇宮内で追いかけっこやかくれんぼをしたとき、ものすごいはやさで逃げたり追いかけてきたりしていた。


 いまもそう。瞬きする間もなく室内に入って来たかと思うと、タオルを持って戻って来た。


 彼女のシュレンドルフ伯爵家は、このヴェルツナー帝国建国時より続く名家の一つで、聖なる力を受け継いでいると言われている。


 それはともかく、彼女に乗馬服の上着やズボンを拭いてもらいながら、あらためて誓った。


 ぜったいに彼女とコルネリウスをくっつけ、しあわせになってもらうのだと。




 わたしが修行に参加するようになっても、マイペースすぎる「良い人」は、やはりいつも先生たちやカサンドラとその取り巻きたちに虐められたりからかわれている。


 カサンドラとその取り巻きたちは、わたしがいないところでやるのである。


 だから、つねにアポロニアについていなければならない。


 だれかとつるむのがなにより嫌いなわたしが、である。


 だけど仕方がない。



「そんなこともわからないのか?」


 ヴェルツナー帝国史の授業中、シュナイト侯爵夫人の義弟にあたるなんとかという先生がアポロニアに言った。


「本の虫」のエリーザからきいたところによると、ちょっと危ない思想の持ち主らしい。その思想のお蔭で、シュナイト侯爵家一族だけでなく教授たちからもにらまれ、追いだされたとか。


 だけど、シュナイト侯爵と侯爵夫人が思想を塗り替える一環として、今回のこの皇太子妃候補の帝国史の先生として推薦したのだとか。


 そんな危ない思想の持ち主の先生を推薦する方もする方だけど、それを許した方も許した方だわ。


 彼のダラダラぐでぐでの説明をききながら、彼の問題は思想だけではないことに気がついた。


 もともとはなんの専攻だったの? と問いたくなるほど間違っているということを。


 それに気がついているのは、わたしとエリーザだけ。エリーザは、さすがに「本の虫」だけあって歴史書や資料に通じている。だから、誤りだらけの授業に退屈しているみたい。


 しかし、不思議なことにカサンドラは、先生の誤りだらけの質問にハキハキと答えている。もっとも、回答も誤っているけれど。


 カサンドラは、他の政治や経済や数学や物理学といった皇太子妃に必要? とツッコミたくなる授業も含め、どの授業でも完璧に答えている。


 すぐに気がついた。


 各先生たちって、いずれもシュナイト侯爵家所縁の人たちばかりだけど、とにかく先生たちはあらかじめカサンドラに質問する内容や勉強する項目を教えている、ということをである。


 ついでに質問する内容に対する答えも教えているに違いない。


 それだったら、お間抜けバカのカサンドラでも堂々と正解を言えるにきまっている。


 数日間ですべての授業を受けてみた。勉強だけではない。テーブルマナーやあらゆる公の場を想定したマナーといったことから乗馬や球技、カード遊びやチェスまで。そのどれもがカサンドラの為の授業なのである。


 正直、バカバカしくなってきた。


 カサンドラの父親であるヴァレンシュタイは宰相である。というよりかは、ヴァレンシュタイ公爵家自体が、宰相の地位に就く家系である。


 この皇太子妃候補を選ぶ一連のイベントも、結局はカサンドラが堂々と皇太子妃になる為のお膳立てにすぎない。わたしも含め、彼女以外のメンバーはただの引き立て役なのである。


 いかにカサンドラが皇太子妃にふさわしいレディであるかを強調する為の。


 これは、古より伝わるしきたりをうまく利用したまさしくカサンドラの、というよりかはヴァレンシュタイン公爵家の為の一大イベント。


 こんなくだらないことに帝国民からしぼりとった税金を使うなどムダでしかない。


 だからこそ、皇太子本人が声を上げるべきなのである。


 コルネリウス本人が。


「あの、先生」


 こんなくだらない授業を受けるくらいなら、森を探検した方がずっと有意義だわ。


 というわけで、悪女っぷりを発揮することにした。


 危ない思想の持ち主らしい先生は、説明の邪魔をされて気分を害した。


 おもいっきりにらまれてしまった。


 だから、全力でにらみ返してやった。


 すると、彼はうしろへよろめいた。


 フフン。わたしとにらみ合いで勝てると思う?


 ちょっとだけ気分がよくなった。

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