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あらあら、やっているわね?

 広間に入ったと同時に、エリーゼの手がわたしの腕から離れた。


 広間内にさっと視線を走らせ、状況を把握する。


 カサンドラ・ヴァレンシュタインとその取り巻き数名は、こちらに背を向けている。


 それ以外のご令嬢たちは、居た堪れないような表情で花瓶に花を飾り続けている。彼女たちは、わたしが広間に入ってきたのを見て驚きの表情を浮かべた。


 口の前に指を一本立てると、みんなかすかに頷いて作業に戻った。


 先生はいない。


 カサンドラたちの標的になっているアポロニア・シュレンドルフもまた、わたしに気がついた。


 だから、同じように口の前に指を一本立てて静かにするよう合図を送った。


 それから、そっと長テーブルに近づくと、手前にある花瓶を握った。


 たっぷり水が入っている。


 こっそり、なんてことは性にあわない。


 だから大理石の床を踏みしめ、堂々とカサンドラに近づいた。


 カサンドラは、わたしの殺気というか害意というかそういうなにかに気がついたらしい。


 彼女は、唐突に振り返った。


 その彼女におもいっきり花瓶の水をぶっかけてやった。


「キャアッ!」

「キャーッ!」


 カサンドラの周囲にいる取り巻きたちにも水がかかってしまった。


 とばっちりである。彼女たちは、悲鳴を発しつつ飛びのいた。


 お気の毒様。


 ちっとも悪いとは思わないけれど。


「アイッ」


 アポロニア・シュレンドルフが叫んだ。


 あいかわらず美しすぎる。そして、謙虚と慈愛の塊みたいなオーラを発している。


 ブロンドのサラッサラの長髪は、枝毛やくせ毛がまったくなさそう。夏の空の色と同じ蒼色の瞳は、皇太子コルネリウス同様吸い込まれそうなほど美しい。顔の造形も同様で、美しいコルネリウスにまったくひけをとらない。ほんのちょっと小柄なのは、それだけで可愛い。


 彼女を皇太子コルネリウスの隣に立たせておけば、超美男美女としてどこに出してもひけをとらない。自慢出来るカップルというわけ。


 なにより、二人は愛し合っている。


 アポロニアもまた、親衛隊の隊長フリードヒ・シーゲル同様に子どもの頃からの付き合いである。


 二人は、子どものときからずっとずっと愛し合っている。


 そして、アポロニアこそがこの世界、ヴェルツナー帝国の皇宮においてのヒロイン。


 この世界での物語は、彼女を中心に進んで行く。


 当然、ラストはハッピーエンド。美貌の皇太子コルネリウス・ユーヴェルベークと結ばれ、だれからもうらやましがられるというわけ。


 わたしは、この筋書きを確実なものとする為にここにやって来たのである。


 余命三か月。死ぬまでの間に唯一やりたいこと。それが、二人にハッピーエンドをもたらすこと。


 ちなみに、アポロニアはわたしより年長である。それだけでなく、彼女は外見の美しさと中身がほんのちょとズレている。つまり、残念な状態である。


 相手のステータスや年齢に関係なく、じつにざっくばらんな付き合い方をする。


 一方、いまやぬれねずみと化したカサンドラは、赤橙色の巻き毛から水をしたたらせかたまってしまっている。


 髪は、もともとくすんだブロンドだったのを、巷で流行っている染毛をしている。最近、貴族の一部で他国の商人から仕入れたというヘンナで、髪や眉を染めることが流行っているらしい。みんながその流行にのっていて、彼女もその一人というわけ。


 このまさかの展開に、だれもが声もなく立ちすくんでいる。


 全員に注目されているのを感じつつカサンドラににっこり微笑んでみせた。


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